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平成24年版 犯罪白書 第7編/第2章/第3節/2

2 保護司活動
(1)活動の実際

ア 事例(ある保護司の1か月の活動)

【A保護司】男性,65歳。会社を定年退職後に,近隣の先輩保護司から推薦を受けて保護司となり,5年目となる。現在,a男の保護観察事件(覚せい剤取締法違反により保護観察付執行猶予判決言渡し)を担当中。また,社会貢献活動担当保護司に指名されている。

【B保護司】女性,50歳。中学校教員を退職後に,保護司候補者検討協議会での情報提供をきっかけとして保護司となり,1年目となる。現在,b子の生活環境調整事件(傷害事件により中等少年院送致)を担当中。また,学校連携担当保護司に指名されている。


保護司活動
保護司活動

イ 保護司の活動

保護司は,主として,保護観察対象者の指導監督・補導援護(上記事例の<1>に相当),矯正施設収容中の者に関する生活環境の調整(同<2>),犯罪予防活動(同<3>)を職務として活動し,それに必要な知識及び技術の修得(同<4>)に努めることとされている。また,最近は保護司の活動が多様化し,新たな役割を担うようになってきた(同<5>)。

このうち,保護観察対象者の指導監督・補導援護,及び矯正施設収容中の者に関する生活環境の調整が,保護司の活動の中心をなすもので,保護観察官が作成した保護観察や生活環境調整の計画に基づいて,常に保護観察官と協議・協働しながら処遇や調整を実施している。具体的な活動としては,保護観察対象者を保護司の自宅等に訪問させ,また,保護司が保護観察対象者の自宅等を訪問して対象者及びその家族等と面接するなどして,保護観察処遇を実施している(第2編第5章第2節参照)。また,矯正施設に入所している者が希望する帰住予定地を訪問して引受人等と話し合いをするほか,必要に応じて,刑事施設又は少年院に出向いて本人と会ったり,手紙のやり取りをして,出所・出院後の生活について調整を行っている(第2編第5章第1節参照)。

犯罪予防活動については,保護司及び保護司会は,非行防止や薬物乱用防止等の座談会・講演会等を自ら開催するほか,地方公共団体が行う地域の防犯活動,青少年の健全育成活動等といった活動を,警察,学校等といった地域の関連機関や,PTA,町内会,防犯ボランティア団体等と連携しながら実施している(第2編第5章第5節4項参照)。

保護司がその活動を行う上で必要な知識と技術を修得し,処遇能力を向上するために,保護司研修の必要性が重視されている。保護観察所が実施する保護司研修には,保護司になって初めて受ける基本的な知識を身に付けるための新任保護司研修があり,その後も,保護司会単位で年4回行われる地域別定例研修や,経験年数や適性に応じて各種の研修が実施されており,主に保護観察官が講師となり,関係法令の学習,面接の方法,事例研究,各種施策に関する内容(例えば,性犯罪保護観察対象者の処遇,就労支援等)等多岐にわたっている。このほか,各保護司会が自主的に開催するものもある。

(2)保護司活動の多様化

保護観察や生活環境調整の対象者は,その年齢や犯罪・非行の内容も様々であり,また,本人の資質上の問題のほか,家庭生活,職場・学校環境,交友関係といった本人を取り巻く環境における問題性も多岐にわたっている。対象者の再犯・再非行を防止し,改善更生を図るためには,地域の社会資源を適切に活用し,対象者の生活実態に即した指導や援助が不可欠である。

近年,新たな施策が次々に導入され,地域の実情を熟知した保護司に期待される役割が広がっている。就労支援や社会貢献活動といった保護観察や生活環境調整の対象者に直接関わるもののほか,中学生の犯罪・非行の未然防止及び健全育成,犯罪被害者等支援に関わるなど,保護司の活動も多様化している。


ア 就労支援における役割

保護司は,地域に根ざして諸活動に従事しており,その実情を熟知している。したがって,保護観察対象者の就労支援において保護司が果たしている役割は大きい。例えば,刑務所出所者等総合的就労支援対策の一環として,担当保護司が対象者に同行して公共職業安定所に行き,職員と職業相談・職業紹介について一緒に話し合ったり,現在,活発に進められている協力雇用主の開拓についても,保護司から新たに協力雇用主になってもらえる事業主についての情報提供を受ける場合も多い。保護司会によっては,就労支援や協力雇用主開拓を目的とした部会(例えば,協力組織部会)を組織化している会もある。


