前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成20年版 犯罪白書 第7編/第1章/1 

第7編 高齢犯罪者の実態と処遇

第1章 はじめに

1 高齢犯罪者の増加と我が国の高齢社会化の現状

 近年,高齢犯罪者の増加が著しい。第1編で見たように,一般刑法犯の認知件数は,戦後を通じて見ればなお相当高い水準にあってその動向は予断を許さないものの,平成14年をピークに減少に転じている。
 ところが,後に詳しく見るが,一般刑法犯の年齢層別検挙人員は,成人の各年齢層について見ると,横ばいないし増加傾向にあり,高齢者層の増加傾向は特に著しい。
 なお,「高齢」とは65歳以上をいう(以下同じ。)。従前の犯罪白書では,刑事司法関係の古い統計の年齢区分の制約から60歳以上を高齢としていたが,本白書の根拠資料となる統計の年齢区分には同様の制約がないため,最近の一般的な取扱いに合わせ,65歳以上の者を高齢者とすることとした。
 警察,検察,矯正及び更生保護という各手続・処遇段階(以下,本章において「各手続段階」という。)における人員中の高齢者数の推移を男女別に見ると,7-1-1図のとおりである。

7-1-1図 各手続段階別・男女別高齢者数の推移

 各手続段階における高齢者の人員は男女ともに増加している。特に,一般刑法犯検挙人員では,高齢の女子の検挙人員は男子の半数近くいる。しかも,これらの高齢犯罪者の増加の勢いは,高齢者人口の増加の勢いをはるかに上回っている。
 7-1-2図は,高齢犯罪者と高齢者人口の増加傾向を比較するため,各手続段階における高齢者の処理人員の人口比(当該年齢層人口10万人当たりの対象人員の比率をいい,高齢者人口10万人当たりの高齢者の対象人員の比率を,特に「高齢人口比」という。以下,本編において同じ。)を見たものである。

7-1-2図 各手続段階別・男女別高齢人口比の推移

 各手続段階における高齢人口比は,男女ともに大幅に上昇している。人口比は,単位人口当たりの人員の比率であるから,例えば,ある手続段階で手続の対象となる人員が2倍に伸びたとしても,その間に人口も2倍に増加していた場合,単位人口当たりの人数の比率である人口比は変化しない。したがって,高齢人口比が上昇したということは,高齢者人口の増加率以上の比率で対象となる人員が増加したことを意味しており,各手続段階において,高齢犯罪者の人員が高齢者人口の増加を上回る率で増加していることが分かる。
 このような高齢犯罪者増加の背景の一つとして,我が国の高齢者人口の急激な増加を見ておく必要がある。我が国の高齢化の推移と将来推計は,7-1-3図のとおりである。
 平成20年版高齢社会白書によれば,我が国の総人口は,平成19年10月1日現在,1億2,777万人で,前年に比べ横ばいであるが,65歳以上の高齢者人口は,過去最高の2,746万人(前年2,660万人)となり,総人口に占めるその割合(高齢化率)も21.5%(前年20.8%)となっている。我が国の高齢化率は,昭和25年には5%に満たなかったが,45年に「高齢化社会」を画する水準となる7%を超え,平成6年には前記水準の倍の14%を超えて,いわゆる「高齢社会」と称される状況となり,今日では21%を超えて5人に1人が高齢者という「本格的な高齢社会」になっている。そして,今後,我が国の総人口は,長期の減少過程に入る一方で,高齢者人口は,いわゆる「団塊の世代」が65歳に到達する24年には3,000万人を超え,その後も54年まで増加を続けると推定され,我が国は世界のどの国も経験したことのない高齢社会になると予想されている。
 しかも,我が国における高齢化は,世界に例を見ない速度で進行している。我が国及び諸外国における高齢化率の推移は,7-1-4図のとおりである。
 我が国は,高齢化が進んでいる韓国や欧米諸国と比べても,高齢化率が高く,この傾向は今後も続くと予想されている。

7-1-3図 高齢化の推移と将来推計

7-1-4図 我が国及び諸外国の高齢化率の推移

 次に,このような我が国の高齢社会について,様々な社会的諸要素等についても概観することとする。
 我が国の平均寿命の推移と将来推計は,7-1-5図のとおりである。
 昭和30年当時と比べると,男女ともに平均寿命が延び,現在では,65歳時点での平均的な余命は,男子は約15年,女子は約20年である。高齢に達しても,男女ともに体力を有しており,それに伴い高齢者の活動範囲も拡大していると思われる。その一例として,高齢者の雇用者数を見ると,7-1-6図のとおりである。
 現在の我が国では,高齢者の雇用者数が増加しており,高齢者の社会参加の機会が増えていることがうかがわれる。

7-1-5図 平均寿命の推移と将来推計

7-1-6図 雇用者数・完全失業率の推移

 家族形態別に見た高齢者の割合は,7-1-7図のとおりである。
 近年,子供と同居する高齢者が減る一方,一人暮らしや夫婦のみで生活する高齢者が増加傾向にある。
 一人暮らしの高齢者の動向は,7-1-8図のとおりである。

7-1-7図 家族形態別にみた高齢者の割合

7-1-8図 一人暮らしの高齢者の動向

 一人暮らしの高齢者の増加は男女ともに顕著であり,平成17年には,高齢者人口に占める一人暮らしの高齢者の比率は,男子で9.7%,女子で19.0%と,特に女子において高い。
 高齢者世帯の年間所得の分布は,7-1-9図のとおりである。
 近年の高齢者の経済的な暮らし向きについての意識の変化は,7-1-10図のとおりである。
 家計を多少とも心配する高齢者が増えている。

7-1-9図 高齢者世帯の年間所得の分布

7-1-10図 高齢者の経済的な暮らし向き

 こうした高齢者の暮らしの中で,孤独・孤立化が進み,経済的不安が増大していることがうかがわれる状況と,高齢者による犯罪の増加の関係については,第3章第2節で改めて考察する。
 また,高齢者の社会進出が進むにつれ,刑事事件に巻き込まれて被害者となるケースも増加していると思われる。被害認知件数に占める高齢者が被害者となった件数の割合(高齢者構成比)を見ても,若干上昇している。人が被害者となった一般刑法犯の被害者の年齢層別認知件数の推移は,7-1-11図のとおりである。

7-1-11図 人が被害者となった一般刑法犯の被害者の年齢層別認知件数の推移

 このように,高齢者が刑事事件に巻き込まれるケースが増加していることは,高齢社会における刑事政策上看過できない側面であるため,第2章第6節において,改めてその動向を見ることとする。