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平成24年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/3

3 保護観察対象者の社会復帰上の課題

この項では,保護司調査結果のうち,保護司から見た保護観察対象者の社会復帰上の課題と保護観察対象者が必要とする支援内容に関する部分を,再犯防止に向けて様々な施策が実施されている就労と住居の確保の問題に重点を置いて分析し,保護観察対象者の社会復帰を指導監督,補導援護する立場にある保護司の視点からの課題と対策を問題別に概観する。

(1)就労の問題

7-3-1-3-1図は,保護司が過去に担当したことがある保護観察対象者について,就労が安定しない原因として,「仕事探し」,「採用」及び「就労継続」の各場面で直面する課題項目ごとの,「当てはまる者が多い」との回答の比率(以下この項において「該当率」という。無回答及び重複回答を除いた比率であり,特に断らない限り,以下この節における構成比,比率又は割合に関する記載も同様である。)及び該当率が高い課題項目に係る回答状況を,成人(仮釈放者及び保護観察付執行猶予者をいう。以下この項において同じ。)・少年(保護観察処分少年及び少年院仮退院者をいう。以下この項において同じ。)それぞれについて見たものである。


7-3-1-3-1図 就労が安定しない原因 課題項目の該当率(成人・少年別)
7-3-1-3-1図 就労が安定しない原因 課題項目の該当率(成人・少年別)

調査に回答したうちの大多数の保護司が,前記の項目のいずれかに保護観察対象者の就労が安定しない原因があると感じている。

保護司から見て,成人・少年とも,就労が安定しない原因として,職業観,粘り強さ・対人関係能力,規則正しい生活習慣といった本人の資質や態度に問題があるとした項目に「当てはまる者が多い」とした回答が多く,少年については,これらの項目の該当率が特に高い上,「社会人としてのマナー・勤務姿勢」に問題があるとした項目についても,「当てはまる者が多い」とした回答が多かった。このような保護司の認識は,社会人としての自覚や社会常識を雇用に当たって重視する協力雇用主等調査(第2章第1節3項(1)参照)の結果とも対応している。

そのほか,求人・雇用情報や適切な公的支援へのアクセス及び技能・能力上の問題も該当率が高い。また,該当率上位の項目ではないが,「前科や非行歴のために採用されない」の該当率が成人で約3割,少年で約2割に上っている。こうした問題が原因となって就労に結びつきにくい対象者がいる,と見ている保護司が一定程度いる。

次に,今後,保護観察対象者の就労の安定のために必要と保護司が考える支援内容については,特に必要性の高い支援内容を分析するため,「特に必要」との回答を中心に見ることとする。7-3-1-3-2図は,安定した就労のために必要な支援内容ごとの「特に必要」の選択率及びこの比率が高い支援項目に係る回答状況を見たものである。


7-3-1-3-2図 就労安定のための支援「特に必要」の選択率(成人・少年別)
7-3-1-3-2図 就労安定のための支援「特に必要」の選択率(成人・少年別)

就労を安定させるための支援策として保護司に示した10の項目の中では,成人に対しても,少年に対しても,「家族や保護者の監督・協力や支え・励まし」と「保護観察対象者を雇用し,又は一緒に働くことに対する,雇用主や同僚等の理解」について「特に必要」を選択した比率が非常に高く,特に,少年に関しては,「家族や保護者の監督・協力や支え・励まし」が「特に必要」と回答した保護司は8割を超えている。少年については,「社会人としてのマナーや勤務姿勢の指導」がこれらに次いで上位を占め,成人と比べ,こうした指導の必要性を認識している保護司がより多い。そのほか,多種の課題に対する支援策となり得る「保護観察終了者や満期出所者も受けられる公的機関による相談等の支援」や「仕事や就労支援に関する情報の提供」を「特に必要」とする回答が,成人・少年とも過半数を占め,全体的に,保護観察対象者の安定就労を阻む原因として該当率が高かった前記の課題と対応していることが認められる。さらに,7-3-1-3-1図の就労が安定しない原因を尋ねた各項目で「当てはまる者が多い」を選択した保護司の群による就労安定のための支援策に関する項目の回答を,それぞれの項目で「当てはまる者が多い」を選択しなかった群の回答と比較すると,例えば,「技能・能力不足」の問題に対する「高校等の卒業認定資格や,就労に関連した技能,資格・免許の取得支援」(成人47.5%,少年66.2%,比較対照群ではそれぞれ32.7%,48.6%)や「社会人としてのマナー・勤務姿勢」の問題に対する「社会人としてのマナー・勤務姿勢の指導」(成人56.1%,少年72.5%,比較対照群ではそれぞれ29.1%,45.1%)等,それぞれの課題に対応する支援内容に「特に必要」を選択した比率が高い傾向にあり,保護司が問題性に応じた支援の必要性をより明確に認識していることがうかがえる。

(2)住居の問題

7-3-1-3-3図は,保護司が過去に担当したことがある保護観察対象者について,住居が安定しない原因として,「住み続ける」,「新たに住居を確保する」の各場面において直面する課題項目ごとの該当率及び該当率が高い課題項目に係る回答状況を,成人・少年それぞれについて見たものであり,7-3-1-3-4図は,安定した住居の確保のため,今後必要な支援内容ごとの「特に必要」の選択率及びこの比率が高い支援項目に係る回答状況を見たものである。


7-3-1-3-3図 住居が安定しない原因 課題項目の該当率(成人・少年別)
7-3-1-3-3図 住居が安定しない原因 課題項目の該当率(成人・少年別)

