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2 重大経済犯罪庁 イギリスでは,捜査や公判に関する権限を有する機関等が種々併存している状態にあるが,1970年代から1980年代初めにかけて,重大かつ複雑な経済事犯については,捜査及び訴追を一貫して担当する専門性の高い機関が必要との世論が生じ,これを反映して,1987年刑事裁判法(Criminal Justice Act1987)により,重大経済犯罪庁(Serious Fraud Office)が設けられ,1988年からその活動が始まっている。
重大経済犯罪庁は,法務総裁(Attorney General)の監督の下,イギリス及び北アイルランドの経済事犯のうち,特に重大かつ複雑な事案を選択して,捜査及び訴追を行う。重大経済犯罪庁は,警察,通商産業省(Department of Trade and Industry)等の関連機関及び一般から,疑わしい事案の報告を受けるが,実際に捜査を行うのは,選択した一部の事案についてのみである。事案選択の基準は,被害額がおおむね100万ポンド以上と推定されること,長官に与えられている強制捜査権限の行使が必要とされること,事案が国際的側面を含むなど複雑であること,世間の関心(public concern)が高いこと,高い専門的知識を必要とすることなどであり,選択を決定するのは重大経済犯罪庁長官である。 VI-36表は,1994年から1998年までの5年間(会計年度)において,重大経済犯罪庁が関与した事案数を,被害者の種類別に見たものであり,VI-37表は,同様の事案数を,事案通報者の種類別に見たものである。 VI-36表 被害対象別重大経済犯罪庁関与事件数 VI-37表 事案通報者別重大経済犯罪庁関与事件数 重大経済犯罪庁においては,その職員である法律家・会計士等に,警察官,民間企業所属の会計士,コンピュータ技師等,外部協力者としての専門家を加えた混成班が,捜査から訴追まで一貫して事件を担当する。1999年4月現在,重大経済犯罪庁の職員数は,これらの外部協力者を除き,常勤が149人,臨時が62人となっている。なお,他官庁及び民間企業との間での派遣・出向による職員の人事交流も積極的に行われている。重大経済犯罪庁には,1987年刑事裁判法による強制捜査権限が認められている。従来,銀行取引に関する資料や情報は,銀行の顧客に対する秘密保持義務のため,銀行自体にかかわる刑事事件の強制捜査としてでなければ,これを入手することができず,銀行以外の第三者にかかわる事件において,当該第三者が取引を有する銀行から,当該取引に関する資料や情報を強制的に入手する手段を欠いていたことが,複雑な経済事犯の解明に対する障壁となっていた。1987年刑事裁判法は,第三者にかかわる事件でも,銀行等から強制的に資料や情報を入手する権限を重大経済犯罪庁長官に与えたものである。この場合における強制は,捜索令状に基づいて直接に証拠物を捜索して差し押さえる直接強制によるものと,資料や情報の提供命令に対する不服従を犯罪として処罰する間接強制によるものとがある。間接強制の場合,虚偽又は誤解を招くような資料や情報の提供,資料等の改ざん・隠匿・破棄等の行為も,刑事罰の対象になる。不服従に対する罰則は,6月以下の拘禁刑若しくは5,000ポンド以下の罰金刑又はその併科であり,略式起訴によって処理される。 1998会計年度において,当該強制捜査権限は,457件の事案で行使され,そのうち,権限行使の相手が銀行であったものは181件であった。なお,当該強制捜査権限によって収集された証拠は,原則として,刑事裁判の証拠としては使えない。 1995年からは,他国から共助要請を受けた場合も,他国の捜査当局の代理として,重大経済犯罪庁長官が当該強制捜査権限を行使できるようになった。VI-38表は,同年から1998年までの4年間(会計年度)において,他国からの共助要請に基づいて行われた法的共助の件数を見たものである。 VI-38表 他国の捜査機関に対する法的共助の内容 |