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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第5章/第2節/4 

4 長期刑仮出獄者

 行刑施設内で長期間を過ごした者の社会復帰には固有の困難性がある。そのため,長期刑(無期刑及び執行刑期8年以上の有期刑をいう。以下,本項において同じ。)受刑者については,昭和54年以降,仮出獄審理を充実させる施策が実施されるとともに,中間処遇(仮出獄後の一定期間,更生保護施設に帰住させ,社会適応訓練を中心とした処遇を集中的に実施した上で,最終的な帰住地に帰住させる制度)が導入されている(本編第4章第3節2参照)。本項では,長期刑仮出獄者の特質や処遇の実情について見ることとする。

(1) 長期刑仮出獄者数及び中間処遇実施率

 5-5-2-22図は,すべての行刑施設に収容されている長期刑受刑者が中間処遇の対象とされた昭和61年以降における長期刑仮出獄者数及び中間処遇の実施率の推移を見たものである。
 無期刑仮出獄者数は,長期的に減少しており(5-4-2-9図参照),平成15年は16人であった。長期有期刑(執行刑期8年以上の有期刑をいう。以下,本項において同じ。)仮出獄者数は,年ごとに変動があり,特定の傾向は見られないが,おおむね100人から180人の範囲内で推移し,15年においては122人であった。最近10年間の通算で,中間処遇実施率は,無期刑仮出獄者が87.6%,長期有期刑仮出獄者が87.0%であり,多くの者について中間処遇が実施されている。

5-5-2-22図 長期刑仮出獄者数及び中間処遇実施率の推移(5-4-3-2図を再掲)

(2) 在所期間

 5-5-2-23図は,最近10年間に仮出獄を許可された長期刑受刑者(長期有期刑受刑者1,372人及び無期刑受刑者112人。なお,不定期刑受刑者及び仮出獄が取り消された後,再度仮出獄許可になった者は除いている。)について,在所期間の分布及び平均在所期間を示したものである。
 長期有期刑受刑者の在所期間は,最短が5年0月,最長が19年2月で,平均在所期間は112.2月であり,無期刑受刑者については,最短が13年3月,最長が38年10月で,平均在所期間は256.8月であった。

5-5-2-23図 長期刑仮出獄許可人員の在所期間の分布

(3) 年齢

 5-5-2-24図は,最近10年間に仮出獄を許可された人員13万7,300人について,仮出獄申請受理時の平均年齢の推移を刑期層別に見たものである。長期有期刑仮出獄者は,刑期の短い者と比べて平均年齢が高く,無期刑仮出獄者は更に高くなっている。
 最近10年間を通算した平均年齢を見ると,執行刑期3年以下の者,3年を超え8年未満の者がそれぞれ39.4歳と39.8歳でほぼ等しく,8年以上の者は46.3歳,無期刑受刑者は56.8歳であった(法務省大臣官房司法法制部の資料及び法務総合研究所の調査による。)。長期刑受刑者,取り分け無期刑受刑者は,在所期間がかなり長く,これが年齢に反映されている。

5-5-2-24図 仮出獄許可人員の平均年齢の推移(刑期層別)

(4) 罪名

 5-5-2-25表は,最近10年間に仮出獄を許可された長期刑受刑者(不定期刑受刑者及び仮出獄が取り消された後,再度仮出獄許可になった者を除く。)について,その罪名を示したものである。長期有期刑仮出獄許可人員は,その7割近くを殺人が占めており,次いで,強盗致死傷を中心とする強盗が多い。なお,「その他」に含まれる罪名は,窃盗,銃刀法違反,麻薬取締法違反等である。また,無期刑仮出獄許可人員は,強盗致死傷が最も多く,次いで,殺人が多い。

5-5-2-25表 長期刑仮出獄許可人員の罪名

(5) 保護観察期間

 5-5-2-26図は,最近10年間に仮出獄を許可された長期有期刑受刑者(不定期刑受刑者及び仮出獄が取り消された後,再度仮出獄許可になった者を除く。)1,372人について,保護観察期間(残刑期)の分布及び平均値を示したものである。
 平均保護観察期間は18.3月で,有期刑仮出獄許可人員全体(13万5,283人)の平均値(4.8月)よりも1年余り長い。また,保護観察期間は,最短1月未満から最長75月という広い範囲に分布しており,満期近くになって短期間の仮出獄が許可される者から,満期のかなり前に仮出獄が許可される者まで,様々なケースがあることが分かる。

