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平成24年版 犯罪白書 第7編/第3章/第2節/3

3 受刑者・在院者の社会復帰上の課題
(1)概観

この項では,受刑者・在院者が入所・入院前にどのような問題があってどのように対応したかを踏まえつつ,受刑者・在院者の出所・出院に向けた社会復帰上の課題と必要とされる支援について,就労と住居確保の問題を中心に分析する。


ア 入所・入院前の問題

7-3-2-3-1図は,受刑者・在院者が,本件犯行等前にどのような問題があったか(複数回答による。)を見たものである。同図のいずれの項目も選択しなかったのは,受刑者では114人(6.6%),在院者では2人(0.7%)にとどまり,大多数が犯罪・非行に至る前に就労,住居,不良交友,薬物・飲酒,経済的困窮,対人関係等の問題を抱えていた。


7-3-2-3-1図 本件犯行等前の問題
7-3-2-3-1図 本件犯行等前の問題

就労又は住居に関する項目を選択した者について,それ以外の項目の選択の有無を見たところ,「就労なし」又は「就労不安定」のみを選択した受刑者は11.1%,在院者は0.5%,「安定した住居なし」のみを選択した者は受刑者のみ(1.5%)であり,受刑者・在院者とも,就労又は住居の問題があった者のほとんどが,複数の問題を抱えていた。特に,住居の問題を選択した受刑者の89.8%が就労の問題を選択しており,住居に関する問題があった者は,そのほとんどが就労上の問題も抱えていたといえる。


イ 出所・出院を控えた気持ち

次に,7-3-2-3-2図は,受刑者・在院者の出所・出院を控えての気持ちを見たものである(重複回答及び無回答を除いた構成比である。以下この項における構成比,比率又は割合に関する記載も同様である。)。受刑者・在院者のほとんどが,出所・出院に当たり,二度と犯罪はせず,仕事に就いて,規則正しい生活を送ろうと更生を決意している反面,受刑者・在院者の半数以上が職場・学校,地域から受け入れてもらえるか不安を抱いており,受刑者の半数以上が仕事を見つけて生活できるか不安を感じていることがうかがわれる。


7-3-2-3-2図 刑事施設出所・少年院出院を控えた気持ち
7-3-2-3-2図 刑事施設出所・少年院出院を控えた気持ち

(2)就労・収入の問題

ア 過去の問題における対応

7-3-2-3-3図は,就労・収入に関する本件犯行等前の問題状況を見たものである。この設問では,本件犯行等前の期間,安定した仕事や収入(在院者については,就学中の場合を含む。以下この項において同じ。)の確保についての問題の有無や,その問題が解決できたかなどについて質問した。同期間中,「安定した仕事や収入はなかったが,問題だと思わなかった」,つまり,不安定就労等に問題意識のなかった者が受刑者・在院者とも2割を超える(同図<1>)。


7-3-2-3-3図 本件犯行等前における就労・収入に関する問題状況
7-3-2-3-3図 本件犯行等前における就労・収入に関する問題状況

さらに,この回答を本件犯行等時に無職であった者のみに絞ってみると,就労・収入に「問題があり,解決できなかった」と回答した者は,約4割にとどまった(残りは「安定した仕事や収入があって,問題はなかった」,「問題だと思わなかった」等と回答)。受刑者・在院者とも,例えば,日雇いや短期アルバイト等不安定な就労状況にあっても,それを「不安定」と捉えなかったり,問題と考えないなど,就労状況等に関する認識の在り方に問題があった者が相当数いることがうかがわれ,出所・出院に備え,安定した就労の大切さを理解させる指導の充実の必要性が認められる。

また,男女間では在院者で差が見られ,「安定した仕事や収入はなかったが,問題だと思わなかった」との回答は,女子の方が多い(同図<2>)。

そのほか,在院者のうち今回の入院前に少年院送致歴がある者について見ると,「安定した仕事や収入があって,問題はなかった」(20.6%)が少なく,前回の少年院出院後,安定した就労に問題を抱えていた者が少なくないことがうかがわれる。

次に,本件犯行等前に,「安定した仕事や収入があって,問題はなかった」と回答した以外の者について,当時どのような対応をしたかを示したのが,7-3-2-3-4図である。


