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1 全般的動向 前節までは,犯罪者の属性等につき,過去との対比においてその全般的な動向を見てきた。しかし,各都道府県によって人口も世代構成も経済・社会の基盤も異なっているので,犯罪発生動向は全国一律ではなく地域差があると思われる。そこで,本節では,そのような観点から,各都道府県別の凶悪犯罪発生動向の10年ないし20年間における推移を概観することとした。
(1) 凶悪犯罪の認知件数・検挙件数・検挙人員・発生率における最近5年間の動向 ア 殺人 5―3―5―1図は,殺人について,平成10年から14年の5年間における各都道府県別平均の認知件数・検挙件数・検挙人員・発生率(各都道府県人口10万人当たりの平均認知件数)を示したものである。これを見ると,認知件数では,人口の多い東京・大阪がそれぞれ140.4件と151.6件と突出し,次いで,神奈川・千葉・福岡・愛知・埼玉・兵庫が50〜80件台で続き,その他もほぼ人口の多い県は認知件数も多いことが分かる。検挙件数・検挙人員もほぼ同様な分布を示している。また,発生率で見ると,全国平均1.07,最高1.78,最低0.50で,それほどの格差はなく,高低の分布が全国に分散している傾向が見られ,強いていえば西日本方面でやや高く,東北・北陸方面でやや低い傾向が見られるというにとどまる。
5―3―5―1図 殺人 都道府県別認知件数・検挙件数・検挙人員・発生率 イ 強盗 5―3―5―2図は,強盗について,平成10年から14年の5年間における各都道府県別平均の認知件数・検挙件数・検挙人員・発生率を示したものである。これを見ると,認知件数では,東京が913.0件とひときわ突出し,次いで大阪の651.8件,千葉,埼玉,神奈川が400件台で続き,さらに愛知,兵庫,福岡が200件台,北海道,茨城,静岡が100件台を示し,その他は人口が多いか首都圏に近い県が多い傾向を示している。殺人に比べると東京及びその周辺の首都圏と大阪への集中ぶりが際立っている。検挙件数・検挙人員も同様である。また,発生率を見ると,全国平均で4.13,最高8.40,最低0.89と殺人に比して大きな格差があり,発生率が全国平均を超える都府県は,東京及びその周辺の4県と大阪に限られ,その他の道府県は全て平均以下であり,分布が非常に偏っていることがわかる。
5―3―5―2図 強盗 都道府県別認知件数・検挙件数・検挙人員・発生率 (2) 凶悪犯罪発生率の20年間での地域的変動 5―3―5―3図は,殺人・強盗について,「昭和53年から57年の5年間の平均発生率」を100とした場合の「平成10年から14年の5年間の平均発生率」の値を示したものである。殺人は,全般的に20年前よりも発生率が低下しており,全国平均70.1,最高120.3,最低39.4と各都道府県間の発生率の増減の格差はさほど大きくはなく,法則性はみられない。これに対して,強盗は,全般的に20年前に比して発生率の上昇が著しく,全国平均224.7,最高445.1,最低46.3と発生率の増減に関して,大きな格差がある。また,値の高い県を見ると,千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬等東京周辺の県,大阪・和歌山・滋賀等大阪を中心とした大都市圏の府県等いわゆる大都市のベッドタウン地域を抱えて人口増加が激しい府県が多く,特に東京圏では,東京の発生率の増加率は全国平均を下回っているのに,その周辺の神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬・山梨の7県では,東京と全国平均の値を上回る高い増加率を示しており,発生率の増減におけるドーナツ化現象が生じているのが特徴的である。
5―3―5―3図 殺人・強盗 都道府県別発生率の変化 (3) 地域的変動の要因 前記各都道府県別発生率は,人口10万人当たりで算出しているので,首都圏等の府県における強盗発生率の急激な上昇は,単に府県内の人口増加に比例してのものではない。人口増加をはるかに上回る勢いで上昇しているのである。犯罪の増加は様々な社会的要因が複雑に絡み合って生じるものであるから,この発生率の上昇の要因を解明することは容易なことではない。しかし,急上昇している府県の共通性として,ベッドタウン化が急速に進行して人口が急激に増加している地域を含んでいることがうかがわれるので,このことが増加率上昇と密接な関係があると推測される。ベッドタウンとして開発が進むにつれて従来の地域社会が変容していくことになるし,また,地域社会に密着せず,都心へ通勤・通学し,地元意識の希薄な新住民が多くなることにより,その隙をねらった強盗等が横行するようになっていくという図式が考えられるところである(発生率の増加率と人口増加率,発生率と居住する市区町村以外への通勤・通学率には,それぞれ密接な関係があると推測される。)。また,路上強盗の増加に関しては,[1]首都圏近郊都市への繁華街やコンビニエンスストア等夜間営業店の拡散,[2]近郊への夜間の通勤・通学帰宅者の増加,[3]就業機会の減少による無職者(特に少年)の増加等がその要因になっているものと思われるが,他方,侵入強盗の増加に関しては,店舗・事務所等への強盗では前記[1]が,個人の居宅への強盗では,[2]核家族化に伴う少人数世帯の増加による防犯面の低下等が要因となり,さらに,居宅・店舗等を通じては,[3]就業機会の減少による無職者の増加,[4]潜伏しやすいあるいは逃亡しやすい都市部を拠点とした首都圏道路網を中心とする交通手段の発達と,車の利用による広域移動しながらの強盗の容易化等の事情が影響しているのではないかと推測される。
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