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平成24年版 犯罪白書 第7編/第2章/第1節/2

2 刑務所出所者等総合的就労支援対策
(1)総論

7-2-1-6図は,保護観察対象者の再犯の状況を就労状況別に示したものである。無職者の再犯率は有職者と比較して著しく高い状況にあることから,犯罪をした者や非行のある少年の再犯防止のためには就労の確保が重要であるとして,刑務所出所者等の就労についての指導・支援は,従来から矯正施設や保護観察所においても重点的に実施されてきた。


7-2-1-6図 保護観察対象者の再犯率(就労状況別)
7-2-1-6図 保護観察対象者の再犯率(就労状況別)

しかし,非行・犯罪歴があることや対人関係・社会適応能力に問題を抱える者が少なくないことなどもあって,刑務所出所者等の就労は常に厳しい状況にあった。そこで,就労による確実な自立更生を目指し,平成18年度から法務省(矯正施設,保護観察所等)及び厚生労働省(都道府県労働局,公共職業安定所等)が連携して,刑務所出所者等に対し積極的かつきめ細かな就労支援を行う「刑務所出所者等総合的就労支援対策」が開始された。7-2-1-7図は,刑務所出所者等総合的就労支援対策の概要を示したものである。


7-2-1-7図 刑務所出所者等に対する総合的就労支援対策の概要
7-2-1-7図 刑務所出所者等に対する総合的就労支援対策の概要

(2)支援の対象者

就労支援の対象となるのは,受刑者,少年院在院者,保護観察対象者及び更生緊急保護対象者全員であるが,このうち,刑務所出所者等就労支援事業(以下「支援事業」という。)として法務省と厚生労働省が連携して実施する支援の対象者(以下「支援対象者」という。)は,刑務所や保護観察所等から就労支援の協力依頼のあった受刑者等,保護観察対象者及び更生緊急保護対象者であって,稼働能力・就労意欲を有し,支援事業への参加を希望しており,求人者に対する前歴等の開示に同意しているなどの要件に該当しているものである。前歴等の開示に同意しない場合は,準支援対象者として限定的な支援の対象となる。

(3)支援の実施体制

矯正施設又は保護観察所等の所在地を管轄する公共職業安定所に支援事業の担当責任者を,一部の公共職業安定所には刑務所出所者等の就労支援を担当する就職支援ナビゲーターを配置している。

支援対象に選定された受刑者等に対しては,矯正施設を訪問して職業講話,求人情報提供,職業相談・職業紹介等の支援を実施している。保護観察所から就労支援の依頼があった保護観察対象者等に対しては,保護観察所の就労支援担当官と就労支援チームを設置し,支援対象者と個別面接を行うなどして,適切な支援メニューを選定して,就労支援を行っている。

支援事業を円滑に実施するために,公共職業安定所等の職業安定機関,矯正施設,保護観察所等の関係機関から構成される都道府県単位の協議会を設置し,支援事業の年間実施計画の策定,実施手順の調整等を行っている。

(4)支援の内容及び実施状況

ア 受刑者等

公共職業安定所の職員は,矯正施設を訪問し,支援対象者等に対して,就労についての心構えや就労を巡る社会情勢等についての職業講話を実施するとともに,出所又は出院後の就職活動を容易にするために,求人票のチェックポイントや面接に当たっての心構え等を平易に解説した求職活動ガイドブック(「ハローワークガイド」)を配布している。支援対象者等に対しては,本人から希望を聴取し,きめ細かい職業相談を行った上で,本人の能力や適性に応じた求人情報を提供している。出所又は出院後も引き続き支援を希望する者については,帰住先の公共職業安定所や保護観察所への引継ぎや情報提供を行い,継続的な支援を必要に応じ実施することとしている。


求職活動ガイドブック
求職活動ガイドブック

イ 保護観察対象者等

公共職業安定所の職員は,保護観察所から就労支援の依頼があった保護観察対象者等に対して,保護観察官,担当保護司等と連携しながら,求人開拓から就職に至る一貫した就労支援を行っている。また,就労支援メニューとして,職場体験講習,セミナー・事業所見学会,トライアル雇用及び身元保証制度等が実施されている。

職場体験講習は,就業経験がほとんどないなどの理由で,就労しても職場になじめないことが懸念される者が,職場の雰囲気や仕事に慣れるために,5日から1か月以内の期間,実際の職場環境や業務を体験するものである。職場体験講習を受講した者には,受講援助費として受講手当及び通所手当が支給されるほか,講習を受託した事業主には,職場体験講習委託費が支給される。

適切な就職活動方法を知らない者や職業能力や適性等の職業に関する自己理解が乏しい者を対象に,社員教育の専門家や協力雇用主等を講師として,履歴書の書き方や採用面接での注意点等の説明を行うセミナーや,実際の事業所を訪問して職場を見学し,働いている人と対話等をする事業所見学会を開催している。

支援対象者の職業経験,技能,知識等から判断して,直ちに常用雇用が困難な場合,試行的な雇用期間を設け,事業主が支援対象者の適性を見極めるとともに,事業主と支援対象者の相互理解を深め,事業主の不安を軽減し,常用雇用への移行促進を図るトライアル雇用がある。トライアル雇用期間中,公共職業安定所の職員や就職支援ナビゲーターは,支援対象者や事業主と連絡を取り,雇用の状況を把握するとともに,相談に応じている。トライアル雇用を実施した事業主には試行雇用奨励金が支給される。

また,雇用主が安心して支援対象者を雇用できるよう,身寄りがないなどの理由で,就労時に身元保証人がいない支援対象者について,雇用主に業務上の損害を与えた場合等に累計で200万円を上限とする見舞金が支払われる身元保証制度がある。

