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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第3節/1

第3節 高齢者・障害者
1 高齢者・障害者の再犯防止に関する各種施策

総合対策では,高齢又は障害のため,自立した生活を送ることが困難な者に対しては,刑務所等,保護観察所,地域生活定着支援センター,更生保護施設,福祉関係機関等の連携の下,地域生活定着促進事業対象者の早期把握及び迅速な調整により,出所等後直ちに福祉サービスにつなげる準備を進めるとともに,帰住先の確保を強力に推進することとされている。また,地域生活定着促進事業の対象とならない者に対しても,個々の必要性に応じた指導・支援,医療・福祉等のサポートを,刑務所等収容中から出所等後に至るまで切れ目なく実施できるよう取組を強化することが求められている。さらに,高齢者については,その再犯期間が短いことに注目し,刑務所から出た直後の指導・支援を強化するとともに,収容中から,福祉や年金に関する基礎的知識の付与,対人スキルの向上等,出所後の生活へのスムーズな適応を目指した指導を充実することとされている。

高齢者・障害者の再犯防止のための施策として,総合対策の策定前の平成21年度から,法務省と厚生労働省の連携により,特別調整が実施されている。特別調整は,高齢又は障害を有し,かつ,適当な帰住先のない受刑者や少年院在院者に対して,釈放後速やかに福祉関係機関等による適切な介護,医療,年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための特別の手続である(第2編第4章第2節5項及び第5章第1節2項参照)。この取組を通じて,刑事施設,少年院,保護観察所,地域生活定着支援センター等の多機関連携の体制が整えられ,出所者等の受皿の幅も広がりつつある。

刑事施設においては,支援の必要な高齢者・障害者に対する助言・指導等を充実させて確実に社会福祉につなぐため,社会福祉士又は精神保健福祉士の資格を有する非常勤職員を配置しているほか,常勤職員の配置も進めており,平成27年度は,全国26庁(前年度の12庁から14庁増加)に各庁1人の常勤職員が置かれ,28年度は,全国34庁に各庁1人が勤務している。また,受刑者の高齢化により,歩行や食事等の日常的な動作全般にわたって介助やリハビリを必要とする者も増加しているため,出所後の社会適応に向けた指導として,25年度から,健康運動指導士等による身体機能や生活能力を維持・向上させるためのプログラムが実施されており,27年度は14庁で実施された。そのほか,26年度からは,一部の刑事施設において,高齢又は障害を有する受刑者等に対する「高齢・障害受刑者用社会復帰支援指導プログラム」の試行が始められている。その内容は,動作能力や体力,健康管理の維持・向上,生活能力(金銭管理や会話スキル,対人関係スキル等)の習得といった,日常生活を送る上で必要となる基本的な内容に関する指導のほか,更生保護や社会福祉に対する理解を深めさせるための指導,再犯防止や出所後の生活設計に関する指導など多岐にわたっており,28年度は6庁で試行されている(法務省矯正局の資料による。)。

更生保護の面でも,特別調整等における受皿の一つである指定更生保護施設において,福祉スタッフの配置及び施設のバリアフリー化が進められており,社会復帰後の福祉サービスの充実化が図られている(第2編第5章第5節2項参照)。

こうした福祉的支援の充実・強化に向けた取組について,法務省及び厚生労働省は,平成22年度から,全国各ブロックにおいて,「刑務所出所者等に対する福祉支援に係る事例研究会」を開催し,取組の実情等について情報共有や意見交換を行うことで,関係機関相互の連携及び関係職員の能力向上を図っている。

刑務所からの出所等の時点での取組とは異なるが,検察庁においても,知的障害のある被疑者や高齢の被疑者等福祉的支援を必要とする者について,再犯防止・社会復帰支援の観点から,関係機関と連携し,釈放時に福祉的なサービスに橋渡しするなどの調整を行う取組が行われている。具体的には,事案の内容や被疑者の状況等に応じて,捜査中の段階から保護観察所と連携し,更生緊急保護による支援・調整等につなげたり(第2編第5章第3節参照),社会福祉士会,社会福祉協議会,地域生活定着支援センター等に協力を求め,福祉事務所その他の窓口から福祉的サービスが提供されるよう調整するなどした上で,その結果も踏まえて,事件の処分を決したり,求刑において,保護観察付執行猶予に付するよう意見を述べるなど,様々な取組を行っている。また,各地の実情に応じ,関係機関との連携を効果的なものとするため,「社会復帰支援室」等の名称で再犯防止・社会復帰支援等に関する事務を担当する職員を配置している検察庁もあり,東京,大阪等の地方検察庁においては,社会福祉士を社会福祉アドバイザーとして採用し,生活調整や福祉支援等について助言を得るなどしている。