保護司の充足率は,前記のとおり,近年低下傾向にある。その背景として,地域社会の人間関係の希薄化等の影響や,保護観察対象者の抱える問題が多様化するなどして保護司の処遇活動が困難化していること,具体的には,保護観察事件数自体は減少しているものの,家族等の協力を得ることが難しい保護観察対象者の増加,薬物やアルコール依存,高齢,精神疾患等保護観察対象者の抱える問題の複雑・多様化,また,厳しい社会経済情勢を背景とした自立困難な保護観察対象者の増加等が指摘されており,保護司のなり手が見つかりにくく,また,新しく保護司になった者で早期に退任するものが少なくないという状況がうかがえる。
保護司数の減少は,保護観察や生活環境の調整の実施,犯罪予防活動の展開等に支障を来す更生保護制度の根幹に関わる重要な事柄であり,社会内処遇の担い手である保護司が,その地域性,民間性をより発揮できるよう,背景事情の変化に応じ,より活動しやすい環境を整備することが求められる。この項では,保護司制度の基盤整備に向けた近年の取組を紹介する。
保護司の委嘱は,保護観察所長が,保護司選考会の意見を聴いた上で,保護司候補者を選定して法務大臣に推薦し,その候補者のうちから,法務大臣が委嘱する方法により行われている。保護司選考会は,各保護観察所に置かれている附属機関で,13人(東京は15人)以内の委員で組織されており,委員は,地方裁判所長,家庭裁判所長,検事正,弁護士会長,矯正施設の長の代表,保護司代表,都道府県公安委員会委員長,同教育委員会委員長,地方社会福祉審議会委員長,地方労働審議会会長及び学識経験者のうちから,法務大臣が委嘱している。
保護区ごとの保護司の定数は,その区域の保護観察事件数や公立小学校数等を指標に,人口,経済,犯罪の状況等の地域事情を勘案して定められる。保護観察所長は,保護司候補者の選定に当たり,広く地域の各層から候補者を見いだすよう努めることとされているところ,候補者の掘り起こしでは,現職保護司による他薦方式,すなわち,個々の保護司の人脈を活用して候補者に関する情報を集め,退任予定保護司の後任者を探し出すことが実態として多く見られる。個々の保護司の人脈を活用した候補者の発掘は,職務内容を熟知した保護司によって,保護司候補者の人柄をよく理解してなされる点でメリットは大きいものの,限界もある。そうしたことから,より幅広い分野から保護司候補者を発掘すること,また,保護司の選考過程において,より透明性を確保するための方策として,保護区あるいは保護区内の地域単位で,その地域住民の代表者等が集まり,保護司適任者の情報交換等を行う方法が模索され,平成20年度からは,保護区に保護司候補者検討協議会を設置し,地域の事情に精通した様々な分野の人々の協力を得て保護司候補者の発掘に努めている。
保護司候補者検討協議会は,保護司の充足率が比較的低いなどの保護区において,当該保護区の保護司候補者を広く求め必要な情報の収集及び交換を行うために,保護観察所長と保護司会長が共同して設置する協議会である。保護司候補者検討協議会は,おおむね7人以上15人以内の委員により組織され,委員は,保護司,町内会又は自治会関係者,民生委員・児童委員,社会福祉事業関係者,教育関係者,保健・医療関係者,青少年関係団体関係者,地方自治体関係者,経済・産業団体関係者,更生保護関係団体関係者及び地域の事情に通じた学識関係者のうちから適任者が選定される。この保護司候補者検討協議会は,国(法務省保護局)と社団法人全国保護司連盟の連携により,平成16年度からその前身となる保護司候補者内申委員会モデル地区事業が実施され,一定の成果が得られたことから,20年度から全国的に設置されているもので(平成24年4月1日現在450か所に設置),保護司適任者の確保に寄与している。
保護司は,多くの場合,その自宅を保護司活動の拠点としており,自宅において保護観察対象者やその引受人等との面接や保護司会における事務処理を行ったりするほか,保護司会に関する文書,資料等の管理や会合の場を自宅としていることも多い。一方,保護観察対象者の状況等を見ると,前記のとおり,保護者や引受人の協力が得られない者,厳しい経済情勢下において就労が安定しない者,処遇において医療や福祉等の専門的機関の援助が必要な者等も少なくなく,保護司個人のみの力量に頼った処遇には限界があり,かつ,その状況が保護司の過度な負担につながっているとの指摘もなされている。
