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平成24年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/2

2 就労支援における課題と今後の在り方
(1)矯正施設内から社会内への支援の継続性の強化

近年の経済・雇用情勢の低迷・悪化等を背景に,刑務所出所者等の就職はますます困難となっており,総合的就労支援対策を始めとする施策や民間の様々な努力は,支援を受けた相当数が就職につながるなどの一定の成果が出ているものの(7-2-1-8図参照),仮釈放者全体の保護観察開始時・終了時や,保護観察対象者全体の保護観察終了時の無職率の改善までには至っていないほか(2-5-2-7図及び7-2-1-9図参照),一旦は就職しても職場への定着が困難な者が生じるなど,解決すべき課題は多い。こうした現状を踏まえると,総合的就労支援対策を始めとする就職先の確保から就職後の職場定着支援までを一貫して行う取組の拡充,特に,矯正施設内から社会内への支援の継続性の強化が図られるべきであろう。例えば,矯正施設にいるうちから就職面接を実施すること,就職先と結びついた職業訓練の実施等の出所・出院前に就職先を確保しやすくする取組や,更生保護就労支援モデル事業を一例とする,就職から職場定着までの刑務所出所者等及び雇用者双方に対するきめ細やかで継続的なフォローアップの取組等を推進することが望まれる。更生保護就労支援モデル事業は,ごく一部の地方で実施され,支援対象者数もまだ多くないとはいえ,その就職率,職場定着率とも高水準であり,今後の就労支援が進むべき一つの方向性を示すものと考えられる。その中で,同事業による就職活動支援業務の一層の充実,矯正施設との連携の強化等の方策により,満期釈放となる者の支援ニーズにも対応できる体制を構築していくことも重要である。そのほか,保護司調査(7-3-1-3-1図及び7-3-1-3-2図参照)及び協力雇用主等調査(7-2-1-14図参照)結果に照らしても,雇用ニーズに合わせた施設内及び社会内の職業訓練(公共職業訓練を含む。)や資格・技術の取得支援は有効であると思われ,内容及び支援対象者の拡充が待たれる。

(2)健全な職業観や対人関係能力等を体得させるための指導の強化

就労の不安定が刑務所出所者等自身の問題に起因する場合も少なくない。協力雇用主等は,雇用に当たって,社会人としての自覚や社会常識を重視しているところ(7-2-1-14図参照),今回の特別調査においては,受刑者・在院者のほとんどが就労意欲を示す一方で(7-3-2-3-2図参照),保護司から見ると,本人の職業観,社会常識や考え方,勤務姿勢,生活習慣,対人関係能力等の円滑な社会生活を営む上で基本的に必要なことが身に付いていない場合が多く,この傾向は特に少年に顕著であると指摘された(7-3-1-3-1図及び7-3-1-3-2図参照)。一方,受刑者・在院者自身は,その点での指導・助言等を必要と考える者が少なく(7-3-2-3-6図参照),また,犯行や非行時に無職であった者の多くが,それを問題だと捉えていなかったなど,問題意識自体の欠如が,安定した就労を困難にしている一因となっているものと考えられる。したがって,刑務所出所者等の仕事に関する基本的な考え方や能力,生活態度や習慣を改善・向上する指導・教育を充実・強化することが必要不可欠であると思われる。指導においては,外部講師による指導やSST・グループワーク等の様々な手法が採られているが,矯正施設内での各種生活場面における指導を一層充実させるとともに,職場体験や社会貢献活動等をより積極的に利用するなどして直接実社会・地域社会の中で実践的にこれを修得させる方法の一層の活用も望まれる。

(3)刑務所出所者等の受入れ環境の整備

前歴等を理解した上で刑務所出所者等の雇用・就労に協力する協力雇用主の中にあっても,実際に刑務所出所者等を雇用している事業者は,一部にとどまる。また,今回の保護司調査における保護司の所見等からもうかがえるように,前科や非行歴が原因で就職できない場合もあるなど(7-3-1-3-1図参照),経済・雇用情勢をさておいても,刑務所出所者等の就労を支援することについての社会全体の理解や受入れ環境の整備を更に推進する必要が認められる。協力雇用主等による雇用を促進するため,そのニーズに対応して身元保証制度やトライアル雇用といった支援メニューを積極的に活用しつつ,様々な事業者にインセンティブを与えて協力雇用主への新規参入や刑務所出所者等の雇用を促す支援,例えば,一部の地方自治体で行われている建設工事等の競争入札における優遇措置等の積極的な措置を拡大していくことが望まれる。さらに,海外では,刑務所出所者等の雇用機会の創出・提供に主眼を置いてビジネス展開を図るソーシャル・ファームの成功例もあるところ,雇用情勢が厳しい中でこうした新しい取組も今後の活路を開く一途ともなり得るものと考えられ,その設立や運営の研究,支援,促進等を積極的に検討すべきであろう。

(4)相談等支援の充実及び多様な社会資源との連携

就労に問題を抱える者の課題は人により様々であり,各人の問題性に対応した支援が,それを必要とする者に対してなされているかという観点からの検討も重要である。特別調査では,保護司,受刑者・在院者ともに,就労に直接つながる支援だけではなく,例えば,どのような支援があり,どのような支援を受けるのが効果的なのかといった,適切な支援情報へのアクセスや,身近な相続相手を含めた相談等の支援を必要とする者が多かった(7-3-1-3-1図7-3-1-3-2図及び7-3-2-3-6図参照)。そして,保護観察期間中はもちろん,保護観察終了後や満期釈放後に受けられる相談等の支援に対するニーズも大きいことがうかがわれた(7-3-1-3-2図及び7-3-2-3-6図参照)。これらを確実に提供できる支援態勢を整えていくべきである。ところで,受刑者調査からもうかがわれたように,帰住先不明等の満期釈放者や家族・親族以外を帰住先・引受人とする者は,出所・出院後の就労に問題を抱えがちであるのにもかかわらず,支援ニーズが大きい満期釈放者等について,出所・出院後の就労支援は,主に更生緊急保護の対象者に限られるなど公的機関による支援の内容や範囲に自ずと限界があることともあいまって課題が残る。保護観察や更生緊急保護の期間が経過した者に対しては,公共職業安定所による職業相談等の既存の枠組みを活用しながら,相談等の支援を強化するとともに,継続的・長期的にこれらの者のニーズに応えられる支援を行うことができる機関・団体等を新たに開拓し,そこへの橋渡しができるように努める必要があると思われる。