前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
1 高齢犯罪者の属性等 以下において,高齢犯罪者の罪名,前科・前歴,居住状況・同居者等の生活状況,就労状況・収入源等の経済状況,疾患・障害歴,物質依存関連疾患歴,暴力団関係歴・問題ギャンブル歴等の問題行動の状況,犯行の背景などの各項目を見ることによって,高齢犯罪者の属性を明らかにする。 (1)高齢犯罪者の事例 まず,高齢犯罪者の属性に関する事例として,以下の4つの群について,サンプルとしてそれぞれの事例を紹介する。ここで,「高齢初発群」とは,本件までに前歴(微罪処分又は起訴猶予までの処分をいう。)及び前科がなく,本件が初犯の者のグループ,「前歴あり群」とは,本件までに1回以上の前歴を有しているが,前科はない者のグループ,「前科あり群」とは,本件までに1回以上の前科を有しているが,受刑歴はない者のグループ,「受刑歴あり群」とは,本件までに1回以上の受刑歴を有する者のグループをいう(以下,本項において同じ。)。 [1]「高齢初発群」に属する事案(電車内での痴漢) 65歳男子。本件まで前科・前歴なく,高校卒業後就職した会社に約40年間勤務し,定年退職後,再就職した。自宅を所有し,経済的に問題はない。子供は既に独立し,妻と二人暮らしで,家族間に特段の問題はなし。本件では,仕事からの帰宅途中,地下鉄の電車内で女性の下半身等を触った。罰金30万円。 [2]「前歴あり群」に属する事案(食料品等の万引き) 67歳女子。64歳になるまで,サラリーマンの夫と子供と平穏に生活していた。子供が独立し,夫と二人暮らしをするようになってから,近隣のスーパーで財布を紛失し,なくした分を取り戻そうとして日用品等を万引きしたのがきっかけで,以後,万引きを繰り返し,2回起訴猶予になった。本件では,再度,食料品等を万引きした。罰金30万円。 [3]「前科あり群」に属する事案(飲酒酩酊しての暴行) 69歳男子。本件までに飲酒運転,無免許運転に係る罰金の前科を有する。高校卒業後,建設関係の会社に就職した。定年退職後,妻と死別し,子供が独立してからは,単身で年金生活を送り,一人暮らしの寂しさから,外出して飲酒する回数が増えた。本件では,飲酒酩酊して帰宅途中,地下鉄の駅員に注意されたことから,かっとなって同人を殴った。罰金15万円。 [4]「受刑歴あり群」に属する事案(常習的な無銭飲食) 73歳男子。前科・前歴44件,うち無銭飲食19件,受刑回数19回。中学卒業後,職を転々とし,一時期暴力団にも加入した。若いころは傷害や暴行等の粗暴事犯を繰り返したが,40代からは常習的に無銭飲食を行った。酒好きでアルコール依存症。本件では,簡易宿泊所などで生活し,生活保護を受給していたが,酒代に費消し,金銭に窮し無銭飲食を行った。懲役2年。 (2)高齢犯罪者の罪名,前科・前歴等 本件罪名別構成比は,7-3-2-1図のとおりである。 窃盗が139人(37.8%)と最も多く,次いで,傷害・暴行が35人(9.5%),公務執行妨害が14人(3.8%),暴力行為等処罰法違反が14人(3.8%),公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(以下,本項において「迷惑防止条例」という。)違反が14人(3.8%),詐欺が13人(3.5%)と続く。窃盗と傷害・暴行で全体のほぼ半数の174人(47.3%)になる。 7-3-2-1図 19年受理高齢犯罪者全体の本件罪名別構成比 ここで,19年受理高齢犯罪者全体がいつ犯罪を開始し,どのように犯罪を反復しているかを知るために,比率の高かった窃盗及び傷害・暴行とその他の3つに分けて,前節で行った犯罪を開始した年齢及び犯罪反復パターンとの組合せによる類型と同じ手法に基づく分類によって,前科時年齢別本件罪名別構成比を見たものが,7-3-2-2図である。