そうしたことから,自宅以外に面接場所を提供し,複雑・多様な問題を抱える保護観察対象者のニーズに柔軟に対応するなど,個々の保護司の処遇活動を支援する必要性や,保護司会がより組織的に処遇活動や犯罪予防活動を行う観点から,地域における活動拠点の整備が求められるようになった。
そこで,平成20年度において,保護司活動の拠点となる更生保護活動サポートセンターが,全国六つの保護司会に設置され,その取組の成果から,23年度には名称を更生保護サポートセンターと改め,全国55か所(全ての保護観察所管内に1か所以上)に設置された(なお,24年度中に155か所に拡充される見込みである。)。具体的には,市区町村庁舎内の一室や廃校となった公立小中学校の一部を借り受けるなど公的な建物等に専有の場所を確保し,平日の日中を中心に,企画調整保護司(当該保護区の保護司のうち,保護観察所長にその指名を受けた者)が駐在し,事務所の管理や運営,関係機関等との連絡調整,各種活動の企画や実施を行うこととなった。
更生保護サポートセンターを活用した取組として, 以下のような事例がある。
中学生の保護観察対象者から保護司に,「高校に進みたいが,勉強する場所がなく,先生もいない」と相談があった。そこで,更生保護サポートセンターの面接室を使用し,定期的に,保護司とBBS会員が教師役となり,学習支援を行ったところ,周囲に感謝して学習に励み,高校進学を果たした。
高齢で単身生活をしている保護観察対象者が,病気になり,生活に困窮するようになった。担当保護司が,企画調整保護司にその状況を相談し,共に福祉事務所等に相談に出向くこととした。その結果,保護観察対象者は福祉サービスを受けることができるようになり,その後も,担当保護司や福祉事務所担当者らが,更生保護サポートセンターの会議室で定期的に情報交換をし,生活支援に当たっている。
保護司会が主催し,新任の保護司を対象とした研修を,更生保護サポートセンターで実施している。併せて,新任の保護司が抱きやすい,保護観察対象者や処遇に関する不安等を軽減するため,初めて対象者と面接を行う場合などに企画調整保護司の助言等も受けられるサポートセンターにおいて面接することも提案している。
地域におけるネットワーク作りのため,保護司会が主催し,更生保護サポートセンターの会議室を会場とし,地域の自治体,福祉事務所,民生児童委員協議会,社会福祉協議会,公共職業安定所,警察署,各種事業者団体,協力雇用主,更生保護女性会等の関係機関・団体に声を掛け,連絡協議会を開催した。更生保護の理念や制度に理解を求め,刑務所出所者等の社会復帰を地域で支えることについて確認し合った。
このように,保護観察対象者に対する直接的な働き掛け,保護観察対象者の関係者あるいは関係機関による処遇協議,保護司同士の研修,関係機関・団体との連絡の拠点等として様々な取組が見られる。また,企画調整保護司が常駐していることから,保護観察対象者やその家族,過去に保護観察を受けた者等が相談に訪れることや,一般市民や事業主等から,刑務所出所者等の社会復帰支援に関する問い合わせがなされることもある。
平成20年度から23年度における更生保護サポートセンターの設置数及び利用人数の推移は,7-2-3-4図のとおりである。利用回数は,20年度は1,185回であったのに対し,23年度は1万2,669回であり,設置数の増加に伴い利用人数も大きく増加している(法務省保護局の資料による。)。
こうした実績から,更生保護サポートセンターの設置により,保護司会事務局機能が強化され,保護司の行う処遇活動が支援される(保護観察対象者やその家族等との面接場所や地域処遇会議の開催場所を提供する,新任保護司等の相談に即応できるなど)とともに,更生保護サポートセンターを拠点として,地域社会において刑務所出所者等の社会復帰に関する理解や協力が進み,その支援ネットワークが構築され,地域に根ざした犯罪・非行防止活動の推進につながることが期待されている。