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2 高齢対象者の受入先と諸問題 (1)受入先 平成10年から19年までの間,仮釈放者に係る保護観察新規受理人員に関し,保護観察開始時の居住状況について,年齢層別に対比して見たのが,7-4-2-1図[1]である。これによると,高齢対象者の居住先では,65歳未満の対象者では多かった親に当たる層がほぼ消失し,配偶者又はそれ以外の親族に頼るか,そうでない者は,更生保護施設に入所するか単身で居住している。同図[2]の高齢の保護観察付執行猶予者についても,同図[1]より,全体に「単身」の割合が高いこと及び「更生保護施設」の割合が低いことなどを除けば,同様の傾向がうかがわれる。 7-4-2-1図 保護観察新規受理人員の居住状況別構成比 更生保護施設に帰住した高齢仮釈放者数の推移については,7-4-2-2図で見るように,「65〜69歳」及び「70〜74歳」の年齢層はおおむね増加の傾向にあり,また更生保護施設に帰住した仮釈放者全体のうちで65歳以上の高齢対象者の占める比率(図では「高齢者比」と記載している。)も上昇し,平成19年では5.1%になっている。7-4-2-2図 更生保護施設に帰住した高齢仮釈放者数の推移 (2)生活上の問題前項において,高齢対象者で身近な縁故者に恵まれない者が少なくないことを見たが,そうした者は自活ができるかどうかが処遇の検討課題となる。その関連から,本項では,高齢対象者について,就労と健康の問題や生活費の問題について見てみたい。 法務総合研究所では,平成18年8月1日から同年11月30日までの間に,刑事施設から仮釈放により出所し,全国の保護観察所で受理した保護観察事件に係る対象者について,出所後おおむね1か月を経過した時点において,意識調査を実施した。そのうちで,回答があった者110人(回答率55.3%)について,就労状況と,生活費の入手先を見たのが,それぞれ7-4-2-3図及び7-4-2-4図である。 7-4-2-3図 高齢仮釈放者の就労状況別構成比 7-4-2-4図 高齢仮釈放者の生活費の入手先の比率 7-4-2-3図からは,回答者110人のうち,何らかの仕事をしている者が約25%,稼働意欲はあるが就労が決まっていない者が約32%いる一方で,病気を理由に稼働できないとする者が約22%いることが分かる。なお,図には示していないが,生活上の悩みや心配事に関する質問に対しては,「健康がすぐれないこと」という項目を選択した者が約46%おり,さらに,健康の悩みに関する質問に対しては,「治療費や薬代にかけるお金がない」という項目を選択した者が約17%いるなど,健康に関連する悩みを抱えている者が少なからずいることがうかがわれる。次に,生活費の入手先について7-4-2-4図を見ると,公的年金の受給を挙げた者が49.1%と半数に満たない。仕事の収入のない者は,年金に代わる家族の援助が得られない場合には,福祉につなげる方法等も検討する必要性がうかがえる。 この意識調査においては,更に,困ったときに相談に乗ってくれる人がいるかどうかについても質問しているが,約19%の者が「いない」を選択している。 (3)高齢対象者の保護観察処遇 前記のように,高齢対象者においても,再犯傾向が相対的に高い累入者の問題があり,特に高齢対象者の場合は,非高齢対象者に比して社会適応に関しより大きい問題があるほか,高齢対象者は,概して身近な縁故者等の人的資源に恵まれず,自活するため就労したくても仕事が得られないか健康上に問題がある者も少なくなく,更に相談相手に恵まれない者が目立つなど,非高齢対象者にはない様々な問題を抱えている。こうした問題に対し,保護観察処遇では,類型別処遇の一環として,平成15年4月から「高齢対象者」類型を設け,高齢対象者の特性を踏まえた指導・支援をするなど,処遇の充実に努めており,19年末で同類型に認定され処遇されている者は,仮釈放者で367人,保護観察付執行猶予者で527人であった(法務省保護局の資料による。)。 7-4-2-5図は,平成10年から19年までの間に保護観察を終了した仮釈放者について,年齢層別に職業の状況の構成比について見たものであるが,これによると,高齢に至っても何らかの職に就いている者が認められる一方で,年齢層が上がるほど定収のない「その他の無職者」の比率が高くなっている。 