窃盗は「若年時1犯目以後継続」が35.3%と最も多く,次いで,「高齢初犯」(23.0%),「若年時1犯目以後中断」(17.3%)と続く。これに対して,傷害・暴行は「高齢初犯」が60.0%と圧倒的に多く,次いで「若年時1犯目以後中断」(20.0%),「40代以後1犯目」(8.6%),「若年時1犯目以後継続」(8.6%)と続く。7-3-2-2図 19年受理高齢犯罪者全体の前科時年齢別本件罪名別構成比 また,同様に,19年受理高齢犯罪者全体について,男女それぞれがいつ犯罪を開始し,どのように犯罪を反復しているかを見たものが,7-3-2-3図である。男子は「高齢初犯」が35.9%と最も多く,次いで「若年時1犯目以後継続」(23.4%),「若年時1犯目以後中断」(17.9%),「30代1犯目」(11.6%)が多い。これに対して,女子は「高齢初犯」が66.7%と圧倒的に多く,次いで「高齢再犯」(10.3%),「40代以後1犯目」(7.7%),「若年時1犯目以後継続」(7.7%)が多い。7-3-2-3図 19年受理高齢犯罪者全体の前科時年齢別男女別構成比 次に,本件時の身上別構成比は,7-3-2-4図のとおりである。単純執行猶予中の者が15人(4.1%),仮釈放中の者が2人(0.5%)であった。 前科・前歴総数別構成比は,7-3-2-5図のとおりである。 前科・前歴のない者が90人(24.7%),前科・前歴のある者が275人(75.3%)であった(前歴が不詳の者3人については,前科・前歴の総数が不明のため除く。)。 7-3-2-4図 19年受理高齢犯罪者全体の本件時の身上別構成比 7-3-2-5図 19年受理高齢犯罪者全体の前科・前歴総数別構成比 前科回数別構成比は,7-3-2-6図のとおりである。前科のない者が144人(39.1%),前科のある者が224人(60.9%)であった。 受刑回数別構成比は,7-3-2-7図のとおりである。 131人(35.6%)が受刑歴を有している。 7-3-2-6図 19年受理高齢犯罪者全体の前科回数別構成比 7-3-2-7図 19年受理高齢犯罪者全体の受刑回数別構成比 7-3-2-4図から7-3-2-7図によると,高齢犯罪者の約4分の1(24.7%)は,高齢になって初めて罪を犯した者(前科・前歴なし)である一方,前科・前歴を有する再犯者も多く,受刑まで至っている者が35.6%と相当数いることが分かる。そこで,以下の各項目からは,前科・前歴・受刑の有無に着目して,犯罪性の進度別に,前記「高齢初発群」(前科・前歴なし),「前歴あり群」(前科なし・前歴あり),「前科あり群」(前科あり・受刑歴なし)及び「受刑歴あり群」(1回以上の受刑歴あり)の4つの群に分けて分析することとする。 各群の本件罪名別構成比を見たものが,7-3-2-8図である。 「高齢初発群」は,傷害・暴行が19.8%で最も多く,次いで,迷惑防止条例違反(9.9%),公務執行妨害(5.5%),暴力行為等処罰法違反(5.5%)が多かった。この群に窃盗はなかった。「前歴あり群」は,窃盗が60.4%で最も多く,次いで,傷害・暴行(5.7%),公務執行妨害(3.8%),迷惑防止条例違反(3.8%),銃刀法違反(3.8%)が多かった。「前科あり群」は,窃盗が33.3%で最も多く,次いで,公務執行妨害(7.5%),傷害・暴行(5.4%),売春防止法違反(5.4%),わいせつ文書頒布等(4.3%)が多かった。「受刑歴あり群」は,窃盗が58.0%で最も多く,次いで,傷害・暴行(6.9%),詐欺(6.1%),暴力行為等処罰法違反(4.6%)が多かった。 7-3-2-8図 前科・前歴分類別本件罪名別構成比 各群の男女別構成比は,7-3-2-9図のとおりである。「前歴あり群」を除く群では,女子が10%未満で女子の構成比は低いが,「前歴あり群」は女子が34.0%と高い比率を示している。 