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2 仮出獄の運用状況等 (1) 仮出獄人員及び仮出獄率 5-4-2-1図は,犯罪者予防更生法が施行された昭和24年以降における満期釈放者と仮出獄者の人員及び仮出獄率の推移を見たものである。
昭和24年から27年までは,行刑施設が終戦直後からの過剰収容に悩まされていた時期に当たり(本編第3章第1節5-3-1-2図参照),仮出獄率は,24年の79.7%をピークとして非常に高く,その後も35年までは,おおむね65〜70%という高い水準で推移していた。 戦後の混乱が去って受刑者数が減少し始めた昭和30年代後半以降,仮出獄率は次第に低下し,57年には現行制度発足後最低の50.8%を記録した。このような状況を踏まえ,法務省では,仮出獄制度の刑事政策的機能をより一層発揮させるため,59年から,仮出獄の適正かつ積極的な運用の施策(以下「適正・積極運用施策」という。)を実施している。これは,仮出獄の適否について十分審理をした上,要件を満たす者については,できるだけ仮出獄を許して更生の機会を与えるとともに,社会内処遇のために必要な保護観察期間を確保するため,仮出獄期間の相応の伸長を図るというものである。 その結果,仮出獄率は,昭和59年に57.6%へと上昇し,以後大きな変動はなく,55〜58%台で安定しており,平成15年は56.0%であった。 5-4-2-1図 出所受刑者数及び仮出獄率の推移 (2) 仮出獄申請受理人員及び棄却率 仮出獄の申請は,受刑者本人からではなく,行刑施設の長から地方更生保護委員会に対してなされる。同委員会は,審理を行った結果,仮出獄を不相当と認めるときは,決定をもって申請を棄却しなければならない。
5-4-2-2図は,昭和24年以降における仮出獄申請受理人員及び申請棄却率の推移を見たものである。棄却率は,上下を続けた後低い水準に落ち着き,最近10年間は2〜3%前後で推移している。 5-4-2-2図 仮出獄申請受理人員及び棄却率の推移 (3) 刑の執行率 5-4-2-3図は,有期刑仮出獄者について,昭和48年以降における刑の執行率の推移を見たものである。仮出獄率と同様に,適正・積極運用施策が実施された59年を境に執行率も変動し,それ以前と比べて若干早めに仮出獄が許可されるようになっている。
5-4-2-3図 有期刑仮出獄者の刑の執行率の推移 (4) 主な罪名別の動向 ア 仮出獄率 5-4-2-4図は,統計資料を入手し得た平成8年以降の出所受刑者について,主な罪名別に仮出獄率の推移を見たものである。
仮出獄率が最も高いのは業過である。業過のほとんどは交通事故事犯であって,多くの場合,受刑者自身の犯罪傾向が進んでいるわけではなく,それとともに,社会復帰のための環境も整っているからであると考えられる。強盗と強姦も仮出獄率が高く,殺人も全体の平均より高くなっている。 受刑者の数が多い窃盗と覚せい剤取締法違反について見ると,窃盗の仮出獄率は,全体に占める窃盗の割合が大きいこともあって,平均値に近い値となっている。また,覚せい剤取締法違反の仮出獄率は,全体よりもやや高めになっている。 これに対し,仮出獄率が低いのは,道路交通法違反と銃刀法違反である。 5-4-2-4図 主要罪名別仮出獄率の推移 イ 刑の執行率 5-4-2-5図は,平成6年から15年までの10年間に仮出獄を許可された者(無期刑仮出獄者を除く。)13万7,139人について,各人ごとの刑の執行率を算出した上,全体及び罪名ごとの平均執行率の推移を見たものである。
最近10年間における経年的な変化を見ると,全体の執行率は80%〜83%前後で推移していて大きな変動はなく,罪名ごとに見ても,業過の執行率がやや上昇していることを除けば,目立った変動はない。 また,罪名ごとの執行率を比較すると,多少の違いはあるものの,その差は,仮出獄率ほどには大きくない。最近10年間を通算した平均執行率は,全体が82.2%,殺人80.9%,強盗78.8%,窃盗83.2%,強姦80.6%,業過76.7%,銃刀法違反84.6%,覚せい剤取締法違反83.5%,道路交通法違反83.5%であった。 なお,同一罪名であっても,個々の受刑者ごとに執行率に違いがあることはもちろんであり,そのばらつきの程度を表す標準偏差は,10年間の通算で,全体が9.2,殺人9.7,強盗10.2,窃盗9.1,強姦8.7,業過8.3,銃刀法違反8.7,覚せい剤取締法違反8.7,道路交通法違反9.2であった。 