5-5-2-26図 長期有期刑受刑仮出獄許可人員の保護観察期間の分布

(6) 無期刑仮出獄者に対する恩赦

 無期刑仮出獄者は,恩赦(大赦,特赦,減刑又は刑の執行の免除)を受けない限り,終生,保護観察を受ける。5-5-2-27図は,最近20年間における無期刑仮出獄者に対する恩赦(刑の執行の免除)の決定人員の推移を見たものである。

5-5-2-27図 無期刑仮出獄者に対する恩赦(刑の執行の免除)の決定人員の推移

(7) 長期刑仮出獄者に対する処遇

 これまで見てきたとおり,長期刑仮出獄者は,殺人,強盗致死傷その他の重大事犯を犯した者が多く,社会の見る目が厳しいことに加え,[1]資質に問題性を有する者が多いなどの理由から,日常生活になじませ,自律的・計画的な生活を営めるようにするために長期間を要する,[2]一般的な社会経験が不足しているため,日常生活上のささいな問題場面での対応を誤って,問題行動に発展することがある,[3]近親者との死別,関係希薄化等により,家族との折り合いが悪化して生活が不安定になるおそれがある,[4]中でも無期刑仮出獄者は概して年齢が高く,健康面,就職面に不安を抱える場合があるといった問題点が指摘されている。
 そのため,長期刑仮出獄者の保護観察の実施に当たっては特段の配慮が必要であり,その円滑な社会復帰を図るとともに,各対象者の問題点を把握して保護観察の実施に役立てるため,昭和54年以降,中間処遇制度が導入されている。
 中間処遇は,仮出獄を許可された者のうち地方更生保護委員会が相当と認めたものについて,本人の同意を得て,仮出獄後の一定期間更生保護施設に帰住させ,社会適応訓練を中心とした処遇を集中的に行うというものである。中間処遇の実施期間は1か月であり,仮出獄許可の際の特別遵守事項として,一定の更生保護施設に居住して指導を受けることが義務付けられる。
 中間処遇において取り上げるべき項目は,例えば,[1]転居,運転免許,社会保険等の諸手続に関する助言,[2]就職,経済感覚のかん養など生活基盤を築くための指導・助言,[3]社会生活技能訓練(SST。385頁のコラム参照。)の実施や心情安定のためのカウンセリング,[4]親族,雇用主等との面会・通信など中間処遇終了へ向けた準備など極めて多岐にわたっており,保護観察所の保護観察官及び更生保護施設職員がその実施に当たっている。
 5-5-2-28表は,ある更生保護施設で用いられている中間処遇の実施計画の例であるが,対象者は,このような指導・訓練を受け,中間処遇を終了した後,予定されていた親族方などの帰住先に転居し,その地域を担当する保護観察官,保護司によってその後の保護観察を受けていくこととなる。
 なお,長期刑仮出獄者に対する保護観察等をより一層充実させるため,法務省保護局では,平成12年に長期刑仮出獄者に対する処遇の実施要領を見直し,必要に応じて複数の保護観察官を担当に指名することとしたほか,仮出獄後1年間を重点的処遇期間として,保護観察官による接触の頻度を高めることなどを定めた。さらに,処遇内容に関して,被害者等に対する慰謝の措置の項目を設け,担当保護観察官が,継続的に被害者等の消息や仮出獄者に対する感情の把握に努める一方,仮出獄者に対し,慰謝の措置や被害弁償を実行する意欲の喚起を図るとともに,その具体的方法について指導・助言するものとされた。仮出獄者自身が「まじめで安定した生活」を送るようになっても,それだけでは被害者・遺族の受けた被害が回復されるわけではないから,被害者等に対する慰謝を新たに処遇の内容として明示したことは意義があると考えられる。

5-5-2-28表 中間処遇対象者に対する処遇実施計画の例