7-4-2-5図 仮釈放者に係る保護観察終了人員の職業等別構成比 高齢対象者のうち,病気等で働くことが不可能な者については,家族等からどのような支援等が得られるのかを把握し,心身の不調に応じた援助を行い,ケースによっては福祉等からの支援が得られるよう調整が必要となる。また,一方で,早期に,必要に応じ健康保険等に加入するよう助言し,公的年金等の受給資格や一時金の額等を確認させるなどその有効活用を図る指導が必要となる。おおむね健康で働くことが期待できる者については,その心身の健康状態に応じた就労支援を行うことになる。(4)更生保護施設での高齢対象者 7-4-2-6図は,平成16年から19年までの間に保護観察を終了した仮釈放者で,期間中に更生保護施設への委託がなされた者のうち,年齢層別に処遇上の主な課題とされた領域別構成比を見たものである。概して年齢が高くなるほど,相対的に社会生活能力や性格・行動特性という生活指導上困難と思われる課題の割合が目立つようになっている。その背景には,加齢による認知・行動上の問題やトラブル等が生じていることも推察されるが,自己の生活管理がなかなかできない者や,対人関係等において問題を抱え,孤立しやすい者に対し,その者のニーズに応じ,理解度を確認しながら懇切な指導・援助を行うことが不可欠となる。 こうした問題のほか,入所当初,心身ともに健康を維持している者でも,入所中に心身の不調を来す場合もあるなどの問題もあり,日ごろの生活の中での孤立感を抱く者も認められる。こうした問題は,必ずしも高齢対象者だけに限ったものではないが,高齢対象者が増加傾向にある状況にかんがみ,こうした問題に具体的に対応していく必要があろう。更生保護施設では一般的に,必要な支援が得られるよう地域の福祉や医療機関との連携を密にしているほか,施設の中には,外部カウンセラーに嘱託して対象者の悩みを聴いたり,コラージュ療法(芸術療法の一種であり,写真,絵,文字などを雑誌・新聞等の印刷物から切り抜き,台紙に貼って作品にする表現方法を,心理療法に導入したものをいう。)に参加させ課題に取り組ませることで心情の安定化等を図ったり,余暇の過ごし方に問題等のある者については,酒害教育の場に参加させたり,社会保険労務士による社会保険に関する講義・助言を行うことを通じ自立の方策を探らせたりする場合がある。かかる対応は,当該問題を有する高齢対象者に対しても大きな意義があると考える。 7-4-2-6図 仮釈放者に係る更生保護施設入所者の処遇上認められた主な課題別構成比 7-4-2-7図は,平成10年から19年までの間に保護観察を終了した仮釈放者のうち,期間中に更生保護施設への委託がなされた者全員について,委託期間を年齢層別に見たものである。年齢層が高くなるほど「1年を超える」者の比率が高くなっているほか,75歳以上の層で委託期間が3か月を超える者の比率が5割に迫るなど,他の年齢層の高齢対象者と異なる様相がうかがえる。これらの数値からは,高齢対象者において年齢が高くなるほど更生保護施設からの自立等が困難になることが推察される。7-4-2-7図 仮釈放者の更生保護施設委託期間別構成比 (5)保護観察処遇と生活環境の調整7-4-2-8図は,平成10年から19年までの間の仮釈放者に係る保護観察終了人員について,年齢層別に保護観察期間の状況を見たものであるが,高齢者の保護観察期間は,年齢が高くなるほど,5年を超える者(無期刑仮釈放者を含む。)の比率が高くなっているが,その一方で半年以内の者が過半数いる。さらに,ここで図示はしていないが,刑事施設初入の者に比べ社会適応が困難視される再入の者の保護観察期間が短くなる傾向があり,対象者が抱える問題・課題の多さに比して調整等を行うことができる期間は必ずしも長くないため,保護観察中の補導援護だけでは課題への対応は困難なものがある。従来より,対象者が刑事施設に収容されている段階から,その円滑な社会復帰を図るために,改善更生に適した生活環境作りのための環境調整ができることとされてきたが(第2編第5章第1節参照),20年6月1日から施行されている更生保護法においては,「生活環境の調整」として必要と認めるときは調整を行うこととされ,調整すべき事項についても明確化され計画的に行うこととされるなど,充実化が図られたため,高齢受刑者についても,釈放後に公共の衛生福祉に関する機関その他の機関等から必要な保護等を受けられるよう協力を求めるなど,積極的な調整を行うことが望まれる。 7-4-2-8図 仮釈放者に係る保護観察終了人員の保護観察期間別構成比 |