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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第5章/第3節/1 

第3節 社会内処遇の担い手の変化

1 保護司

 保護司は,犯罪者及び非行少年の改善更生を助けることなどを使命とし,法務大臣の委嘱を受けて活動するボランティアである。保護司法1条は,「保護司は,社会奉仕の精神をもって,犯罪をした者の改善及び更生を助けるとともに,犯罪の予防のため世論の啓発に努め,もって地域社会の浄化をはかり,個人及び公共の福祉に寄与することを,その使命とする。」と定め,保護司の使命と,保護司が社会奉仕の精神をもって職務に当たる民間篤志家であることを明らかにしている。
 また,保護司法3条1項は,真に適任である者を確保するため,保護司には,[1]人格行動に社会的信望がある,[2]職務遂行に必要な熱意と時間的余裕がある,[3]生活が安定している,[4]健康で活動力があるといった資格要件を定めている。
 保護司の職務は多岐にわたるが,その中でも中心となるのは,犯罪者及び非行少年に対する保護観察である。我が国の保護観察は,専門的知識を有する保護観察官と地域に根ざした保護司の官民協働によって実施されるが,保護司はその実行機関として大きな役割を担っている。
 このような保護司の制度が現行の姿になったのは,昭和25年施行の保護司法によるものであるが,施行後半世紀余りが経過し,保護司の状況にも様々な変化が見られる。
 そこで,以下では,まず,統計数値によって,保護司のプロフィールの変化を概観した上,法務総合研究所が実施した「保護司の活動実態と意識に関する調査」(以下「保護司特別調査」という。)の結果に基づき,保護司の「現在」を明らかにすることを試みたい。
 なお,本白書の特集においては,成人犯罪者の処遇に焦点を当てているが,保護観察新規受理人員の約6割は少年であり(平成15年。交通短期保護観察少年を除く。詳細な数値については,巻末資料2-13参照。),保護司が実際に接する対象者は,成人よりもむしろ少年の方が多い。保護司の問題を検討する際には,この点にも留意する必要がある。

(1) 保護司のプロフィールの変化

 保護司は,非常勤の国家公務員であるが,給与は支給されず,活動に要する費用の全部又は一部が実費弁償として支給されるにとどまる。5-5-3-1図は,保護司の職業別構成比の推移を見たものである。年を追うに従って,農林漁業従業者及び宗教家の比率が低下し,無職者の比率が上昇していることが特徴的である。無職者の比率が上昇した背景には,主婦層を中心とする女性保護司の増加,定年退職後に保護司となる者の増加などの事情があるものと考えられる。
 5-5-3-2図は,女性保護司の比率の推移を見たものである。昭和28年当時わずか7.2%であった女性保護司の比率は一貫して上昇し,平成16年には24.9%と約4人に1人の割合となっている。幅広い層から多様な保護司を確保して行く上で,女性保護司の増加は好ましい変化といえる。

5-5-3-1図 保護司の職業別構成比の推移

5-5-3-2図 女性保護司の比率の推移

 5-5-3-3図は,保護司の年齢層別構成比の推移を見たものであり,5-5-3-4図は,保護司の平均年齢の推移を見たものである。保護司については,社会的信望や時間的余裕があることなどが資格要件とされているため,年齢層がある程度高くなるのは自然であるが,それを考慮に入れても高齢化の傾向が著しい。昭和28年には50歳代以下の者が7割以上(74.3%)を占め,平均年齢は53.2歳であったのに対し,平成16年においては60歳以上の者が7割近く(69.2%)を占め,平均年齢は63.3歳に上昇している。
 保護司が,人生経験を生かして活動に当たることは重要であるが,他方,少年を始めとする保護観察対象者との世代間ギャップが大きくなりすぎると,その気持ちを理解することが難しくなるのではないかとの指摘もあり,活発な行動力と柔軟な処遇能力を有する適任者を壮年層から確保する必要もある。そこで,平成11年4月以降,保護司の再任上限年齢を76歳未満とするいわゆる定年制が導入されている。定年制は,5年間の経過措置を経た上,16年4月から完全実施されており,これに伴う年齢層等の変化が注目される。また,定年制の完全実施により,16年度は例年より多くの保護司が退任するので,これに伴う保護司の新規確保が課題であろう。

5-5-3-3図 保護司の年齢層別構成比の推移

5-5-3-4図 保護司の平均年齢の推移

(2) 特別調査―保護司の活動実態と意識

 法務総合研究所では,保護司の活動実態と意識を明らかにするため,保護司特別調査を行った。同調査は,[1]全国の保護司82人に対する面接調査を行い,[2]その結果をも踏まえて質問用紙を作成し,[3]全国から無作為抽出した3,000人の保護司に質問用紙を送付して回答を求めるという方法で実施したものであり,調査時期は平成16年2月から同年5月,回答者数は2,260人(回答率75.3%)であった。