7-3-2-9図 前科・前歴分類別男女別構成比 (3)高齢犯罪者の居住状況,婚姻状況,同居者等の生活状況各群の居住状況別構成比は7-3-2-10図のとおりである。 「高齢初発群」から「受刑歴あり群」まで犯罪性が進むにつれ,住居不安定な者(簡易宿泊所,ホームレス,住居不定の合計)の比率が上昇する傾向にあり,「受刑歴あり群」では,42.3%が住居不安定な者である。 7-3-2-10図 前科・前歴分類別居住状況別構成比 各群の婚姻状況別構成比を見たものが,7-3-2-11図である。ここでも,同様に「高齢初発群」から「受刑歴あり群」の順に,配偶者のない者(未婚,離別,死別の合計)の比率が上昇し,「受刑歴あり群」においては配偶者のない者の比率は,「高齢初発群」の3倍を超える76.7%である。 7-3-2-11図 前科・前歴分類別婚姻状況別構成比 各群の同居者別構成比は,7-3-2-12図のとおりである。ここでも,同様に「高齢初発群」から「受刑歴あり群」へと,単身者の比率が上昇し,「受刑歴あり群」において単身者の比率は,「高齢初発群」の3倍を超える77.9%である。これは,我が国の65歳以上の一人暮らしの高齢者の比率が15.7%(平成18年)である(本編第1章7-1-7図参照)のに比較し,著しく高い数値である。 7-3-2-12図 前科・前歴分類別同居者別構成比 各群の親族・親族以外との関係を見たものが,7-3-2-13図である。「親族との音信」がある者の比率は,「高齢初発群」から「受刑歴あり群」まで犯罪進度が進むにつれて低下し,「受刑歴あり群」では「高齢初発群」の半分以下の37.3%である。「親族以外との交流」がある者の比率は,「高齢初発群」は95.8%と高い比率を示し,その他の群は53.8%〜65.5%である。ちなみに,我が国の60歳以上の高齢者の近所の人たちとの交流について,「親しく付き合っている」は52.0%,「あいさつする程度」は40.9%(平成15年)となっている(「平成20年版高齢社会白書」による。)。 7-3-2-13図 前科・前歴分類別 親族・親族以外との関係 ここまで,居住状況,婚姻状況,同居者等の生活状況について見たが,犯罪性が進むにつれ,住居が不安定になるとともに,配偶者がなく,単身生活の者が激増し,親族との関係は希薄となる。「高齢初発群」と「受刑歴あり群」の比較では,配偶者のない者,単身である者の比率はそれぞれ後者が前者の3倍を超え,親族との音信のない者の比率は後者が前者の6.2倍である。犯罪性が進むほど,高齢犯罪者は孤独な生活状況に陥っている。(4)高齢犯罪者の就労状況,収入源等の経済状況 各群の就労状況別構成比を見たものが,7-3-2-14図である。 「前歴あり群」の有職者(被雇用人,会社役員,自営の合計)の比率が特に少なくなっている(20.8%)ものの,「高齢初発群」から「受刑歴あり群」へと進むにつれ,おおむね有職者の比率が低下している。「高齢初発群」の有職者の比率が60.4%であるのに対して,「受刑歴あり群」の有職者の比率は約3分の1の22.1%である。我が国の高齢者の就業状況が,男子の場合,65〜69歳で49.5%,女子の場合,65〜69歳で28.5%である(「平成20年版高齢社会白書」による。)ことと比較すると,「高齢初発群」を除く群の有職者の比率(20.8%〜27.5%)は,かなり低い数値である。 7-3-2-14図 前科・前歴分類別就労状況別構成比 各群の収入源別構成比は,7-3-2-15図のとおりである。7-3-2-15図 前科・前歴分類別収入源別構成比 収入源は,「高齢初発群」では「なし」はおらず,「前歴あり群」から「受刑歴あり群」までの順で,収入源「なし」の比率が上昇している。また,「生活保護」受給者の比率も上昇しており,「受刑歴あり群」では,24.2%である。これは,我が国の65歳以上の人口に占める生活保護者の比率が2.2%(平成18年)である(「平成20年版高齢社会白書」による。)のに比して,著しく高い数値である。