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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第2節/コラム8

コラム8 広島刑務所における社会復帰支援指導

「もういい歳なので,これで受刑生活を最後にしたい。」

「これでもう戻ってこないようにしないと獄死だ。」

広島刑務所において社会復帰支援指導プログラムを受講する高齢受刑者が真剣な表情でよく口にする言葉だと,担当する教育専門官は言う。

広島刑務所では,高齢受刑者等の円滑な社会復帰と再犯防止を図るため,平成24年から全国に先駆け独自に社会復帰支援指導を開始した。その後,グループワークを多く採り入れたり,より多くの受刑者に受講してもらうために単元数を絞り込むなどの改善を進め,29年度には年間で2グループ(各グループ8名)に18単元(1単元1時間)の指導を実施した。

平成25年度から同指導を担当することとなったこの教育専門官は,当初は,高齢受刑者にこのような指導をしても無駄ではないかと否定的な気持ちを持っていたが,指導を重ねるにつれて,その考えを改めたとして,次のように話した。

「高齢受刑者をグループワークになじませるのは時間が掛かるが,初期からグループワークを行うことによって,グループに所属している安心感やグループに対する信頼感が生まれる。刑務所生活が長いと,他人には関わらないという姿勢が染み付いてしまっているが,この指導プログラムに参加することで,他人への共感性が高まっていくことが大きなポイントだと思う。共感性が高まると,自分のことを客観的に見つめ直し,自分について考えるようにもなる。どのようにしたら立ち直ることができるのか,主体的に考えさせる機会を与える意義は,非常に大きい。全ての指導単元を終えた後には,参加者が生活設計や人間関係作りができるようになったと感じる。」

実際,プログラムの終盤である16単元「今後の生活を考える」では,出所日又は出所後一週間でやることとして,受講者から,

「出所したら改めて福祉などについて教えてもらいに市役所に行きたい。」

「年金事務所に行って年金の手続をしたい。」

「身分証明になるので,マイナンバーを取得する。」

といった自ら福祉等の支援につながろうとする発言が相次いで出るという。

この指導には,地方公共団体の職員を含め多くの外部講師が関わっているが,同指導に関わってもらった結果,刑務所の中には,このように困っている人がいるのだと高齢受刑者等の実情を理解してもらうきっかけになるという意義もあるとして,同教育専門官は,次のように説明した。

「外部講師の中には,「刑務所で受刑しているのは,とんでもない人,どうしようもない人ばかりだと思っていたが,実際は,不器用な人,社会全体で助けてあげなくてはならない人が多く収容されていることが分かった。受刑者に対するこれまでのイメージは偏見によるものだった。」と言っていた方もいる。外部講師には福祉関係者が多いので,そういった人たちの受刑者に対する先入観をなくすことができれば,積極的に,出所後の「居場所」と「出番」の確保をサポートする先駆けになってくれる。高齢受刑者が円滑に社会復帰するためには,地域社会に根ざした連携,地域社会とのつながりが必要不可欠であり,そのためにも外部講師の方々に参加していただき,高齢受刑者の実情を知ってもらうことは重要だと思う。」

同指導の課題としては,グループワークが主体となるため,参加する人数を増やすと指導効果が薄まることから,高齢受刑者全員を参加させることはできないことが挙げられているが,これに対しては,特に必要性の高い者を選定していきたいと言う。

最後に,同教育専門官は,「高齢受刑者には,孤独で,普通の生活をする術がない者が多いと感じる。福祉が必要な人も多いが,福祉だけでは孤独は解消されない。ボランティアや地域のサークル活動に関わるなど,何らかの形で地域とつながることが必要だと思う。」と高齢受刑者の再犯防止を推進するための課題を述べた。

グループワークにおける意見発表場面【写真提供:広島刑務所】
グループワークにおける意見発表場面
【写真提供:広島刑務所】