7-3-2-3-4図 就労・収入の問題に対する本件犯行等前の解決行動
7-3-2-3-4図 就労・収入の問題に対する本件犯行等前の解決行動

個々の解決行動ごとに見ると,「やらなかった」又は「思いつかなかった」と答えた者が多いが,回答者ごとに見ると,受刑者で8割以上,在院者で9割以上がいずれかの項目を行った旨の回答であり,日雇いや不定期のアルバイト,家族・知人等への相談や仕事紹介依頼,求人広告への応募,ハローワーク等の利用といった様々なレベルの自助努力が相当数見られる。

問題意識がなかった者又は問題を解決できなかった者(7-3-2-3-3図の「問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」と回答した者)に限って見ても,いずれの項目も「やらなかった」又は「思いつかなかった」とする者は,受刑者では158人(17.9%),在院者では12人(8.7%)であり,それ以外の多くの者について,問題解決に至らないまでも就労等に向けた何らかの具体的な行動に出ていると認められる。反面,これら就労・収入上の問題があった者で,「問題はあったが,解決できた」は,受刑者では16.0%,在院者では14.3%にとどまる。

本件犯行等前に不安定な就労・収入状況にあった受刑者・在院者には,何らかの自助努力によって問題解決を図ろうとした者も少なくない反面,問題意識がなかった者,問題だという意識はあったが,何らの具体的な行動に及ばなかった者,何らかの手段は講じたが解決できなかった者が相当数いることがうかがわれ,こうした,入所・入院前に,考え方や有効な行動に出るなどの点で課題があった者については,その出所・出院に備えて,入所・入院中にそれぞれの問題レベルに応じた指導・支援の必要性が認められる。


イ 出所・出院後の問題と必要な支援

出所・出院後の安定した就労のために解決すべき問題の有無を質問し,その問題認識を見たのが7-3-2-3-5図である。受刑者・在院者とも「問題はない」は半数を下回り,4割近くが「問題がある」とし(同図<1>),出所・出院を控えて,多くが問題ないし不安を持った状態にあることがうかがわれる。


7-3-2-3-5図 刑事施設出所・少年院出院後の就労に関する問題認識
7-3-2-3-5図 刑事施設出所・少年院出院後の就労に関する問題認識

これに加え,在院者で,就職希望の者(109人)が就職決定の者(67人)を上回ることや,自由記述でも,特に受刑者について,自立や社会復帰のために就労を望みながらも,出所を控えて就職が決まっていない,前科等がありながら就職できるかといった不安等を述べる記載が相当数見られることなどから,矯正施設を出る時点では,本人の就労意欲にかかわらず,就職の見通しが立たないまま出所・出院を迎える場合が少なくないことがうかがえる。

受刑者の各年齢層及び在院者では,いずれも「問題はない」が半数以下で,50〜64歳で「問題がある」比率が高い(同図<1>及び<2>)。また,受刑者では,本件犯行等時に無職であった者で「問題がある」と答えた者の割合は,有職であった者と比べて明らかに高く(同図<3>),就労について,本件犯行等前の問題状況が解決されていない者が少なからずいることがうかがわれる。

そのほか,受刑者のうち,帰住先不明等の者又は帰住先はあるが,家族・親族以外の帰住先(以下この項において「知人・雇主等」という。)の者は,「問題がある」がそれぞれ46.2%,45.6%を占め,帰住先が家族・親族の者(30.1%)と比べて明らかに高い。また,満期釈放者の41.9%,満期釈放者で帰住先不明等の47.1%が「問題がある」であり,「わからない」を含めると,いずれも6割を超え(仮釈放者では「問題がある」が34.6%,「わからない」を含めると46.3%),帰住先が家族・親族以外の者や満期釈放者の多くが出所後の就労に問題があると認識し,不安を持っていることがうかがわれる。

在院者では,女子の46.2%,少年院送致歴のある者の60.6%が「問題がある」とし,「わからない」を含めると,いずれも7〜8割台に上るのが特徴的である。また,出院時,就職を希望しているが,決まっていない者では,「問題がある」が47.6%(「わからない」を含めると7割を超える。)であるのに対し,就職が決まっている者では26.2%である。