イ 社会貢献活動における役割

社会貢献活動に当たっては,原則として活動場所ごとに1人以上の保護司が社会貢献活動担当保護司として指名され,活動の準備,実施その他の事務を行っている。

保護司は,地域の社会資源を熟知しており,また,保護司自身が活動先となり得る施設や団体等に関係している場合も多い。このような理由から,今後,社会貢献活動の活動先を開拓するに当たり,情報提供及び活動場所の管理者との連絡調整等において,保護司の果たす役割は大きく,その協力が不可欠である(第2編第5章第2節2項(6)及び第3編第2章第5節2項(4)参照)。


ウ 学校との連携における役割

少年非行は,本人の内面の問題のほか,家庭,学校,地域社会のそれぞれが抱える問題が複雑に絡み合って発生しており,次代を担う子供・若者が非行に走らないよう社会全体で取り組み育成することが国民的課題である。そこで,非行問題に関する豊富な知識・処遇経験等を有する保護司(学校連携担当保護司)が中学校と連携して,「中学生サポート・アクションプラン」を実施している。具体的には,学校連携担当保護司が地元中学校へ直接赴き,非行問題・薬物問題をテーマとした非行防止教室の実施,問題を抱える生徒に対して関係機関が連携してその立ち直りを支えるサポートチームへの参加,生徒指導担当教諭との合同研究会の実施に取り組むなどして,保護司(会)と中学校との連携を図るとともに,中学生の犯罪・非行の未然防止及び健全育成を図っている。


エ 犯罪被害者等施策における役割

平成19年12月1日から,更生保護における犯罪被害者等施策が開始され,これに伴い,全国の保護観察所に被害者担当保護司が置かれた。被害者担当保護司は,各保護観察所に男女1人以上ずつ指名され,保護観察処遇や生活環境の調整といった加害者に関する事務は行わず,保護観察所内で被害者等支援に専従しており,その数は24年4月1日現在,101人となっている(法務省保護局の資料による。)。被害者担当保護司は,被害者担当の保護観察官の事務全般を補助しているが,特に,相手の心情を受け止め,その立場を理解し,必要な援助を行うことについて,素養と豊富な経験を有していることを踏まえ,被害者等の悩みを傾聴するなどの援助場面で活躍している(第5編第2章第1節5項参照)。


事例1 地域処遇会議の実施

保護司は,従前から各保護司会単位で集まり,研修会や会合を持っていたが,このような保護司会全員を対象とした集まりだけでなく,関係のある保護司が複数集まった中・小規模な会合を行い,保護司間の情報共有・情報交換を行う集まりを「地域処遇会議」といい,平成22年度から積極的に実施するようにしている。

具体的には,関連する保護観察事件を担当する保護司が一堂に会して情報交換を行うこと(例えば,同じ暴走族に所属する少年を担当する保護司が集まり,保護司が抱える悩みを話し合ったり,今後の指導の在り方について意思統一を図るなど),関係機関・団体との調整方法や犯罪予防活動の効果的な進め方に関する検討を行うこと(例えば,就労支援を担当する保護司が集まり,地域の雇用情勢に関する勉強会を実施したり,協力雇用主の効果的な開拓方法を話し合うなど)などが挙げられる。


事例2 東日本大震災被災地域における更生保護拠点の設置

東日本大震災によって,保護司の自宅が損壊したり避難を余儀なくされるなど,保護司活動が困難な状況が発生した。そこで,被災地域における保護観察処遇等を効率的・効果的に実施するとともに,被災した保護司や民間協力者の活動を支援し,被災地域における更生保護の実施基盤を再構築するため,平成23年12月に,岩手県釜石市,宮城県石巻市・気仙沼市,福島県相馬市の4か所に「更生保護拠点」が設置された。


盛岡保護観察所更生保護拠点釜石(写真中央の茶色の建物)
盛岡保護観察所更生保護拠点釜石(写真中央の茶色の建物)