そのほか,公共職業安定所では,担当制による職業相談・職業紹介,職業能力が不足し,能力開発が必要な者に対する公共職業訓練の受講あっせん,生活の安定を図りながら再就職を促進するために必要であると判断された者に支給される職業転換給付金の活用,長期間就労経験がないなど,職場への適応・定着が困難な者に対する職場適応・定着支援等を実施している。

(5)現状における施策の効果と新たな取組

支援対象者等総数及び就職者数,保護観察終了時の無職率等の推移は,それぞれ7-2-1-8図7-2-1-9図のとおりである。平成19年度から毎年2,000人以上の刑務所出所者等が就労に至るなど一定の成果を上げているものの,その一方で,保護観察対象者のうち毎年9,000人程度(23年は8,926人,24.1%)が無職状態で保護観察を終了している。また,就職しても早期に退職したり,職場に定着できずに転職を繰り返したりする者も少なくない。就労形態も臨時や日雇い等の不安定雇用が多く,就労先の業種にも偏りがあるなど,刑務所出所者等の就労確保と就労継続は,依然として極めて厳しい状況にある。


7-2-1-8図 刑務所出所者等就労支援事業支援対象者等総数・就職者数
7-2-1-8図 刑務所出所者等就労支援事業支援対象者等総数・就職者数

7-2-1-9図 保護観察終了者の人員・無職者・無職率
7-2-1-9図 保護観察終了者の人員・無職者・無職率

この厳しい状況に対応するために,新たな取組として,平成23年度から一部の保護観察所において更生保護就労支援モデル事業が実施されている。同年度は東京,宇都宮及び福岡の3庁の保護観察所で実施され,24年度は札幌,名古屋及び大阪の3庁を加えたほか,同事業と同様の枠組みで東日本大震災の被害が特に甚大であった3庁(盛岡,仙台及び福島)で更生保護被災地域就労支援対策強化事業として実施している。7-2-1-10図は,更生保護就労支援モデル事業等の概要を示したものである。


7-2-1-10図 更生保護就労支援モデル事業等の概要
7-2-1-10図 更生保護就労支援モデル事業等の概要

更生保護就労支援モデル事業等は,雇用に関するノウハウや企業ネットワーク等を有する民間団体が国から委託を受けて更生保護就労支援事業所を設置し,当該事業所に配置された専門的な知識及び経験を有する就労支援員が,関係機関等と連携して支援を行うものである。矯正施設入所中から,支援対象者の希望や適性を把握し,帰住予定地の雇用情勢等の情報を伝えるなどし,社会内において速やかに就職できるよう就職活動支援を行い,就職後には職場訪問をして支援対象者に必要な助言をしたり,協力雇用主の相談に応じたりするなどの職場定着支援までを継続的に行う。また,支援対象者が自分の適性に合った業種に安定した就労ができるよう協力雇用主の新規開拓や,協力雇用主が安心して刑務所出所者等を雇用できるようサポートするなどの雇用基盤整備を推進している。さらに,就職活動支援及び職場定着支援と併せて,適切な定住先を確保するための住まい探しや,収入状況に応じた安定的な生活設計に関する助言を行うなどの定住支援も行っている。矯正施設入所中から就職後の職場定着まで継続的に支援を行うこと,支援対象者と協力雇用主の間に立ってきめ細かな支援や調整を行い支援対象者の円滑な社会復帰を図ることを目的としているところが本事業の特長である。本事業により就労した事例を下に紹介する。

なお,平成23年度に就職活動支援が終了した者は223人であり,そのうち188人(84.3%)が就職に至っている。また,同年度に職場定着支援が終了した者は153人であり,そのうち職場定着に至ったのは92人(73.6%)であった。


事例1 更生保護就労支援モデル事業に係る事例

仮釈放時20歳代の男性の事例(詐欺,詐欺未遂 懲役3年)

中学生の頃から,窃盗,深夜徘徊等の問題行動があり,高校を早期に中退した。就労はしていたものの,人間関係がうまくいかず,建設業や引越しのアルバイト等転職を繰り返してきた。少年時には,窃盗により保護観察や少年院送致の処分歴がある。少年院仮退院後は建設業に就いたが,保護観察期間満了後に仕事がなくなり離職せざるを得なくなり,派遣社員や工事現場で働いていた。給料が少ないことや借金があったことなどから金欲しさに本件をじゃっ起し,少年刑務所に入所した。

刑務所入所中に,更生保護就労支援モデル事業の支援対象者に選定され,就職活動支援を実施した。本人の希望職種等を更生保護就労支援事業所の就労支援員が確認し,公共職業安定所の就職支援ナビゲーターから得た求人情報を本人に提示し,その後,本人の希望等を複数回の面接で確認した上で,建設関係の資格があることやこれまでの経験を考慮し,求人情報の中から建設業を営む協力雇用主Aを調整し,刑務所内で面談を実施した。本人,協力雇用主Aの両者ともに就労,雇用を希望したため,釈放後の雇用について前向きに調整することとなった。支援対象者に選定してから約3月後,本人が仮釈放となり,公共職業安定所での求職登録,刑務所出所者等総合的就労支援対策の協力依頼等の手続を実施した上で,協力雇用主Aと採用面接を実施し,トライアル雇用,身元保証制度を活用して正式雇用となった。就労後は,職場への定着を図るための支援として,就労支援員が協力雇用主や本人と定期的に接触して支援を実施した。本人の働きぶりは雇用主からの評価も高く,良好に就労していたため,職場定着支援開始3月後に支援を終了した。