7-3-2-3-6図は,受刑者・在院者(就労に関する問題がないと答えた者を除く。)が出所・出院後の就労の安定のために必要と考える支援を見たものである。


7-3-2-3-6図 刑事施設出所・少年院出院後の就労の安定のために必要な支援
7-3-2-3-6図 刑事施設出所・少年院出院後の就労の安定のために必要な支援

「必要」又は「やや必要」の回答比率は,総じて,受刑者の方が高い。特に,「自分の問題に合った支援に何があるかを教えてくれること」,「就職活動に最低限必要な資金等の一時的な貸付等の経済的支援」及び「保護観察終了者・満期釈放者も利用できる公的機関による相談等の支援」の項目が高く,これらについては最も支援を強く求める「必要」の比率が63〜64%台に上り,満期釈放者では,後二者の支援項目を「必要」とする比率は更に高い。在院者については,「高校卒業認定資格や就職に役立つ技術・資格の取得支援」を「必要」とする者が6割を超える(「やや必要」を含めると9割近くに上る。)ほか,「悩みを気軽に相談したり,ぐちをこぼしたりできる相手」及び「職場の上司や同僚が立ち直ろうとする気持ちを理解して受け入れてくれること」を「必要」とする者が過半数を占め,「やや必要」を含めると,いずれも8割を超えるなど,対人関係等の人的サポートに関する支援の必要性を感じる傾向がうかがえる。

保護司調査の結果と比べると,受刑者(保護観察対象者を念頭に置いた同調査とは対象が異なるが,同調査の「成人」に一部が対応する。)については,適切な就労支援情報へのアクセス,保護観察対象者以外も利用できる相談等の支援へのニーズが大きい点で共通する所見である。一方,在院者(同様に,同調査の「少年」に一部が対応する。)については,職場の同僚等による理解・受入れ,資格・技能の取得支援の必要性の認識は,保護司・在院者で共通して高い。他方,保護司調査においては,特に少年について,社会人としてのマナーや勤務姿勢等の資質上の問題が指摘され,その向上・改善に向けた指導・助言の必要性が特に高く認識されたのに対し,同項目を「必要」とする在院者は3分の1程度(受刑者は3割弱)と多いとはいえない。また,協力雇用主等調査(第2章第1節3項(1)参照)によれば,社会人としての自覚や社会常識といった点が刑務所出所者等を雇用するに当たって重要であると認識されていることと対比してみても,受刑者,そして,特に在院者に,社会人としての基本的な態度等の課題に対する問題認識の不足がうかがえる。

(3)住居の問題

在院者の多くは,未成年者として保護者に監護される立場にあり,出院後の居住の安定には保護者との関係が大きく影響するのに対し,受刑者の住居の問題は,むしろ住む場所自体がないことにある場合も多い。このように,住居の問題については,受刑者と在院者とでは問題性の質が異なることを踏まえ,受刑者については,安定した住居,在院者については,安心して生活できる場所を得る上での問題や必要とする支援に焦点を当て本調査を実施した。住居に関する受刑者・在院者の課題や支援ニーズについては,調査対象者の問題の違いを踏まえ,以下に別々に分析する。


ア 受刑者

(ア)過去の問題における対応

7-3-2-3-7図は,受刑者について,本件犯行等前における,安定した住居を得る上での問題の有無と,その解決状況について示したものである。全体の7割以上は「安定した住居があって,問題はなかった」又は「問題はあったが,解決できた」と回答したが,年齢層が上がるにつれて,「問題はなかった」の比率が下がり,65歳以上では「安定した住居はなかったが,問題だと思わなかった」及び「問題があり,解決できなかった」の合計が約3割に上る(同図<1>及び<2>)。


7-3-2-3-7図 受刑者 本件犯行等前における安定した住居確保上の問題状況
7-3-2-3-7図 受刑者 本件犯行等前における安定した住居確保上の問題状況

また,本件犯行等時に住居不定であったにもかかわらず,「問題があり,解決できなかった」と回答した者は約4割にとどまり,例えば,寝泊り先を転々とするなどの不安定な居住状況にあったにもかかわらず,これを問題として受け止めること自体できないと見られる者も存在する。

