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2 動機・背景分析 (1) 借金の申込みから強盗への移行 5―5―2―16図は強盗の動機について見たものである。大半が強盗致死という重大な犯罪を行っている事案であるにもかかわらず,自己及び家族の生活費を得るためというものばかりではなく,遊興費目的という生活の窮迫とは関係の薄い理由も多く,また,借財返済資金を得るためや債務を免れるためといった借金がらみの動機が,一般の強盗の場合に比して多い。また,事案の経過を詳細に見ていくと,金策に窮した被告人が,知人・友人等(過去に金を貸してもらったことのある者もない者も含む。)に借金の申入れを行い,これを拒まれるや,被害者を殺害して金品を奪うべく強盗殺人に及ぶという短絡的な犯行が目立った。この,いわば「借金申込みから強盗への移行類型」に該当する事案は,強盗群中22件であった。既に述べたとおり,多額の資産をねらって完全犯罪を目論む周到な犯行がある一方で,このような短絡的な動機から強盗殺人という重大な犯行に及ぶ例も少なからず存在することが認められた。
5―5―2―16図 強盗の動機 (2) 多重債務者による犯罪 既に第3章第5節で,全般的傾向として検挙人員中の無職者の数が増加し,その社会的背景として失業率の上昇,破産新受事件数と多重債務に関する相談件数の増加傾向を挙げたが,特別調査では,重大事犯について,[1]有職無職の別のほか,[2]転・失職の有無,[3]最終失職から犯行までの期間,[4]犯行時の負債額,[5]消費者金融からの借金の有無,[6]犯行時の支払能力,[7]借金の動機等経済的背景7点について調査した。
5―5―2―17,5―5―2―18,5―5―2―19図は,犯行時の職業の有無,転・失職の有無・回数,最終失職から犯行までの期間について見たものである。強盗の場合には,過半数が無職者で占められており,転・失職回数も3回以上が79.0%を占めるなど経歴から見ても安定性に欠けているきらいがある。また,最終失職から最初の強盗の犯行までの期間を見ると,最も多いのが6月以下と短期間で,全体的に殺人の場合に比して期間が短い傾向があり,失職が犯行に何らかの影響を与えている場合が相当数あることがうかがわれる。 5―5―2―20,5―5―2―21,5―5―2―22,5―5―2―23図は,犯行時の負債額(負債はあるが金額不明の場合を除く。),消費者金融からの借金の有無,支払能力の有無,借金の動機について見たものである。強盗群については,負債を有する者及び支払能力に問題のある者が大半を占めており,強盗を決意するに当たって,負債の問題が大きな要因となっていることを示している。また,負債額について見ると,1,000万円を超す高額の借金を抱えている者が最も多いが,300万円以下の借金しかない者を合計すると高額の借金を抱える者より多いのであって,比較的少額の借金しかないのに重大事犯を行っている者が相当数いることがうかがえる。また,消費者金融から借金をしていた者は強盗群の66.1%を占め(不明を除く。),そのうちいわゆる多重債務者(本項では金融業者2社以上から借入れをしている者をいう。)は消費者金融からの借入れのある者の57.9%を占めている。近年の消費者金融の貸付額は著しく増加する傾向にあり,その利用者は世代を問わず拡大している状況にあるが,消費者金融は便利な反面,無計画な利用を繰り返すと経済破綻に陥る危険性も高く,本件の調査対象者中にも,安易に消費者金融からの借入れを重ねて多重債務者として困窮するに至っている者が相当数いることが分かった。 ちなみに,借金の動機(消費者金融のみに限らない。)を見ると,遊興費・ギャンブルのためとするものが最も多く,安易な遊興目的で借金を重ねて経済的に困窮した末,安易に犯罪で状況を打開しようとして重大事犯に及ぶ事例の少なくないことがうかがわれる。 5―5―2―17図 職業の有無別構成比 5―5―2―18図 転・失職の有無別構成比 5―5―2―19図 最終失職から犯行までの期間別構成比 5―5―2―20図 犯行時負債額 5―5―2―21図 消費者金融からの借金の有無 5―5―2―22図 支払い能力の有無 5―5―2―23図 借金の動機 (3) 窃盗から強盗への移行 窃盗も強盗も同様に財物を奪取することを目的とする利欲犯である。事後強盗という類型があることから見ても極めて近接する犯罪であり,一般的には,窃盗常習者が強盗を行う場合や窃盗前科のある者が強盗を行うことも多く,刑務所に対する再入受刑者で見ると,強盗で再入所した者の過半数は強盗ないしは窃盗で前回入所している者である(第6章で後述。)。
本件対象となっている重大事犯の強盗群においても,強・窃盗前科歴を有する者が80人いる。5―5―2―24図は,強・窃盗前科のある者の強・窃盗前科歴数を見たものであり,前科歴数の多い者も少なくない。 また,事案ごとに見ると,窃盗を行いながら強盗に移行し,更には強盗殺人・強盗致死を行うに至るという事例も目立った。[1]主犯格に窃盗前科歴がある,[2]本件強盗に先行する窃盗を行っている(起訴されている場合のほか起訴されていないが判決で事情として言及されている場合を含む。),[3]事後強盗や居直り強盗等窃盗着手後の強盗,のいずれかに該当し,「窃盗から強盗への移行型犯罪」とでも呼ぶべき類型が48件あり,そのうち,主犯格に窃盗前科歴があるものが29件,先行する窃盗を行っているものが32件,事後強盗等窃盗着手後の強盗が16件を占めた。 5―5―2―25図は,同類型を先行する窃盗件数別に見たものである。重大事犯の中にも,窃盗の前科歴を有しており強盗へと移行する例や,窃盗を行った上更に金品を奪取するために強盗を行うという例が少なからず存在し,窃盗犯が場合によっては強盗に,さらには強盗殺人に発展する危険性を内包していることを示唆している。 また,5―5―2―26図は,同類型の主犯格の年齢層と窃盗前科歴数の関係について見たものである。同類型に関する限り,数の少ない20歳未満を除けば,年齢層が高くなるにつれ窃盗前科歴数の多い者の割合が高くなる傾向が認められ,窃盗前科歴を重ねた中高年の中にも強盗に移行する者が少なくないことがうかがわれる。 5―5―2―24図 強窃盗前科歴数 5―5―2―25図 窃盗から強盗への移行類型先行窃盗件数別内訳 5―5―2―26図 窃盗から強盗への移行類型前科歴数と年齢層 (4) その他 面識も利害関係もない無関係の通行人に対して,さしたる動機のないまま殺傷を行う,いわゆる通り魔犯罪は,4件認められた。いずれも薬物中毒者ないしは人格障害者による犯行であり,生育歴や経歴に不遇な面があり,日頃から不満を募らせ,自己中心的な思い込みから鬱屈した感情を爆発させて何の関係もない人々に危害を及ぼすという共通性が認められる。この種の犯罪は無差別的な犯行で,検挙されることをも全く意に介さず,爆発的な感情からなされる不合理な犯罪だけに,大量殺人へと発展しかねない重大な危険性を有している。
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