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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第5章/第2節/3 

3 覚せい剤対象者

 次に,覚せい剤取締法違反による保護観察対象者(以下「覚せい剤対象者」という。)について見ることとする。

(1) 新規受理人員

 5-5-2-17図は,昭和48年以降における覚せい剤対象者新規受理人員の推移を見たものである。覚せい剤取締法違反による仮出獄者は,昭和50年代後半に急増し,その後いったん減少したが,ここ数年は,多少の上下はあるものの,おおむね横ばいで推移しており,平成15年は4,025人であった。これに対し,同法違反による保護観察付き執行猶予者は,ここ3年減少を続けており,15年は623人であった。

5-5-2-17図 覚せい剤対象者の新規受理人員の推移

(2) 年齢

 5-5-2-18図は,最近10年間における覚せい剤対象者及びそれ以外の保護観察対象者の平均年齢の推移を見たものである。仮出獄者,保護観察付き執行猶予者ともに,覚せい剤対象者は,それ以外の保護観察対象者と比べて平均年齢が若い。

5-5-2-18図 保護観察新規受理人員の平均年齢の推移(覚せい剤・その他別)

(3) 女子

 5-5-2-19図は,女子の覚せい剤対象者新規受理人員及び女子保護観察新規受理人員に占める覚せい剤対象者の比率の推移を見たものである。女子については,近年,覚せい剤取締法違反による仮出獄者の増加が顕著であり,また,仮出獄者のおおむね半数が同法違反による者で占められている点が特徴的である。

5-5-2-19図 女子覚せい剤対象者の新規受理人員の推移

(4) 保護観察期間

 5-5-2-20図は,覚せい剤対象者の保護観察期間別構成比の推移を見たものである。保護観察付き執行猶予者の保護観察期間は,ほとんどが2年を超えているのに対し,仮出獄者の保護観察期間は,ほとんどが1年以内であり,また,3分の2余りが6月以内である。

5-5-2-20図 覚せい剤対象者新規受理人員の保護観察期間の推移

(5) 犯罪経歴

 5-5-2-21図[1]は,覚せい剤取締法違反による仮出獄新規受理人員の入所度数別構成比の推移を見たものである。ここ数年,初入の者が約半数を占めて横ばいとなっており,平成15年は50.4%であった。
 同図[2]は,覚せい剤取締法違反による保護観察付き執行猶予新規受理人員の刑事処分歴別構成比の推移を見たものであるが,前科を有しない者が約半数を占めている。

5-5-2-21図 覚せい剤対象者新規受理人員の犯罪経歴

(6) 覚せい剤対象者の処遇

 覚せい剤乱用者は,覚せい剤に対する依存性が強く,同種再犯に及ぶおそれが大きいといわれている。覚せい剤受刑者の5年内再入率が高いことは,本編第3章第2節45-3-2-39表40表参照)において述べたとおりであり,また,覚せい剤取締法違反の執行猶予取消率が高いことについても,第2編第3章第3節5で述べたとおりである。加えて,覚せい剤の使用は,一般に,他人の目の届かないところで人知れず行われ,また,直接的な被害者もないために実態把握が困難であり,保護観察の実施にも難しさが伴う。
 他方,覚せい剤対象者は,比較的年齢層が若く,また,犯罪経歴が浅い者も多く,処遇効果が出やすいと考えられる者が多く含まれている。そのため,保護観察所においては,担当保護司の定期的往訪による実態把握,担当保護観察官による初期介入,交友関係・生活習慣・就労等に関する指導,薬害教育の実施,関係機関・団体(精神保健福祉センター・保健所,精神医療機関,民間のリハビリ施設・自助グループなど)との連携といった多様な方策を個々の事案に応じて組み合わせながら,覚せい剤対象者に対する保護観察を実施している。
 また,覚せい剤対象者の再犯を防止する上で,本人と接触する機会が多い同居家族その他の引受人が果たす役割は非常に大きい。中でも薬物乱用者の家族は,本人の薬物乱用に苦しめられてきた被害者という側面がある一方で,「本人の借金や不始末等を肩代わりする」,「安易に求めに応じて小遣いを渡したり,脅しに屈して金を差し出したりする」といった行動を通じて,本人が薬物使用を続けることを結果的に支えてしまう場合があるといわれており,家族の悩みや苦しみに耳を傾けながらも,本人に対する接し方を改善させるための指導が重要となる。そこで,行刑施設に在監中の覚せい剤受刑者の引受人等を対象とする講習会や座談会(いわゆる「引受人会」)を行う保護観察所も増えつつある。その具体的内容としては,保護観察官及び保護司の役割の説明,引受人の心構え等に関する説明,薬物の専門家による講話,薬害に関する映像教材の視聴,家族の悩みや注意すべき点を共有するための座談会,個別面談といったものがあり,平成15年度に覚せい剤対象者の引受人会を実施した保護観察所の数は21庁,実施回数は32回であった(法務省保護局の資料による。)。
 以上のほか,断薬に向けた本人の努力を支えるため,平成16年4月から,主として仮出獄者を対象に,本人の自発的意思に基づく簡易尿検査が導入されている。その詳細については後述する(本章第4節2参照)。