再入者及び満期釈放者では,「問題はなかった」の比率がそれぞれ初入者及び仮釈放者より低い上,「問題があり,解決できなかった」の比率が2割を超えて高い(同図<3>及び<4>)。入所度数が3度以上の者については,「問題はなかった」が61.8%,「問題があり,解決できなかった」が23.1%と,その傾向が更に顕著であり,満期釈放者の中でも帰住先不明等の者については,「問題はなかった」の比率が54.3%と更に低い。また,家族・親族を帰住先とする者の82.3%が「問題はなかった」とするのに対し,知人・雇主等は57.4%,帰住先不明等は54.5%と顕著に低く,それ以外の回答の比率はいずれも家族・親族より知人・雇主等及び帰住先不明等の方が高いが,「問題があり,解決できなかった」で特に高く,家族・親族8.9%に対し,知人・雇主等が24.4%,帰住先不明等が24.9%であった(同図<5>)。これらのことから,入所度数が多い者,そして,今回仮釈放とならなかった者や,帰住先が不安定な者は,過去に住居に関する問題を有し,それが解決できない状況で本件犯行等に及び,さらに,安定した住居確保の課題が解決されないまま出所する者が相当数いることがうかがわれる。

本件犯行等前に,「安定した住居があって,問題はなかった」と回答した以外の者について,当時どのように対応をしたかを示したのが,7-3-2-3-8図である。


7-3-2-3-8図 受刑者 住居の問題に対する本件犯行等前の解決行動
7-3-2-3-8図 受刑者 住居の問題に対する本件犯行等前の解決行動

本件犯行等前に,安定した住居確保上の問題があった者(7-3-2-3-7図の「安定した住居があって,問題はなかった」以外の者)のうち,「問題はあったが,解決できた」と答えたのは,24.4%であり,問題があった場合の解決の比率は,就労・収入に問題があった場合より高い。他方,問題が解決しなかった受刑者(「安定した住居はなかったが,問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」)362人のうち,7-3-2-3-8図の解決行動項目のいずれも「やらなかった」又は「思いつかなかった」と回答した者は105人(29.0%)であった。そして,住居の問題が解決せず,かつ,いずれの項目もやらなかった又は思いつかなかった105人中,帰住先不明等の満期釈放者は34.3%(36人)を占めており,比較的割合が高い(残りの1,472人中,帰住先不明等の満期釈放者は19.6%である。)。このことから,本件犯行等前に安定した住居を確保する上で問題があって,かつ,今回出所に当たって帰住先が不安定な者は,入所前に住居の問題について,過去に自ら解決に向けた対応に出られなかった場合が多いことがうかがわれ,こうした者に対しては,その出所に備えて,指導や支援の必要性は高いと推察される。


(イ)出所後の問題と必要な支援

出所後の安定した住居確保に当たって解決すべき問題の有無を質問し,その結果を示したのが7-3-2-3-9図である。「問題はない」は約6割と,半数を下回った就労の問題と比べて高く(同図<1>),多くの者は,出所時に差し迫った住居確保の問題に直面していないことがうかがわれる。女子では「問題がある」が約2割にとどまっているほか,若い年齢層では「問題はない」が多いが,65歳以上を除いては,年齢層が上がるほど,「問題がある」の比率が高い(同図<2>及び<3>)。また,初入者より再入者,仮釈放者より満期釈放者で「問題がある」の比率が高く(同図<4>及び<5>),中でも帰住先不明等の満期釈放者では49.5%に上る。帰住先別では,帰住先不明等の者,知人・雇主等の者の半数程度が「問題がある」と考えているのに対し,家族・親族の者の8割近くは「問題はない」とし(同図<6>),帰住先があっても,そこが家族・親族以外の場合は,安定した住居とは認識されない傾向がある。さらに,本件犯行等時に住居不定であった者の半数強が「問題がある」としており(同図<7>),出所者自身の問題意識からも,本件犯行等前に安定した住居を確保する上で問題があった者は,服役期間中に問題が解決せずに出所に至っている場合が少なくないことがうかがわれる。


7-3-2-3-9図 刑事施設出所後の住居に関する問題認識
7-3-2-3-9図 刑事施設出所後の住居に関する問題認識

加えて,出所後,住居の「問題がある」と答えた者の77.0%(355人)が,就労の場面でも,解決すべき「問題がある」と答えている(なお,就労の場面で「問題がある」と答えた受刑者の64.9%が,住居の場面でも「問題がある」と答えている。)。また,満期釈放者のうち,住居,就労とも「問題がある」と答えた者は31.1%を占め,仮釈放者の場合(18.0%)より高く,満期釈放者でも帰住先不明等の場合(37.8%)は更に高い。受刑者の問題認識において,住居の問題と就労の問題との間に強い関連性がうかがわれ,特に,満期釈放者,中でも帰住先が不安定な者が両方の問題を抱えがちであるといえる。受刑者の自由記述においても,仕事や収入がないとして,当面の住居や住居探し・生活資金等の融資の必要を求める記載が相当数あり,仕事・収入や生活資金の当てがなく,住居確保にも不安を抱える状況が垣間見られ,出所に当たり,その問題や不安が解消されない状態にある者が存在することがうかがわれる。