5-4-2-5図 主要罪名別平均執行率の推移 執行率について更に見るために,平成6年から15年までの10年間に仮出獄を許可された前記13万7,139人について,初入・再入別及び刑期層別に平均執行率の推移を見ると,5-4-2-6図のとおりである。初入者と再入者では再入者の方が執行率が高く,また,刑期が長い層の方が執行率が高くなっている。犯罪を繰り返した者(再入者)や重大な罪を犯した者(刑期の長い者)に対しては,仮出獄を許可する場合であっても,より慎重に運用されているといえる。5-4-2-6図 初入・再入別及び刑期層別の平均執行率の推移 (5) 仮出獄者の再入状況 5-4-2-7表は,統計資料を入手し得た平成8年以降の出所受刑者について,各年末までにどれくらいの者が再入したかを示したものである。
満期釈放者の5年内再入率が56〜59%前後であるのに対し,仮出獄者の5年内再入率は37%前後である。満期釈放者と仮出獄者の5年内再入率に20%程度の大きな開きがあることは,仮出獄の適否の判断が比較的有効に機能していることを示している。 なお,出所受刑者に対するその後の処遇の在り方などが異なることから,再入率の単純な国際比較は困難であるが,他国におけるおおよその水準を知るため,最近の統計を入手し得た英国(イングランド及びウェールズに限る。)に関するデータを紹介すると,1999年に出所した男子受刑者(6万4,543人)の2年内再入率は36%であり,女子受刑者(5,041人)については31%であった(Prison statistics England and Wales2002による。)。これに相応する我が国の数値は,平成11年に出所した男子受刑者の2年内再入率は24.1%(満期釈放者34.2%,仮出獄者16.2%)であり,女子受刑者については10.9%(満期釈放者23.5%,仮出獄者7.9%)である(矯正統計年報による。)。 5-4-2-7表 出所受刑者の再入状況 また,5-4-2-8表は,再入率の高い窃盗と覚せい剤取締法違反を除く出所受刑者について,同様の方法で再入状況を示したものである。これらの両罪を除くと,仮出獄者の5年内再入率は22〜23%となる。再入率を更に低下させる努力を継続すべきことはいうまでもないが,これら両罪を除いた場合,仮出獄者の4分の3以上は,出所後5年経過しても刑務所に戻ってこないということであるから,我が国の行刑施設における処遇,仮出獄審理及び仮出獄者に対する保護観察は,相応の効果を上げているといえるであろう。5-4-2-8表 出所受刑者の再入状況(前刑窃盗又は覚せい剤取締法違反を除く) (6) 無期刑受刑者の仮出獄 5-4-2-9図は,昭和48年以降に仮出獄を許可された無期刑受刑者について,行刑施設在所期間別に人員の推移を見たものである。無期刑受刑者に対する仮出獄の運用は,近年,非常に慎重になされているといえる。
仮出獄許可人員は,長期的には減少しており,昭和50年代までは毎年おおむね50人以上が許可を受けていたのに対し,最近5年間では年平均9.2人となっている。また,仮出獄を許可された者の在所期間も長くなっており,昭和期には半数以上が在所16年以内であったのに対し,最近5年間では仮出獄の許可を受けた46人中41人(89.1%)が在所20年を超えている。 5-4-2-9図 無期刑仮出獄許可人員の推移(行刑施設在所期間別) (7) 小括 我が国における仮出獄の運用状況を概観してきたが,近年における仮出獄率は50%台後半,有期刑受刑者の刑の平均執行率は80〜83%程度であり,いずれも目立った変動は見られない。
これを更に詳細に見ると,仮出獄率は罪名ごとにかなりの差異が認められるのに対し,執行率は罪名による差異は必ずしも大きくない。他方,執行率は,犯罪経歴と事案の重大性(刑期の長短)による影響が認められる。無期刑受刑者に対する仮出獄は,近年,非常に慎重に運用されているが,このことからも,仮出獄の運用に当たって,事案の重大性等が考慮されていることがうかがえる。 出所受刑者の再入状況を見ると,仮出獄者の5年内再入率は満期出所者よりも大幅に低くなっている。特に,窃盗及び覚せい剤取締法違反以外の罪による受刑者に注目すると,仮出獄者の5年内再入率は4分の1以下にとどまっている。 以上のとおり,我が国の仮出獄審理は,総じて適切に運用されているといえるであろうが,それは,仮出獄審理を充実させるための諸施策や,長期刑仮出獄者に対する中間処遇などアフターケアを充実させるための工夫によって支えられている。そこで,次節では,これらを中心に,仮出獄に関連する諸施策の動向について見ていくこととする。 |