5―5―2―27，5―5―2―28図は，犯行の時間帯を見たものである。殺人群に関しては，夜間である午後6時から午前6時までの間に65.6％が集中し，特に午後9時から午前3時までの夜中ないし深夜の時間帯の割合が36.5％と3分の1強を占め，日中の時間帯（午前6時から午後6時まで）に犯行が行われた事件は比較的少ない。それに対して，強盗群に関しては，午後6時から午前6時までの間は55.5％と約半数を占めているものの，夜中ないし深夜の犯行が特に多い訳でもなく，日中の時間帯の犯行もほぼ同程度あり，殺人の場合とは好対照を成している。第2章で見た強盗一般の犯行時間帯は，午後6時から午前6時までの時間帯に約7割が集中していることからすると，本件調査対象となっている重大事犯の強盗は犯罪の類型自体が異なっていることをうかがわせる結果となっている。
　5―5―2―29，5―5―2―30，5―5―2―31図は，犯行場所を多角的に見たものである。犯行場所を都市区分別に見ると，強盗に関しては，人口の集中している東京23区や政令指定都市以上に県庁所在地以外の都市での犯行が多い。重大事犯は，都心部よりもむしろその周辺の都市や地方都市等を犯行場所としている事件が多いことをうかがわせる。犯行場所の種別を見ると，殺人では52.0％が屋内で犯行に及んでいるが，強盗では69.4％が屋内での犯行である。しかも一戸建てやアパート・マンション内の個人住居で48.7％を占めている。5―5―2―32図は強盗の類型を見たものである。全般的に屋内での犯行が多いが，就寝中に住宅に侵入する「押入り強盗」よりも就寝前に侵入する「上がり込み強盗」や「その他の屋内での強盗（被害者と面談中犯行に及ぶなどの屋内強盗）」が多く，屋外での強盗は少ない。第2章で述べた一般の強盗では路上強盗が圧倒的に多いのとは対照的である。重大事犯では，後に述べるとおり面識ある者に対する犯行が多いこと，また当初から殺人や強姦や放火による証拠隠滅等を計画しているため密室である屋内での犯行が多いことなどが影響しているものと思われる。

5―5―2―27図　犯行時間帯別構成比（殺人）

5―5―2―28図　犯行時間帯別構成比（強盗）

5―5―2―29図　犯行場所（都市区分）

5―5―2―30図　犯行場所の種別構成比（殺人）

5―5―2―31図　犯行場所の種別構成比（強盗）

5―5―2―32図　強盗の類型

　5―5―2―33，5―5―2―34，5―5―2―35図は，犯行の手口を，実際に使用した対人凶器，殺害の手段，その他の悪質な行為について見たものである。殺人，強盗とも刃物・刀剣類を使用したものが多いが，強盗は財物奪取のために緊縛して財物の所在を聞き出している場合も多いためガムテープ・手錠等の緊縛用具等を使用した犯行も多いことが特徴である。通常の凶器のほか，薬物（睡眠導入剤・催涙スプレー・毒物等），電気ショックを与えるスタンガン等も悪用されている事例が散見された。中でも睡眠導入剤を始めとする昏睡させる薬物の悪用は銃砲の使用件数と同数，睡眠薬・睡眠導入剤の悪用事例が9件，そのうち5件は昏睡強盗や昏睡強盗強姦である。薬物使用犯罪は，刃物など犯跡の残りやすい凶器を使用せずに誰でもどのような被害者をも無抵抗にすることができるため，誘惑も強く，しかも常習的犯罪や完全犯罪を招きかねない危険性を内包していることから今後特に注意すべき犯行形態の一つではないかと思われる。また本来は痴漢撃退等のための護身用具であったはずのスタンガン，催涙スプレーを悪用した事例もあることが注目される。
　殺害の手段（複数回答）を見ると，刺殺・斬殺・撲殺等刃物や鈍器等使用の犯行のほかロープ等使用や素手による絞殺が多いが，薬物の使用によるものもあることが注目される。
　また，殺害以外の悪質な行為としては，死体遺棄，放火等の証拠隠滅行為が多い。

5―5―2―33図　対人凶器（実際に使用したもの）

5―5―2―34図　殺害の手段

5―5―2―35図　その他の悪質行為

　既に第3章でも述べたとおり携帯電話の普及は著しく，生活必需品の一つとなっているため，犯罪行為にも当然のことながら携帯電話が悪用されるようになってきている。複数の車で移動中や離合集散を繰り返す際の共犯者間の共謀ないし意思疎通や被害者の誘い出し等様々の場面で悪用されている事例が認められた。いわゆる出会い系サイトを利用していた男性が美人局の恐喝更には強盗殺人の被害に遭った事例もあり，携帯電話の利便性が犯罪現象の中では現代社会における新たな陥穽の一つとなっていることがうかがわれる。