各群の月収入金額別構成比を見たものが,7-3-2-16図である。 「高齢初発群」から「受刑歴あり群」へと進むにつれ,「収入なし」の比率が上昇し,「受刑歴あり群」では「収入なし」の比率が36.5%であり,「収入なし」と「10万円以下」(年収に換算すると120万円以下)の合計では63.5%であった。これは,我が国の高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか,又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯をいう。)の平均年間所得金額が301.9万円(世帯人員一人当たり:189.0万円)である(平成17年)(本編第1章7-1-9図参照)のに比較し,かなり低い生活水準にある。 7-3-2-16図 前科・前歴分類別月収入金額別構成比 各群の就労安定期の有無別構成比は,7-3-2-17図のとおりである。なお,就労安定期とは,同じ職場で10年以上稼働しているか,転職があっても就労をおおむね維持しているなどの期間をいう。「高齢初発群」から「受刑歴あり群」まで犯罪進度が進むにつれ,就労安定期「なし」の比率が急上昇している。「受刑歴あり群」では就労安定期「なし」の比率が54.1%であった。 7-3-2-17図 前科・前歴分類別就労安定期の有無別構成比 ここまで,就労状況,収入源等の経済状況に関する各項目について見た。経済状況については,犯罪性が進むにつれ,就労の安定しない者の比率が上昇し,無収入者の比率が大幅に上昇している。経済的に不安定な状態に至ることから,更に犯罪の危険性が高まる。高齢者犯罪を防止するためには,高齢者の経済的基盤を確保する方策,例えば,高齢者に対する就労支援,年金の充実などが必要とされるであろう。(5)高齢犯罪者の疾患・障害歴,物質依存関連疾患歴 疾患・障害歴は,各群とも約半数の者に認められた。これは,我が国の65歳以上の高齢者のうち,病気やけが等で自覚症状のある者(入院者を除く)が人口1,000人当たり493.1人(平成16年)であること(「平成20年版高齢社会白書」による。)と比較し,ほぼ同率といえる。 高齢者犯罪の一因として,健康上の理由が考えられるが,高齢犯罪者の疾患・障害歴が前記のように一般の高齢者とほぼ同率であることは,健康上の理由が高齢者犯罪の主要な原因であるとはいえないことを示唆する。 各群の物質依存関連疾患歴を見たものが,7-3-2-18図である。 「高齢初発群」から「受刑歴あり群」までの順に,「物質依存関連疾患歴」を有する者の比率が上昇し,「受刑歴あり群」では,11.5%である。 7-3-2-18図 前科・前歴分類別物質依存関連疾患歴 (6)高齢犯罪者の暴力団関係歴,問題ギャンブル歴等の問題行動の状況暴力団関係歴については,「前科あり群」で8.6%,「受刑歴あり群」で21.4%であり,犯罪性が進むにつれ,暴力団関係歴のある者の比率が大幅に上昇している。一方,問題ギャンブル歴では,犯罪性が進むにつれ,その比率が上昇し,「前歴あり群」3.8%,「前科あり群」8.6%,「受刑歴あり群」18.3%である。 高齢犯罪者の再犯を防止するためには,初犯の段階で,暴力団関係歴を有する者については早期の離脱指導が必要であるし,ギャンブルなどに問題のある者に対しては,それが犯罪の一因になり得ることを自覚させるなど継続的かつ手厚い指導が必要であろう。 (7)高齢犯罪者の犯行の背景 最後に,前科・前歴分類の4つの群ごとに犯行の背景を見たものが,7-3-2-19図である。 7-3-2-18図までは,今回の特別調査の対象とした刑事確定訴訟記録中の記載から直接的に,当該項目に該当するか否か,該当するとしてその内容・程度等を,客観的に特定し得るものが中心であった。これらの項目に加え,今回の特別調査では,高齢者犯罪の背景を考えるための手掛かりを少しでも多く得るため,以下のような諸項目についても,補充的に調査を行った。