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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第5節/1

第5節 薬物依存の問題を抱える者
1 薬物依存の問題を抱える者の再犯防止に関する各種施策

総合対策では,薬物依存の問題を抱える者に対しては,個々の再犯リスクを適切に把握した上で,そのリスクに応じた専門的指導プログラムや薬物依存症の治療のための医療と,帰住先・就労先の確保のための支援とを一体として実施するとともに,保護観察所,医療・保健・福祉機関,民間支援団体等との連携によって,刑務所等収容中から出所等後まで一貫した支援が行える態勢を強化することとされている。特に,覚せい剤事犯者にとって再使用の危険性が最も高いとされる,刑務所等からの出所等後間もない時期については,密度の高い指導及び支援を実施した上,引き続き医療機関,薬物依存症に係る自助団体等と緊密に連携しつつ薬物依存に対する継続的・長期的な指導・支援の充実を図ること,その家族等に対し,薬物依存者への対応等に関する理解を深めさせ,適切な対応力を付与するとともに,家族等を疲弊,孤立させないための取組を実施することが求められている。さらに,対象者の薬物依存に係る治療,回復段階を見据えつつ,その就労能力や適性を評価し,その時々に応じた就労支援等を実施することとされている。

薬物依存の問題を抱える者については,従前から,施設内処遇及び社会内処遇として,薬物依存等に係る問題性を改善するためのプログラム等が行われている。

刑事施設では,特別改善指導の一つとして,薬物依存離脱指導が実施されている(第2編第4章第2節3項(2)参照)が,その効果的な実施を推進するため,平成24年度から,パイロット施設において,専門的プログラムの試行が継続して実施されてきた。これらの試行結果等を踏まえて,28年度からは,必修プログラム(麻薬,覚せい剤その他の薬物に対する依存があると認められる者全員に対して実施するもの)と専門プログラム(より専門的・体系的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)が整備され,認知行動療法に基づくプログラムの実施が推進されている。また,少年院では,特定生活指導の一つとして,薬物非行防止指導が行われているが,薬物非行少年に対する指導の充実を図るため,重点指導施設(27年度は11庁)においては,他の少年院からも対象者を受け入れるなどして,グループワークによる重点的かつ集中的な指導も実施されている(第3編第2章第4節2項(2)ア参照)。

保護観察所では,専門的処遇プログラムの一つとして「覚せい剤事犯者処遇プログラム」があり,特別遵守事項としてその受講が義務付けられてきたが,平成28年6月からは,薬物再乱用防止プログラムとして,内容を充実・強化したプログラムが実施されている(第2編第5章第2節2項(2)ウ参照)。また,関係機関との連携による一貫した指導・支援として,24年度から,薬物依存症リハビリテーション施設等に対して薬物依存回復訓練を委託して実施している(第2編第5章第2節2項(2)エ参照)。さらに,25年度から,一部の更生保護施設を薬物処遇重点実施更生保護施設に指定し,専門スタッフを配置して,薬物依存がある保護観察対象者等への重点的な処遇を実施する取組が開始された(第2編第5章第5節2項参照)。このほか,薬物依存者の家族等に対する取組としては,全国の保護観察所において,薬物依存のある保護観察対象者等の引受人・家族等関係者に対する引受人会家族会が実施されている(第2編第5章第2節2項(2)エ参照)。

平成27年には,法務省と厚生労働省が共同で「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」を策定し,都道府県や医療機関等を含めた関係機関や民間支援団体が緊密に連携し,その機能や役割に応じた支援を効果的に実施することができるよう基本的な事項を定め,28年4月から同ガイドラインに基づく運用を開始している。同ガイドラインでは,関係機関が,薬物依存は精神疾患であるという共通の認識を有し,相互に連携して,切れ目のない支援を実施することなどが基本方針とされ,刑事施設入所中,保護観察中,保護観察終了後の各段階における支援の在り方や,家族に対する支援の在り方が示されており,薬物依存のある刑務所出所者等に対する地域支援体制の充実を目指している(第2編第5章第2節2項(2)エ参照)。