受刑者(住居に関する問題がないと答えた者を除く。)が出所後の住居の安定のために必要と考える支援を見たのが7-3-2-3-10図である。選択肢として掲げた支援項目のほとんどについて,最も支援を強く求める「必要」とする者が4割を超え,特に,住居を借りるための保証人の紹介や契約等に必要な資金の一時的な貸付,出所後,住居を確保するまで当面の間住む場所,自分の問題に合った支援に何があるかを教えてくれることといった支援項目では,7割以上に上り,帰住に問題を抱える者にとって,住む場所の確保とそのための直接的な支援のニーズが非常に高いことが分かる。なお,出所事由,帰住先,本件犯行等時の居住状況等の違いにより,各支援項目の必要性に関する回答状況に明らかな差は見られなかった。


7-3-2-3-10図 受刑者 刑事施設出所後の住居の安定のために必要な支援
7-3-2-3-10図 受刑者 刑事施設出所後の住居の安定のために必要な支援

イ 在院者

(ア)過去の問題における対応

在院者に,本件犯行等前に,安心して生活できる場所があったかどうかと,問題があった場合の解決の状況を質問し,その結果を示したのが7-3-2-3-11図である。


7-3-2-3-11図 在院者 本件犯行等前における安心して生活できる場所に居住する上での問題状況
7-3-2-3-11図 在院者 本件犯行等前における安心して生活できる場所に居住する上での問題状況

「安心して生活できるところがなかったが,問題だと思わなかった」者及び「問題があり,解決できなかった」者がそれぞれ2割弱いた(同図<1>)。

女子では,「問題だと思わなかった」者が半数を超えており(同図<2>),住居の不安定さに加え,問題意識が欠如している者が多いことが特徴的である。少年院送致歴のある者については,「安心して生活できるところがあって,問題はなかった」との回答は4割弱にとどまり,「問題があり,解決できなかった」者が3割を超えて多い(同図<3>)。

入院時の保護者が実父母の者は,「安心して生活できるところがあって,問題はなかった」が3分の2近くを占めるのに対し,実父母や実父又は実母以外の者では,4割に満たない(同図<4>)。

また,入院時の保護者のいずれかに実父又は実母を含む場合でも,出院時の引受人と入院時の保護者が全く異なる,家族関係の不安定さがうかがわれる者は,「問題があり,解決できなかった」が35.5%と,入院時の保護者であった実父又は実母の少なくともいずれかが出院時の引受人である場合(15.7%)より多い。

さらに,本件犯行等時に家族と同居していた者でも,本件犯行等前に「安心して生活できるところがあって,問題はなかった」とする者は約6割にとどまり(同図<5>),残りの者について,家族関係の問題の存在がうかがわれる。

「問題はなかった」又は「児童養護施設等で生活していた」者以外について,本件犯行等前にどのような対応をしたかを示したのが7-3-2-3-12図であり,多いもので,3割弱が友人・知人に相談したり,住居を探してもらったりしている程度である。


7-3-2-3-12図 在院者 住居の問題に対する本件犯行等前の解決行動
7-3-2-3-12図 在院者 住居の問題に対する本件犯行等前の解決行動

また,安心して生活できる場所に住む上での問題があった者(7-3-2-3-11図で「問題はなかった」又は「児童養護施設等で生活していた」以外の者)117人のうち,「問題はあったが,解決できた」のは,20人(17.1%)にとどまる。さらに,「問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」の97人中53人(54.6%)が,いずれの対応策も「やらなかった」又は「思いつかなかった」のであり,住居の問題があったとしても,解決のために自発的に行動に出た者は少なかったことがうかがわれる。