ア 回答者の属性

 回答者の属性を見ると,男女別では,男性1,679人(74.3%),女性581人(25.7%)であり,また,年齢層別では,60歳代が45.5%で最も多く,以下,70歳以上28.4%,50歳代22.5%となっている。回答者の平均年齢は64.4歳であった。
 回答者の職業は,無職(主婦を除く。)が22.1%で最も多く,以下,主婦17.3%,会社・団体役員及び会社員14.4%,農林漁業10.8%,商業・サービス業10.0%,宗教家9.1%の順となっている。

イ 保護観察対象者との接触の形態

 保護観察は,対象者と適切な接触を保ち,その生活状況を見守りながら指導・援助に当たることが基本となる。接触の形態には,対象者が保護司宅を訪ねる「来訪」,保護司が対象者宅を訪ねる「往訪」,電話や郵便等の通信手段による往来信等があるが,その状況について見ると,5-5-3-5図のとおり,約4人に3人は,対象者を自宅に迎え入れる「来訪」を中心として面接を行っていることが分かる。

5-5-3-5図 保護観察対象者との接触の形態

 来訪という接触形態の長短所について保護司に質問したところ,5-5-3-6図のとおりであり,「対象者にとって,約束を守るというしつけになる」,「ゆっくりと落ち着いて面接できる」,「保護観察は自ら進んで受けるべきものであるという,対象者の自覚を高められる」,「対象者が保護司に親しみを持ってくれる」といった肯定的な評価が多い一方で,「保護司の家族の負担となる」,「異性の対象者の場合,面接がやりづらい」など,自宅を面接場所として提供していることによる苦労もうかがわれる。

5-5-3-6図 来訪の長短所

 往訪についても,その長短所を質問したところ,5-5-3-7図のとおり,「対象者の生活の実態をよく知ることができる」,「対象者とその家族との関係を観察できる」,「対象者の家族から話をよく聴くことができる」,「対象者宅の周囲の環境が分かる」など,対象者の生活状況把握に効果があるとする者が多いが,他方,「ゆっくりと落ち着いて面接できる」とする者は少なく,約2割にとどまっている。また,「対象者の保護観察を受ける態度が受動的になる」,「対象者宅に適当な面接場所がない」が,それぞれ4人に1人を超えており,保護司が苦心しながら往訪を実施していることが分かる。

5-5-3-7図 往訪の長短所

ウ 面接の日時等

 面接を行うことの多い曜日は5-5-3-8図のとおりであり,約4人に1人は,土・日・祝日を面接日に充てている。また,面接を行うことの多い時間帯は5-5-3-9図のとおり,午後6時〜午後9時台が約半数を占めている。これは,保護観察対象者が仕事をしたり,学校に通ったりしている場合,それを考慮して面接を実施していることによるものと思われる。

5-5-3-8図 面接を行う曜日

5-5-3-9図 面接を行う時間帯

エ 面接時に心掛けていること

 面接時に心掛けていることを質問したところ,5-5-3-10図のとおり,「対象者の話をよく聴く」が82.3%,「和やかな雰囲気を作る」が79.8%と多く,保護司が対象者と良好な関係を築きつつ,適切な指導を図ろうと努力していることがうかがわれる。

5-5-3-10図 面接時に心掛けていること

オ 地域とのかかわり,ボランティア活動等

 「保護司の地域性」ということがしばしば言われるが,保護司と地域とのかかわりはどのような状況であろうか。
 調査対象保護司は,そのほとんどが地域に長く居住しており,平均居住年数は約46年であった。また,保護司以外のボランティア活動等の経験について調査したところ,93.9%の者が,現在又は過去において保護司以外のボランティア活動等を経験したことがある旨回答している。経験したボランティア等の種類は,5-5-3-11図のとおりであり,多い順に,町内会役員(63.5%),PTA役員(55.2%),社会福祉協議会役員(29.2%),少年補導員(19.0%),更生保護女性会員(17.7%),消防団員(16.4%),民生・児童委員(14.8%),少年指導委員(11.4%)となっている。また,何種類のボランティア等を経験しているかについて見ると,保護司以外に二つが23.1%,三つが22.8%,四つ以上が29.9%となっており,地域において多様な役割を果たしている者が多いことが表われている。

