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2 経済犯罪に対する制度 (1) 刑法における法人処罰制度 経済活動を営む企業は法人の形態をとることが多いが,フランスでは,1992年の刑法改正により,法人は,法律等に定めがある場合において,その計算において,その機関又は代表によって行われた犯罪について刑事責任を負うとの規定が新設された。国はこの刑事責任の対象から除外されており,地方公共団体等についても当該規定の適用は制限されているが,それ以外のすべての法人は,当該規定の適用を受ける。なお,法人が刑事責任を負う場合においても,同一の事実について正犯又は共犯となる自然人の刑事責任は排除されないとされている。
法人に適用される刑罰は,罰金刑と,法律に定めのある場合に適用できる特別の刑罰とである。 罰金刑は,法人処罰が可能なすべての犯罪に科すことができる一般的な刑罰であり,自然人に対する罰金額の5倍を上限とする。 法律に定めのある場合に適用できる特別の刑罰としては,[1]解散,[2]職業活動又は社会活動の禁止,[3]司法監視,[4]事業所の閉鎖,[5]公契約からの排除,[6]資金公募の禁止,[7]小切手の振出し禁止及びキャッシュカードの使用禁止,[8]没収,[9]判決の掲示又は公告がある。このうち,解散は,犯罪を犯すために法人が設立されたか,重罪又は5年を超える拘禁刑で処罰される軽罪を犯すためにその設立目的を逸脱した場合に科される。 前記のとおり,法人が処罰されるのは,個々の罰則においてその旨の規定がある場合に限られるが,賄賂罪のほか,独占禁止法違反,証券取引法違反及び知的所有権法違反に属する犯罪類型においては,法人を処罰することができるとするものが多い(VI-43表)。 前記規定の実際の適用について見ると,当該規定が適用された最初の100件の有罪判決のすべてにおいて罰金刑が科されているが,法律に規定する場合に適用できる特別の刑罰については,判決掲示を命じたものが13件,公告を命じたものが5件,没収を命じたものが4件あるだけで,その他のものを命じた事件はなかった(1998年1月26日のフランス司法省通達による。)。 (2) 刑罰と行政処分 独占禁止法違反及び証券取引法違反について,刑事罰と行政処分との関係等を見ることとする。
ア 独占禁止法関係 独占禁止法違反のうち,再販売価格維持その他の制限的行為等は,刑事罰による制裁の対象となる。これらの行為により法人の取締役を罰金刑に科す場合においては,裁判所は,当該法人に対しても連帯してその支払責任を負わせることができる。
一方,違法なカルテルや市場支配的地位の濫用その他の反競争的行為等については,行政処分によることを原則とする。この場合においては,競争評議会が,違反者に対して,排除措置を命じ,又は制裁金を課すことができる。競争評議会は審査を行う権限を有しているが,実際の調査は,経済財政産業省の競争・消費者問題・不正行為防止総局によって行われる。競争評議会の決定は,当事者及び経済財政産業大臣に通知され,これらの者はパリ控訴院に対して提訴することができる。このほか,競争評議会は,当事者に対する聴聞の後,経済財政産業大臣等の請求により,違反行為の中止命令や違反者に対する原状回復命令等の保全措置を命ずることができる。 なお,詐欺の意図をもって,反競争的行為の計画,組織又は実行に携わった自然人に対しては,刑罰を科すことが可能である。 1998年において,制裁金又は排除措置が課された件数は32件であり,そのうち,17件は制裁金のみを課したもの,11件は制裁金と排除措置を併せて課したもの,4件は排除措置のみを課したものである(競争評議会1998年年次報告による。)。 1993年から1998年までの制裁金の賦課状況については,VI-45表のとおりである。 VI-45表 競争評議会による制裁金賦課状況 また,合併その他独占禁止法違反の企業結合行為については,経済財政産業大臣は,競争評議会の意見に基づき,企業に対して計画の中止,原状回復,計画の変更・補正,有効競争を確保又は回復するために必要な措置を命ずることができる。確定命令に従わない場合は,年間売上高の5%を上限とする制裁金が課される。イ 証券取引法関係 証券取引委員会は,市場の統制及び貯蓄の保護を任務とし,証券取引に関する情報の正確性の審査や一定の業務に対する認可を行い,あるいはその管理下の市場の機能に関する規則等を制定するほか,違法な行為に対する中止命令の権限を有する。また,市場の健全な機能あるいは投資家に対する情報又は待遇の平等を侵害するすべての規則に違反した自然人又は法人に対して制裁金を課することができ,前記の規則に違反する行為が,市場の運営をゆがめ,あるいは不当な利益を利害関係者に与えるなどの結果を生ぜしめた場合には,違反行為者は,1,000万フラン以下の制裁金を課される。この制裁金は,行政処分に属するものであるが,違反行為者が,当該行為によって利益を得た場合には,当該利益の10倍までの制裁金を課することが可能である。
制裁手続きのための調査については,証券取引委員会が行い,同委員会の最終決定については,裁判所に対して提訴することができる。 証券取引法違反のうち,インサイダー取引等については刑事罰の対象となるが,同じ事実について刑事罰と行政処分とが競合する場合においては,制裁金と罰金の総額がいずれかの最高額を超えてはならないものとされている。 |