これらの項目は,必ずしも記録中の記載から直接に特定することは難しいものの,当該高齢者が犯行に至った経緯・動機,犯行状況等,前科・前歴,従前の生活態度・就業状況等に関する供述内容等を,調査者において総合的に勘案・評価し,当該事案の背景にあると推測される要因を特定したものである。 具体的には,[1]「経済的不安」とは,「収入が少なくて,生活が苦しい。」,「貯金が尽きたらどうしよう。」などの,現在又は将来の経済的不安が犯行の背景にあると思われる場合を,[2]「健康不安」とは,老化による体力の衰えや病気への不安,死に対する恐怖感等が犯行の背景にあると思われる場合を,[3]「問題の抱え込み」とは,「誰を頼ればよいのか分からない。」,「迷惑を掛けたくない。」などと思い,あるいは,福祉等に関する知識や理解が不十分で行政にも頼れないなどと追い詰められた心境が犯行の背景にあると思われる場合を,[4]「頑固・偏狭な態度」とは,適切な判断や認識ができにくく,柔軟な発想が困難になりがちで他者との対応に支障が生じやすかったり,「自分は間違ったことをしていない。」などと,頑固でゆがんだ考えを捨てない態度が犯行の背景にあると思われる場合を,[5]「疎外感・被差別感」とは,「周りの人々から嫌われている,あるいは,相手にされていない。」と感じていたり,対人関係が希薄で孤独な生活を送っていることが犯行の背景にあると思われる場合を,[6]「自尊心・プライド」とは,「若い者にばかにされているような気がする。」,「長年苦労して働いてきたのに,高齢者になってから周りから受ける扱いに我慢ができない。」,「年長者として敬意を払われていない。」などという不満が犯行の背景にあると思われる場合を,[7]「開き直り・甘え」とは,「高齢者だから,多少の違法行為は見逃してもらえるだろう。」などという安易な考え方が犯行の背景にあると思われる場合を,[8]「あきらめ・ホームレス志向」とは,現実から逃避し,自分が築いてきたものを投げ出すような心理的傾向や無気力な生活習慣が犯行の背景にあると思われる場合を,それぞれいう。 7-3-2-19図 前科・前歴分類別犯行の背景 それらの背景については,高齢犯罪者の犯した罪によって当然に異なるものであり,詳細は次節以下に述べるが,概括的に言って,「高齢初発群」では,「頑固・偏狭な態度」(20.9%),「自尊心・プライド」(17.6%)の比率が,「前歴あり群」では,「開き直り・甘え」(39.6%),「経済的不安」(28.3%)の比率が,「前科あり群」では,「経済的不安」(29.0%),「開き直り・甘え」 (28.0%)の比率が,「受刑歴あり群」では,「経済的不安」(40.5%),「あきらめ・ホームレス志向」 (32.8%),「開き直り・甘え」(32.1%)の比率が,それぞれ高い。犯罪性が進んでいない「高齢初発群」では,頑固・偏狭な態度やプライドを傷つけられたなど突発的な原因で犯罪に至る傾向があるのに対して,犯罪性が進むにつれ,開き直り・あきらめといった規範意識の低下や経済的不安・ホームレス志向といった生活基盤・経済基盤の破綻によって犯罪に至る傾向が認められる。(8)まとめ 犯罪性の進度別に4つの群に分け,高齢犯罪者の属性について分析した。 犯罪性が進むにつれ,単身,住居不安定,無収入の者の比率が上昇し,周囲に保護・監督する者もなく,経済的に不安定な状態にある高齢犯罪者の実態が浮き彫りになった。そして,これらの者の中には,心身に疾患を抱える者,暴力団関係歴,問題ギャンブル歴を有する者がいた。 このような実態を踏まえ,犯罪性の進度に応じた適時適切な対応が高齢者犯罪の発生を防止する有効な方策であると思われる。そのためには,刑事司法機関のみならず,医療・福祉,地方自治体等関係機関が連携するのはもちろん,地域住民の支援や就労先の確保等地域社会において高齢者を孤立させないシステムの構築が求められるであろう。 |