適切な引受人や帰住先が見つけられない刑務所出所者等の受け皿として,従来からの更生保護施設に加え,特にここ数年のうちに,国の設置する自立更生促進センター,民間の力を活用した様々な形態の自立準備ホームが整備されたほか,特別調整を通じての福祉施設等への帰住等も始まり,受け皿やそこへの橋渡しにおける量的質的拡充が図られてきたが,いまだ満期釈放者(平成23年では約1万4,000人)の半数近くが,適切な引受人がないまま出所しており(7-2-2-1図参照),更生保護施設等の施設がその受け皿となるには,定員等の面で収容能力が不足している上,施設の分布も偏在している(7-2-2-2図参照)。また,単に一時的な帰住先の数を確保しただけでは行き場のない者の自立に際しての根本的な問題は解決しない。刑務所出所者等の中長期的な自立を促進するためには,その問題性やニーズに対応した指導等ができるなどの処遇機能を持った施設の量的,質的な整備が必要である。
こうした受け皿不足の緩和に向けては,既に受入先としてある自立更生促進センター,更生保護施設,自立準備ホーム等による受入れを確実に推進していく必要がある。各施設は,自らの特色を強化しながら,可能な限りの受入れに努める一方,保護観察官等は,これを後押しすべく,例えば,処遇困難者に対する直接的関与等によるより緊密な連携を進めることが不可欠である。同時に,刑務所出所者等の多様な問題性に対応した多様な受入先の新規開拓を推進する必要がある。新規開拓先として,自立準備ホームは,緊急的住居確保・自立支援策の実施以降,急速に登録事業者が増加しており,始まったばかりの制度ではあるが,ホームレス支援やシェルターなど,その様々な形態や専門性は,受け皿不足の解消と処遇の多様化に向けた可能性を感じさせるものであり,その登録を推進すべきであると考えられる。また,それ以外の受け皿として,住み込み先となる協力雇用主の開拓にも一層注力すべきである。
次に,質的な側面に目を向けると,これら受入先のうち,更生保護施設では,複雑,多様化する刑務所出所者等の問題性やニーズに対応して,民間ならではの柔軟性と多様性や施設の特色を生かした処遇が充実・強化されるとともに, 特別調整の対象者が福祉的支援を受けられるまでの一時的な受け皿にもなるなど,その役割も広がっている。反面,職員の数・経験や施設の設備は施設ごとに様々であり,施設間の処遇態勢等にばらつきがあることも否定できない。施設職員に対する研修等による処遇態勢の強化策も図られているが,一方で,経営基盤がぜい弱であること等から専門性のある人材の確保や職員数の増加は容易でないなど,一足飛びに解決できない課題を抱えている場合もある。また,自立準備ホームの運営は国の認可を必要とせず,比較的簡易に民間事業者が参画できる制度であるため,多様な事業者の参入が大いに見込まれるが,その反面,処遇態勢等の質的水準のばらつきは更生保護施設以上とも思われ,一定水準のサービス等を確保するための方策の検討が必要であると考えられる。福祉的な支援を必要とする者に対する特別調整は,これまで社会での自立も受入先の確保も困難があった高齢・障害者を,適切な福祉的支援につなげる画期的な取組で,一定の成果は上げているものの,始まって間もないこともあって,これから本格的に実績を蓄積していくことになる。このように,帰住先となる受け皿の拡充等だけではなく,受け皿となる施設等における処遇の充実といった質的な水準の維持・強化に向けた官民双方の努力が更に求められている。そのためには,保護観察官と施設等の処遇における連携の強化を図るとともに,民間施設が多くの刑務所出所者等を受け入れるに当たってどのような問題や困難があるかを検証しつつ,これを軽減するための方策を検討する必要がある。福祉的支援を必要とする者に関しては,地域生活定着支援センターと受入先を始めとする関係機関や団体との連携を強化し,適切なフォローアップ等を推進すべきであろう。
前記のように,入所度数の多い者や過去に住居の問題を抱えていた受刑者の出所時の帰住先は不安定な傾向にあり,満期釈放者の半数近くが適切な帰住先がないまま出所している。また,受刑者調査等から,出所時に就労の問題を抱えている者は,帰住先が不安定な傾向が見られた。こうした生活基盤の確保に問題を抱える者は,満期釈放者に多く,再犯リスクとなり得る要因を比較的多く抱えた状態で出所していることがうかがわれる。また,同調査では,過去に住居の問題を抱えていた帰住先不明等の満期釈放者は,当時,その問題の解決に向けた有効な対応が採れなかった傾向がうかがわれるなど,自立を困難にする能力・環境上の問題があると思われる。そのため,矯正施設入所前に無職や住居不定であった者や再入者等の再犯のリスク要因が高いと認められる者については,矯正処遇等の早期の段階から,社会で自立して生活するための指導・教育を重点的に実施するべきである。指導に当たっては,自立にとって重要な要素となる就労に向けた意欲の喚起や動機付けをまず図るべきであり,併せて健全な職業観の涵養等の指導を徹底するとともに,就労に必要な技術・能力の取得に向けた処遇を実施するなど,問題性を見極めた上で指導する必要がある。その上で,行き場のない者については,適切な自立のための処遇を提供できる施設等への帰住を進めるべきであろう。ところで,満期釈放者が少なからず様々なリスク要因を抱えたまま出所する反面,保護観察所による満期釈放者に対する支援は,更生緊急保護に限られる。また,仮釈放者等の場合も,出所・出院後に,生活基盤を確立し,自立するめどが立つまで指導監督,補導援護を行う十分な保護観察期間が確保できないことも少なくない。これらの課題に対応するためには,就労支援と同様に,適切な支援情報へのアクセスまで含めたきめ細かい相談等支援の充実・強化や,保護観察や更生緊急保護期間終了後も支援を必要とする者をサポートできる多様な社会資源の開拓とそれらとの緊密な連携の推進が有効であると考えられる。