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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第5章/第2節/2 

2 高齢の保護観察対象者

 高齢受刑者と同様,高齢の保護観察対象者も増加している。以下,仮出獄者を中心に,その動向等を見ていくが,高齢受刑者に関する本編第3章第2節2と同様,ここでも60歳以上の者を高齢者として扱い,必要に応じて65歳以上の年齢層に関する数値を併記することとする。

(1) 新規受理人員

 5-5-2-12図[1]は,昭和48年以降における高齢の仮出獄新規受理人員の推移を見たものである。60歳以上の仮出獄新規受理人員は,昭和48年には150人(0.9%)であったのに対し,平成15年には1,088人(6.9%。65歳以上は437人,2.8%。)と大幅に増加している。なお,仮出獄新規受理人員に占める高齢者の比率は,新受刑者あるいは行刑施設年末在所受刑者に占める高齢者の比率(15年においては,それぞれ9.3%,11.0%。)よりも低くなっている。これは,年齢層が高くなるにつれ,満期出所する受刑者が多くなるからである(本編第3章第2節2(4)参照)。
 同図[2]は,昭和48年以降における高齢の保護観察付き執行猶予新規受理人員の推移を見たものである。48年には32人(0.4%)であった60歳以上の保護観察付き執行猶予新規受理人員は,平成15年には341人(6.3%。65歳以上は162人,3.0%。)と増加している。

5-5-2-12図 高齢の保護観察新規受理人員の推移

(2) 罪名

 5-5-2-13図は,最近10年間における仮出獄新規受理人員の罪名別構成比の推移を,60歳以上と59歳以下に分けて見たものである。
 高齢者は,若い層と比べて窃盗及び詐欺の比率が高いが,その差は新受刑者の場合(5-3-2-16図参照)ほどには大きくない。また,高齢者は,若い層と比べて,殺人の比率が高いが,これは,高齢新受刑者に占める殺人の比率が高いことに加え(本編第3章第2節2(2)ア参照),殺人で長期間服役した後,60歳以上になって仮出獄を許可される者が含まれているためであると考えられる。
 一方,高齢の仮出獄者は,若い層と比べて覚せい剤取締法違反の比率が低い。

5-5-2-13図 仮出獄新規受理人員の罪名別構成比の推移(年齢層別)

(3) 入所度数

 5-5-2-14図は,仮出獄新規受理人員の入所度数別構成比の推移を,60歳以上と59歳以下に分けて見たものである。高齢の仮出獄者は,若い層と比べて再入者の比率が高く,特に入所度数6度以上の者の比率が非常に高い。

5-5-2-14図 仮出獄新規受理人員の入所度数別構成比の推移(年齢層別)

(4) 居住状況

 5-5-2-15図は,仮出獄新規受理人員の保護観察当初の居住状況別の比率について,60歳以上と59歳以下に分けて,その推移を見たものである。高齢者は,親と同居する者の比率が極めて低く,また,更生保護施設に居住する者の比率が高くなっており,若い層と比べて,帰住環境が整っていないことがうかがわれる。なお,同図は,仮出獄を許可された者に関する比較であるが,高齢受刑者の中には,帰住先が定まらないために,そもそも仮出獄が許可されない者も少なくないと考えられる(本編第3章第2節2(4)参照)。

5-5-2-15図 仮出獄新規受理人員の保護観察当初の居住状況別構成比の推移(年齢層別)

(5) 生計状況

 5-5-2-16図は,仮出獄に係る保護観察対象者の生計状況(保護観察開始時における貧困率及び保護観察終了時における有職・無職別)を,60歳以上と59歳以下に分けて見たものである。高齢の仮出獄者は,若い層と比べて「貧困」であった者(受理時調査において,保護観察官が,各種資料に基づき「貧困」と認定した者をいう。)の比率が高く,また,無職のまま保護観察の終了を迎える者の比率も高くなっており,厳しい就労環境の下,経済的にも不安定な状況に置かれていることが分かる。

5-5-2-16図 仮出獄に係る保護観察対象者の生計状況の推移(年齢層別)

(6) 高齢の保護観察対象者の処遇

 高齢の保護観察対象者の中には,若いころから犯罪を重ねて老境に入った者,重大犯罪によって長期間服役し,高齢になって仮出獄した者などもあり,保護観察処遇の難しい者も少なからず含まれている(長期刑仮出獄者については,本節4参照。)。また,一般に,犯罪者の改善更生・社会復帰とは,自立し,かつ,安定した生活を築いて再び市民社会の一員となることを意味し,これを実現する前提として就労の確保が極めて重要であるが,高齢の保護観察対象者の場合,就職が容易でないことに加えて,そもそも「自立」を求めることが難しい年代に差し掛かっているという問題がある。
 自立した生活の維持が難しい者に対しては,生活保護や介護保険の適用が受けられるよう本人を援助し,福祉につなげていくことが,具体的な処遇方法として大きな位置を占めることとなるが,この点については,例えば,定まった住居のない者に対しては生活保護の受給手続を進めることが困難な場合があるなど,実際上のあい路も少なくない。
 受刑者あるいは犯罪者の高齢化に伴い,今後も,高齢の保護観察対象者が増加することが予想され,法務省保護局においても,平成15年4月以降,類型別処遇の新たな類型として「高齢対象者(65歳以上の保護観察対象者)」を取り入れるなどしているところであるが,高齢者の再犯を防止するためには,保護観察処遇の充実に努めることに加えて,医療・福祉関係機関との連携をより一層緊密化していくことが不可欠であろう。