7-3-1-3-4図 住居安定のための支援「特に必要」の選択率(成人・少年別)
7-3-1-3-4図 住居安定のための支援「特に必要」の選択率(成人・少年別)

保護観察対象者の住居確保の場面においては,いずれの課題項目も,該当率は高くなく,むしろ「当てはまらない者が多い」という回答の比率が高い上,ほとんどの項目で「わからない」の比率が1割から4割程度に上る。また,今後住居の安定のために必要な支援内容の「特に必要」の選択率は,「特に必要」が多く選ばれた項目であっても,いずれも5割に満たないなど,就労支援の場合と比べて相当低い上,「必要ない」又は「あまり必要ない」の選択率も,半数以上の項目で2〜4割前後に上る。成人の保護観察対象者の大半を占める仮釈放者及び少年の少年院仮退院者は,帰住先が確保されてから仮釈放・仮退院となり,実際,これらを含め,いずれの種別の保護観察対象者も,そのほとんどは保護観察開始時に住居・引受先が確保されている(2-5-2-4図3-2-5-4図参照)。このため,地域に住んで保護司の指導を受けている保護観察対象者では,満期釈放者等と異なり,住居確保自体に困難を抱える者が必ずしも多くないことが前記の回答状況にも反映されているものと思われる。

そこで,安定した住居が確保できない原因として,「当てはまる者が多い」と回答した項目(以下この項において「該当項目」という。)が複数あった保護司(成人694人,少年652人),すなわち,安定した住居の確保に課題があった保護観察対象者を担当した経験が一定程度ある保護司による,今後住居の安定のために必要と考える支援内容についての回答を見たところ,該当項目が多い保護司ほど,全般に,「特に必要」の選択率が高くなる傾向が見られる。例えば,該当項目が五つ以上の群(成人180人,少年165人)で「特に必要」の選択率が高いものを見ると,成人では,「保護観察終了者や満期出所者も受けられる公的機関による相談等の支援」(76.5%),「安定した住居を得られるまでの一時的な住居の提供」(64.8%),「失業や病気のときの一時的な経済的援助」(59.2%)及び「住居確保支援に関する情報の提供」(57.0%),少年では,「保護観察終了者や満期出所者も受けられる公的機関による相談等の支援」(74.4%),「安定した住居を得られるまでの一時的な住居の提供」(55.2%),「家族関係の調整や改善」(53.0%)及び「住居確保支援に関する情報の提供」(51.5%)であり,それぞれ上位四つの支援項目では「特に必要」が過半数を占めている。このことから,住居の問題に直面した保護観察対象者の担当経験がある保護司は,数は多くはないが,住居の問題についても,支援の必要性を強く感じていることが分かる。また,成人と少年で「特に必要」の選択率の上位項目に大きな違いはないが,成人では一時的な住居の提供や失業等の際の経済的援助といった住居を確保するための直接的な支援が上位を占めているのに対し,少年では,家族関係の調整や改善も上位にあるのが特徴であり,少年の場合は,住居不安定の問題に家族関係の問題が影響していると見ている保護司が比較的多いことがうかがわれる。

(3)飲酒・薬物,不良交友等,その他の問題

保護司が過去に担当したことがある保護観察対象者について,飲酒や薬物又は暴力団・暴走族との関係や不良交友を断ち切れない(少年については家庭や学校生活の不調を含む。)原因となる課題項目ごとの該当率は,7-3-1-3-5表のとおりであり,それぞれの問題に関して,今後必要な支援内容ごとの「特に必要」の選択率は,7-3-1-3-6表のとおりである。


7-3-1-3-5表 飲酒・薬物 不良交友等 家庭・学校生活の不調 課題項目の該当率(成人・少年別)
7-3-1-3-5表 飲酒・薬物 不良交友等 家庭・学校生活の不調 課題項目の該当率(成人・少年別)

7-3-1-3-6表 断酒・断薬 不良交友等の断絶 家庭・学校生活の改善のための支援「特に必要」の選択率(成人・少年別)
7-3-1-3-6表 断酒・断薬 不良交友等の断絶 家庭・学校生活の改善のための支援「特に必要」の選択率(成人・少年別)

酒や薬物を断ち切れない原因については,成人についても,少年についても,本人の問題意識の低さや問題につながる不良交友を指摘する保護司が多く,今後必要な支援内容については,成人に対しても,少年に対しても,「保護観察終了者や満期出所者も受けられる公的機関による相談等の支援」及び「問題を解決するためのプログラムの提供や治療体制の充実」,さらに,少年については,「家族関係の調整や改善」が「特に必要」と回答した保護司が過半数を占める。

暴力団・暴走族との関係や不良交友を断ち切れない原因については,成人についても,少年についても,本人の問題意識の低さや暴力団・暴走族や不良仲間に代わる健全な人間関係がないことや築けないことを指摘する保護司が多い。今後必要な支援内容としては,成人に対しても,少年に対しても,「保護観察終了者や満期出所者も受けられる公的機関による相談等の支援」及び「暴力団・暴走族離脱等に関する公的機関による支援」が「特に必要」と回答した保護司が過半数を占める。さらに,少年については,ここでも「家族関係の調整や改善」が「特に必要」と回答した保護司が過半数を占め,飲酒・薬物や不良交友のいずれの問題の克服に当たっても,良好な家族関係を構築・強化することの重要性が認識されている。

少年の家庭や学校生活がうまくいかない原因については,学業不振や問題につながる不良交友といった課題項目の該当率が高く,ここでも不良交友が重要な問題要因となっていることが多くの保護司の認識となっている。