(イ)出院後の問題と必要な支援

出院後,安心して生活できる場所に住むに当たって解決すべき問題の有無を質問し,その結果を示したのが7-3-2-3-13図である。「問題がある」が約4分の1を占めており,在院者の全員に引受先があることを考慮すると,比較的多いといえる。少年院送致歴がある者で「問題がある」が半数近くと多い。また,引受人が家族であっても,実母や実父義母・義父実母の場合は,「問題がある」が約3割いる。


7-3-2-3-13図 少年院出院後の住居に関する問題認識
7-3-2-3-13図 少年院出院後の住居に関する問題認識

7-3-2-3-14図は,在院者(住居に関する問題がないと答えた者を除く。)が,出院後に安心して生活できるところに住むため必要と考える支援を見たものである。「必要」の比率で見ると,「家族や近所の人たちなどが,立ち直ろうとする気持ちを理解して受け入れてくれること」,「住居探しや住み続ける上での悩みについて,相談に乗ってくれたり,ぐちをこぼしたりできる相手」,「住居探しや家賃トラブルなどの問題があったときに必要な支援につないでくれること」及び「家族関係の改善や家族の問題について,相談に乗ってくれたり,家族との間に入ったりしてくれること」が上位を占める。主に,家族関係を中心とする人間関係に関連する人的サポートについての項目のニーズが高く,家族関係の改善や調整の支援の要請が高かった保護司調査結果とも相通じる所見である。


7-3-2-3-14図 少年院出院後の住居の安定のために必要な支援
7-3-2-3-14図 少年院出院後の住居の安定のために必要な支援

(4)不良交友,飲酒・薬物,その他の問題

ア 過去の問題における対応

7-3-2-3-15図は,本件犯行等前の不良交友(受刑者については,暴力団・犯罪を繰り返す人たち,在院者については,暴力団・暴走族・不良仲間とのつながり)に係る問題の有無と,その問題の解決状況について示したものである。本件犯行等前に不良交友はなかったとする比率は,受刑者が在院者より明らかに高く,半数を超える。在院者については,これが15%弱にとどまる上,不良交友はあったが,問題だと思わなかったとする者が半数を超えて多いのが特徴である。これは,特に少年の保護観察対象者について,不良交友に対する問題意識の欠如ないし低さに問題がある者が多いとの認識が示された保護司調査結果とも一致した所見であり,不良交友に関する問題意識の低さが課題といえる。他方,在院者による自由記述では,不良交友を断つことができるかを不安視する記述が相当数あり,出院を控えた時点で不良交友に対する問題意識はあるものの,どのように対応してよいか分からない者が少なくないことがうかがわれる。


7-3-2-3-15図 本件犯行等前における不良交友に関する問題状況
7-3-2-3-15図 本件犯行等前における不良交友に関する問題状況

不良交友がなかった者(同図の「問題はなかった」と回答した者)を除いた者のうち,「問題はあったが,解決した」者は,受刑者では,19.2%あるが,在院者では8.7%にとどまる。

次に,7-3-2-3-16図は,本件犯行等前について,不良交友の問題があった者(7-3-2-3-15図の「問題はなかった」以外の者)が本件犯行等前にどのような対応をしたかを示したものである。「やらなかった」又は「思いつかなかった」がいずれも大半を占め,また,「やってうまくいった」とする比率も,受刑者・在院者とも,いずれの項目でも1割を切っている。


7-3-2-3-16図 不良交友の問題に対する本件犯行等前の解決行動
7-3-2-3-16図 不良交友の問題に対する本件犯行等前の解決行動

その上,7-3-2-3-15図で「暴力団・犯罪を繰り返す人たち又は暴力団・暴走族・不良仲間とつながりはあったが,問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」と答えた受刑者527人,在院者211人のうち,どの項目も「やらなかった」又は「思いつかなかった」のは,受刑者で228人(43.3%),在院者90人(42.7%)にも上り,不良交友については,自ら問題だとは認めたくないこと,また,問題だと認めてもうまく解決できない現状がうかがわれる。

次に,本件犯行等前の薬物使用等(受刑者については,過度の飲酒を含む。以下この項において同じ。)の問題に関する質問の回答結果を見たのが7-3-2-3-17図である。在院者については,薬物使用に限っていることもあってか,本件犯行等前は「薬物使用は一切なく,問題はなかった」とする者が7割を超えている(同図<1>)。もっとも,女子在院者では,「問題はなかった」は4割程度にとどまり,「薬物使用はあったが,問題だと思わなかった」及び「問題があり,解決できなかった」がそれぞれ2割を超えている(29人中6人及び7人)。女子受刑者では,「薬物使用等は一切なく,問題はなかった」者が約4割,「薬物使用等はあったが,問題だと思わなかった」者,「問題があり,解決できなかった」者がそれぞれ約4分の1に及んでいる(同図<2>)。