5-5-3-11図 保護司の兼ねている又は経験したことのあるボランティア等

カ 保護司に対する周囲の認識等

 保護司は,地域との多様なつながりを持つ一方,対象者のプライバシーを守ることが求められる。そのため,保護司であることを地域の人々に知らせているか否かについては,5-5-3-12図のとおり,自分からは全く知らせていない者が約4割,必要に応じて知らせるにとどめている者が約6割となっている。
 また,「あなたが保護司であることとは別に,保護司が一般的にどのような活動をし,どのような役割を果たしているのか,地域の人々は知っていますか」という質問に対しては,5-5-3-13図のとおり,「知らない人の方が多い」,「知らない人が非常に多い」と認識している者が約6割である。保護司の処遇活動が対象者のプライバシーを重視しつつ行われることなどから,保護司の存在そのものが社会に十分に知られていないということがうかがわれる。
 このような状況について,回答者の77.1%が「保護司の社会的評価の向上」が大切であると答え,また,45.0%が,新たな保護司を確保する上でも,「保護司の役割についてもっと広報し,世間に知ってもらう」ことが効果的であると答えている。

5-5-3-12図 保護司であることを知らせているか

5-5-3-13図 地域の人々は保護司の活動や役割を知っているか

キ 保護司になったきっかけ,保護司になった時の気持ち

 保護司になったきっかけを質問したところ,「先輩保護司に勧められて」とする者が70.8%で圧倒的に多く,次いで,「市町村から推薦されて」16.6%となっており,「自分から希望して」という者は0.9%にとどまっていた。
 次に,保護司になった時の気持ちについて質問すると,5-5-3-14図のとおり,「務まるだろうかと,心配である」(68.1%)と感じながらも,「少しでも社会の役に立ちたい」(82.7%),「少しでも犯罪者や非行少年の更生に役立ちたい」(80.1%)という気持ちで保護司に就任した者が多いことが分かる。また,「自分自身が成長したい」(46.8%)という答えも多く,保護司が社会や他人のために役立ちたいという社会貢献の意識と共に,保護司活動を通じて自らを成長させていきたいという積極的な意識を持っていることが分かる。

5-5-3-14図 保護司になった時の気持ち

ク 保護司の職務意識

 保護司を務める上で重要な要素について質問したところ,5-5-3-15図のとおり,「秘密保持」が38.8%で最も多く,以下,「健康(活動力)」(35.0%),「熱意」(33.1%),「社会的信望」(31.7%),「時間的余裕」(26.9%),「忍耐強さ」(21.0%)の順となっている。

5-5-3-15図 保護司を務める上で重要な要素

 また,保護司を続けてきて感じることについて質問したところ,5-5-3-16図のとおり,「保護司活動を通じて人の輪が広がっている」が74.1%で最も多く,そのほか,「対象者の更生に役立っているという充実感がある」,「犯罪者や非行少年と接することは,特に怖いことではない」,「社会の役に立っているという充実感がある」,「自分自身が成長している」が半数を超えている。その一方で,「保護観察がうまくいかず,難しいと感じる」が39.7%に上っている。

5-5-3-16図 保護司を続けてきて感じること

(3) 小括

 保護司については,女性の増加など,多様な人材を確保する上で好ましい変化が生じている一方,時代とともに高齢化が進行しており,若手保護司の確保が深刻な課題となっている。
 また,保護司特別調査からは,[1]保護司が,主として自宅を処遇の場として「来訪」によって対象者と面接していること,[2]対象者を理解し,受け入れる姿勢を大切にし,社会内で対象者との接触を維持していくために努力していること,[3]他の様々なボランティア活動を並行させ,地域に根ざした活動を行っていること,[4]秘密保持を重視する一方,保護司の役割について理解してほしいと願っていること,[5]「社会の役に立ちたい」,「対象者の更生に寄与したい」という社会貢献を重視する気持ちが保護司の精神的基盤となっており,また,そのことに充実感を見いだしていることなどの結果が得られている。
 保護司特別調査では,そのほか,面接調査の過程で,「かつて暴力団関係のあった仮出獄者が,結婚を機に生活が安定していき,期間満了後も子供を見せにきてくれた。」,「私が担当する中で,人に心を開くことの大切さを感じてくれた少女があり,保護観察終了後も,毎年訪ねてきてくれる。」,「保護観察終了後,対象者の親が泣きながら感謝してくれた。」,「対象者が,『悩んだときに保護司さんの顔が浮かんだ』と言って,素直に相談してくれたときはうれしかった。」,「保護観察対象者が立ち直って,結婚式にも呼んでくれた。」といった声が寄せられており,これらの調査結果からは,草の根のボランティアとして犯罪者・非行少年の改善更生を支え,人間的な触れ合いや信頼関係の形成を通じて,成果を挙げている保護司の姿が浮かび上がる。
 犯罪者処遇のために地道な活動を続ける保護司は,縁の下で日本の治安を支える役割を担っているが,保護司自身が感じているとおり,必ずしも社会的認知が十分でない状況にある。今後は,保護司制度について積極的に広報し,国民の理解を得ることを通じて,幅広い層から多様な人材を確保するための方策を講じ,我が国の誇る保護司制度を維持発展させていくことが求められているといえよう。