法務総合研究所が行った高齢者・障害者に関する主要な研究は,5-2-3-1表のとおりである。
研究部報告37では,高齢者犯罪に関し,各種統計資料に基づいてその動向を明らかにしているほか,高齢の受刑者及び保護観察対象者に対する意識調査等の特別調査について報告している。具体的には,刑法犯検挙人員に占める高齢者の人員は,平成3年以降,増加傾向にあり,刑法犯検挙人員に占める高齢者の割合は,昭和61年には2.6%であったが,平成17年には10.9%と約4倍に上昇していること,罪名別に見ても,窃盗等の財産犯のみならず,様々な罪名において高齢者が増加していることなどを明らかにしたほか,特別調査の結果により,高齢の受刑者の中には,経済的に困窮していたり健康上の問題を抱えている者が少なくなく,身体・精神機能の衰えにより精神的な不安定感が増していること,高齢の仮釈放者の中には,受刑によって家族との関係が不安定になった者がいることなどを示した。これらの結果を踏まえて,20年版犯罪白書では,高齢犯罪者の実態と処遇について特集を組み,高齢者の刑法犯検挙人員のうち,窃盗,遺失物等横領,傷害・暴行の増加傾向が著しいこと,罪名ごとの特徴として,傷害・暴行では,激情・憤怒にかられ,頑固さやプライドなどを背景として犯行に及ぶ傾向にあること,殺人では,社会の高齢化に伴い,介護疲れの結果,親族を殺害した事犯が多いことなどを指摘している。
研究部報告52では,知的障害を有する受刑者に関する特別調査について報告し,海外の知的障害を有する犯罪者の処遇の実情についても紹介している。同特別調査においては,知的障害を有する受刑者は,生活環境に関する負因を抱えている者が多いこと,全般的に再犯期間が短い傾向があることなどが明らかにされている。また,再犯期間の長短に関わる様々な要因について分析するとともに,刑事施設における処遇状況及び特別調整の実施状況について報告しており,特別調整の対象とすることが望ましい者であっても,本人が希望しないなどの理由により,相当数の者が通常の生活環境調整に移行していることが明らかにされている。
平成26年版犯罪白書では,窃盗事犯者と再犯に関する特集の中で,高齢者の窃盗事犯者についても分析しており,高齢者の窃盗による検挙人員が25年は6年に比べて約4.5倍と高齢者人口の増加をはるかに上回る勢いで増加していること,窃盗の入所受刑者に占める高齢者の割合は,初入者,再入者共に上昇傾向にあること,窃盗による出所受刑者の2年以内再入率は,仮釈放者においても満期釈放者においても,おおむね高齢者の方が50歳未満の年齢層よりも高い傾向にあることなどを明らかにしている。また,男性の場合,家族関係を含め,周囲との対人関係が疎遠で,社会的に孤立していることが,窃盗事犯に至る背景の一つであることを指摘している。