7-3-2-3-17図 本件犯行等前における薬物使用等に関する問題状況
7-3-2-3-17図 本件犯行等前における薬物使用等に関する問題状況

7-3-2-3-18図は,本件犯行等前に薬物使用等の問題があった者(7-3-2-3-17図の「問題はなかった」以外の者)について,どのような対応をしたかを示したものである。受刑者で4割強,在院者で4割弱が「意思を強く持って薬物等をやめようとした」を「やってうまくいった」又は「やったがうまくいかなかった」としており,薬物使用等を断ち切ろうという意識を持った者が相当数あるものの,「やってうまくいった」のは受刑者・在院者とも1割に満たない。他の解決行動はいずれも「やらなかった」又は「思いつかなかった」が大半を占める上,「やってうまくいった」は非常に少なく,在院者では1人もいない項目もある。


7-3-2-3-18図 薬物使用等の問題に対する本件犯行等前の解決行動
7-3-2-3-18図 薬物使用等の問題に対する本件犯行等前の解決行動

加えて,7-3-2-3-17図で「問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」と答えた受刑者606人,在院者43人のうち,どの解決行動の項目も「やらなかった」又は「思いつかなかった」のは,受刑者で152人(25.1%),在院者18人(41.9%)にも上り,薬物使用や飲酒の問題の解決の難しさがうかがわれる。


イ 出所・出院後に必要な支援

就労や住居確保に焦点を当てた支援のほか,社会復帰に当たり,どのような支援が必要か,受刑者に12項目,在院者に15項目を示し,各項目について「必要」,「やや必要」,「あまり必要ない」,「必要ない」から選択させた。半数以上の受刑者・在院者が「必要」又は「やや必要」と回答した支援項目は,7-3-2-3-19図のとおりである。受刑者・在院者とも,家族,職場の同僚,近所の人たちといった身近にいる人たちの理解と受入れを必要とする比率が高かったほか,適切な支援情報へのアクセス,相談支援及び経済的支援を求める者が多い。


7-3-2-3-19図 社会復帰に当たり必要な支援
7-3-2-3-19図 社会復帰に当たり必要な支援

その他の支援項目については,その性質上,受刑者・在院者の過去の問題状況や罪種等によって,必然的に要否の程度に違いが出るものも多く,実際,必要性についての回答状況にばらつきが認められる。例えば,本件犯行等前に,薬物使用等があったが,「問題だと思わなかった」又は「問題があり,解決できなかった」とする受刑者・在院者群が,出所・出院後の支援が「必要」又は「やや必要」と答えた比率は,「薬物使用等をやめたり,犯罪につながるような行動を改めるためのプログラムや専門病院での治療」(受刑者53.2%,在院者53.5%)や「同じ問題を抱えた人たちが集まって支え合える自助グループ等」(同45.6%,41.9%)の支援項目で,それ以外の受刑者・在院者群(前者の支援項目につき,同25.3%,12.4%,後者の支援項目につき,同31.0%,24.7%)より高かった。また,殺人・傷害致死,強盗又は性犯罪(強姦及び強制わいせつ)の受刑者では,「被害者への謝罪や弁償について,相談に乗ってくれたり,被害者に橋渡しをしてくれたりすること」を「必要」とする比率(殺人・傷害致死41.0%,強盗35.1%,性犯罪35.7%)は,それぞれの罪種を除いた受刑者(いずれも21%台)より高く,「やや必要」も含めると,いずれも過半数を占めた(同61.5%,58.4%,57.1%)。財産犯(窃盗,詐欺,恐喝及び横領・背任)でも「必要」又は「やや必要」(49.3%)がそれ以外の罪種の受刑者(37.6%)より高かった。さらに,本件犯行等前に,「安定した収入がなかったり,借金があったりしてお金に困っていた」とする受刑者については,「借金返済や暴力団離脱等の問題についての専門的な相談支援」を「必要」又は「やや必要」とする比率(54.3%)がそれ以外の受刑者(30.0%)より明らかに高かった。