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1 経済犯罪に対する科刑状況等 (1) 賄賂罪・税法違反・証券取引法違反・知的所有権法違反 イギリスでは,賄賂罪に関する罰則は,1889年公共体の汚職に関する法律(Public Bodies Corrupt Practices Act1889),1906年汚職防止法(Prevention of Corruption Act1906)及び1916年汚職防止法(Prevention of Corruption Act1916)に設けられており,一般に,略式起訴(summary conviction)による場合には,6月以下の拘禁刑若しくは5,000ポンド以下の罰金刑又はその併科により,正式起訴(conviction on indictment)による場合には,7年以下の拘禁刑若しくは罰金刑(イギリスでは,正式起訴による罰金は上限が定められていないが,裁判所は支払者の資力を考慮して金額を定めることになっている。)又はその併科により処罰される。あわせて,裁判所の裁量により,一定期間の公職追放及び被選挙権剥奪,受領した賄賂に相当する金額の支払い等が命じられる場合もある。
税法違反のうち,所得税等をほ脱するため虚偽の所得申告を行う行為(cheating the public revenue)は,コモン・ロー上の犯罪(判例法による犯罪であり,制定法では規定されていない。)とされているが,付加価値税のほ脱行為(value added tax fraud)については,1994年付加価値税法(Value Added Tax Act1994)により処罰される。略式起訴による場合には,6月以下の拘禁刑若しくは5,000ポンド以下の罰金刑又はその併科によるが,ほ脱行為により不当に得た利益を3倍した金額が5,000ポンドを上回る場合には,当該金額が罰金の額とされる。正式起訴による場合には,7年以下の拘禁刑若しくは罰金刑又はその併科により処罰される。 我が国の証券取引法違反に相当する行為のうち,株価操縦(market rigging)については1986年金融事業法(Financial Services Act1986)に,インサイダー取引(insider dealing)については1993年刑事裁判法(Criminal Justice Act1993)に,それぞれ罰則がある。いずれも,略式起訴による場合には,6月以下の拘禁刑若しくは5,000ポンド以下の罰金刑又はその併科により,正式起訴による場合には,7年以下の拘禁刑若しくは罰金刑又はその併科により処罰される。 商標権や著作権等の侵害行為については,1994年商標法(Trade Marks Act1994)及び1988年著作権,意匠並びに特許法(Copyright, Designs and Patents Act1988)に罰則があり,略式起訴による場合には,6月以下の拘禁刑若しくは5,000ポンド以下の罰金刑又はその併科により,正式起訴による場合には,10年以下の拘禁刑若しくは罰金刑又はその併科により処罰される。一方,特許権の侵害については1977年特許法(Patent Act1977)に罰則があり,略式起訴による場合には,5,000ポンド以下の罰金刑により,正式起訴による場合には,2年以下の拘禁刑若しくは罰金刑又はその併科により処罰される。 VI-35表は,1994年から1998年までの5年間について,賄賂罪,税法違反(虚偽所得申告),付加価値税法違反等及び著作権法違反の科刑状況を見たものである。 VI-35表 経済犯罪に対する科刑状況等 (2) 独占禁止法 イギリスでは,我が国の独占禁止法違反に相当する行為について,従前多数の法律が制定されていたが,EC条約(EC Treaty)の規定を踏まえて,1998年競争法(Competition Act1998)が制定された。同法律は,2000年3月1日に施行され,これに伴って,既存の法律は,一部を除き,廃止された。
1998年競争法は,おおむねEC条約の規定に倣って,競争の妨害・制限等を目的とする事業者間の協定・協調等の反競争的協定行為,及び支配的地位の濫用行為を禁止している。これらの違反行為に対する制裁は,制裁金(financial penalties)のみであり,刑事罰は規定されていない。制裁金決定の権限は,同法律の執行機関である公正取引庁の長官が有する。制裁金の上限は,イギリス,スコットランド及び北アイルランド市場における,違反があった年の売上総額の10パーセントと定められている。 1998年競争法においては,カルテル等違法な協定の参加者が,公正取引庁にその情報を提供して捜査に協力した場合,情報提供を行った事業者に対し,制裁金の免除あるいは減額を内容とした減免措置(leniency)が適用されることを明文で定めている。 また,1998年競争法は,裁判所の令状に基づく強制的立ち入り権限を一定の範囲で認めるなど,公正取引庁の調査権限を強化した。1998年競争法は,調査拒否や虚偽又は誤解を招くような資料や情報の提供,資料等の改ざん・隠匿・破棄等の行為等について,罰則を設け,略式起訴による場合には,5,000ポンド以下の罰金刑,正式起訴による場合には,2年以下の拘禁刑若しくは罰金刑又はその併科による処罰ができることとなった。 |