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平成28年版 犯罪白書 第2編/第5章/第5節/2

2 更生保護施設

更生保護施設は,主に保護観察所から委託を受けて,住居がなかったり,頼るべき人がいないなどの理由で直ちに自立することが難しい保護観察又は更生緊急保護の対象者を宿泊させ,食事を給与するほか,就職援助,生活指導等を行う施設である。

平成28年4月1日現在,全国に103の施設があり,更生保護法人により100施設が運営されているほか,社会福祉法人,特定非営利活動法人及び一般社団法人により,それぞれ1施設が運営されている。その内訳は,男性の施設89,女性の施設7及び男女施設7である。収容定員の総計は2,363人であり,男性が成人1,862人と少年324人,女性が成人128人と少年49人である(法務省保護局の資料による。)。

平成27年における更生保護施設への委託実人員は,8,248人(うち新たに委託を開始した人員6,530人)であった(保護統計年報による。)。各年における更生保護施設へ新たに委託を開始した人員の推移(最近20年間)は,2-5-5-3図のとおりである。

2-5-5-3図 更生保護施設への収容委託人員の推移
2-5-5-3図 更生保護施設への収容委託人員の推移
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平成27年度における更生保護施設退所者(応急の救護等及び更生緊急保護のほか,任意保護(更生緊急保護の期間を過ぎた者に対する保護等,国からの委託によらず,被保護者の申出に基づき,更生保護事業を営む者が任意で保護すること)による者を含む。)の更生保護施設における在所期間は,2-5-5-4図のとおりである。87.3%の者が6月未満で退所している。平均在所日数は76.8日(前年度比0.1日短縮)であった。退所先については,借家(30.6%),就業先(18.3%),親族・縁故者(14.5%)の順であった。退所時の職業については,労務作業(43.1%),サービス業(8.0%)の順であり,無職は37.1%であった(法務省保護局の資料による。)。

2-5-5-4図 更生保護施設退所者の在所期間別構成比
2-5-5-4図 更生保護施設退所者の在所期間別構成比
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更生保護施設では,生活技能訓練(SST),酒害・薬害教育等を取り入れるなど,処遇の強化に努めており,平成27年度においては,SSTが36施設,酒害・薬害教育が41施設で実施されている(法務省保護局の資料による。)。

また,平成21年度から,法務省及び厚生労働省が連携し,適当な帰住先がなく,かつ,高齢又は障害により直ちに自立することが困難である受刑者等に対する地域生活定着促進事業(23年度までの名称は,地域生活定着支援事業)を行っているが(本編第4章第2節5項及び本章第1節2項参照),この事業において,出所後直ちに福祉による支援を受けることが困難な者は,一旦更生保護施設において受け入れ,福祉への移行準備及び社会生活に適応するための指導や助言を内容とする特別処遇を行っている。その役割を担うために指定された施設(指定更生保護施設)では,福祉の専門資格等を有する職員の配置や,バリアフリー等の必要な施設整備等を行っており,28年4月1日現在,71の施設が指定されている(法務省保護局の資料による。)。

さらに,平成25年度からは,薬物事犯者に対して重点的な処遇を実施する施設を「薬物処遇重点実施更生保護施設」として指定する取組を開始しており,28年4月1日現在,全国で25の施設を指定している(法務省保護局の資料による。)。

コラム 特色のある処遇を行っている更生保護施設の例

女性専門の更生保護施設「栃木明徳会」においては,在所者のうち高齢又は障害のある者や退所後の生活上の課題を抱える者に対応するため,他の施設にない特徴として,平成22年から,農作業を通じた更生支援を行っている。同会では,従来から,在所者が抱える様々な内面的な問題の解決と心身の健康増進を目的に,多様なセルフコントロール・プログラムを集団処遇として実施している。農作業を通じた更生支援は,その延長線上に位置付けられるプログラムである。その趣旨は,実際に販売することのできる農作物を育てる作業を通じて,生きる力の回復と就業意欲の喚起を図ることにより,更生につなげようとするものである。また,高齢や障害等のため,通常の就労が困難な者であっても,農作業によって,自己の活動の成果が目に見える形で現れる上,支給される作業手当は,自立に向けた生活資金の足しにもなることから,退所後の自立準備に寄与することが期待されている。この取組は,農業を営む地元保護司による農地無償貸与と農業指導,NPO法人栃木県就労支援事業者機構による資金助成,地元の更生保護ボランティアによる一般市民に対する農作物の販売協力によって支えられている。なお,農作物には,オリジナルデザインの「めいとく野菜シール」を貼付して販売することにより更生保護の広報ともなっている。

他にも,栃木明徳会で行われているセルフコントロール・プログラムには,作業療法士による対人コミュニケーション・スキルの向上を目指したコミュニケーション・ワーク,保健師による健康講座,更生保護女性会会員による手芸品作り,各分野の専門家による講話等がある。これらと併せて,常識的な金銭管理感覚を習得させるための家計管理指導を行い,家計簿と日記の機能を兼ね備えたノートを毎月提出させ,その内容を分析してフィードバックすることを通じて,金銭面での自己管理能力の向上を図っている。

また,栃木明徳会の在所者には,心身の課題を抱えた者,高齢で身寄りがない者,長期刑受刑者等が含まれており,それらの者は,退所後直ちに,種々の生活上の困難に直面する場合が少なくない。そこで,在所中の段階から退所後のケアに至るまで継ぎ目のない支援を提供するため,栃木明徳会では,地域の医療,福祉,保健機関や施設,不動産関係の業者等との間で多機関連携によるアフターケア体制を構築し,それらに要する費用についても,現在,同会が創意工夫をして,自ら捻出している。こうした体制の下で,同会では,退所後の住居の確保を図っているほか,同会退所後も前出の農作業から得られた食物等の現物支給による生活支援,急病時における医療機関への中継,日常の生活相談等にも対応するなどして,退所者の生活の安定を通じた再犯防止を目指している。

農作業を通じた更生支援【写真・画像提供:更生保護法人栃木明徳会】
農作業を通じた更生支援
めいとく野菜シール【写真・画像提供:更生保護法人栃木明徳会】
めいとく野菜シール
【写真・画像提供:更生保護法人栃木明徳会】