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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第5節/2

2 薬物依存の問題を抱える者に関する研究

法務総合研究所が行った薬物依存の問題を抱える者に関する主要な研究は,5-2-5-1表のとおりである。

5-2-5-1表 薬物依存の問題を抱える者に関する研究一覧
5-2-5-1表 薬物依存の問題を抱える者に関する研究一覧

過去の研究では,覚せい剤を始めとする薬物依存の問題を抱える者に焦点を当てた研究(平成7年版犯罪白書,法務総合研究所研究部紀要38,39,研究部報告27,34,法務総合研究所研究部資料(以下「研究部資料」という。)58)のほか,再犯を繰り返すことの多い犯罪の一類型として薬物犯罪を取り上げた研究(21年版犯罪白書)もある。

このうち,平成7年版犯罪白書では,各種統計資料に基づき,我が国の薬物犯罪の動向とその背景,処分や科刑の状況について明らかにするとともに,覚せい剤事犯の受刑者を対象にした特別調査を実施し,過去の調査時と比べて,覚せい剤事犯の受刑者において,男性では高齢化,女性では低年齢化の傾向が認められることなどを指摘している。

また,平成21年版犯罪白書では,同一罪名の犯罪を繰り返す者の多い窃盗と覚せい剤事犯者に焦点を当てて特別調査を実施し,執行猶予者の再犯リスクの要因の分析や受刑にまで至った者の問題性の類型的分析を行っている。その上で,覚せい剤事犯の執行猶予者のうち,約3割が4年以内に再犯に及び,そのうちの8割以上が同一罪名の再犯であったこと,女性の覚せい剤事犯者では,共犯者がいる者の比率が男性よりも高く,かつ,共犯者がいる者は再犯率が高いこと,覚せい剤事犯者についても,居住状況や就労状況は再犯の可能性に影響する要因であるが,居住状況による再犯率の違いは窃盗事犯者と比べて小さい上,居住状況が不安定であれば,就労状況にかかわらず,再犯リスクが大きいなど,就労状況が再犯の可能性に与える影響が限定的であることが示唆されている。また,覚せい剤事犯の受刑者については,覚せい剤の使用を低年齢で開始し又は有機溶剤の乱用経験を有する者は,再入所しやすい傾向のあることが確認されたほか,未成年時に覚せい剤の使用を開始した者の構成比は男性に比べて女性で高いこと,使用動機について,男性では「快感を得るため」という項目が最も多く選択されているのに対し,女性では「嫌なことを忘れるため」という項目が最も多く選択されているなど,男女差がうかがわれることなどが明らかにされている。なお,研究部資料58では,大麻取締法,麻薬取締法違反者等を対象とした特別調査を実施し,21年版犯罪白書における覚せい剤事犯者の特別調査の結果との比較も行っている。

このほか,研究部報告27では,アジア地域における薬物乱用の動向とその対策に関し,香港,韓国,マレーシア,シンガポール及びタイにおいて実地調査を行い,各国における薬物の需要・供給双方の削減に向けた施策を詳細に紹介している。続いて,これらアジアの国々が,自国の薬物乱用対策の参考としているオーストラリア,カナダ,英国及び米国の薬物乱用対策を研究部報告34で取り上げ,国別に,薬物乱用の動向のほか,特色ある薬物乱用防止施策・処遇方法等を紹介している。