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 平成12年版 犯罪白書 第6編/第5章/第1節/1 

第1節 アメリカ

1 経済犯罪に対する科刑状況等

 アメリカの各州,コロンビア特別区及び連邦の計52の法域(juris-dictions)では,経済犯罪に関する処罰規定の内容も法定刑も,それぞれ異なっている。以下,連邦法について概観する。
 法定刑を見ると,賄賂罪(Bribery)のうち,公務に影響を与える意図を伴う賄賂の授受については,15年以下の拘禁刑又は25万ドル以下(個人)若しくは50万ドル以下(組織体(organization)(個人以外のすべての者をいう。))の罰金刑とされており,このうち罰金刑については,賄賂の価額を3倍した額が,前記の上限額を上回る場合には,賄賂の価額を3倍した額を罰金刑の上限額にするものとされている。また,税法違反のうち,租税を不正に免れようとする行為(Tax Fraud)については,5年以下の拘禁刑又は10万ドル以下(個人)若しくは50万ドル以下(法人(corporation))の罰金刑,独占禁止法違反(Antitrust Violations)のうち,取引を制限するカルテルの契約行為等については,3年以下の拘禁刑又は35万ドル以下(個人)若しくは1,000万ドル以下(法人)の罰金刑,証券取引法令違反(Securities and Exchange Fraud)のうち,インサイダー取引や相場操縦については,10年以下の拘禁刑又は100万ドル以下(個人)若しくは250万ドル以下(法人)の罰金刑を,それぞれ科すこととされている。なお,以上の罰金刑については,いずれも拘禁刑と併科し得る。
 VI-33表は,1996年から1998年(会計年度)までの3年間について,連邦地方裁判所における賄賂罪,所得税法違反(税法違反のうち,所得税を不正に免れようとするもの(Income Tax Fraud)),独占禁止法違反及び証券取引法令違反の個人に対する科刑状況を見たものである。

VI-33表 連邦地方裁判所における経済犯罪に対する科刑状況

 実刑率は,賄賂罪及び所得税法違反については,40%台から50%台で,証券取引法令違反については60%台から70%台で推移している。また,実刑の場合の刑期は,平均刑期が最も長い証券取引法令違反については,3年前後となっている。
 独占禁止法違反について,司法省反トラスト局(Antitrust Division)は,捜査及び公訴提起に関する権限のほか,差止め等を求める民事訴訟を提起する権限を有しており,1998年(会計年度)においては,57件の公訴提起を行ったほか,29件の民事訴訟を提起している(反トラスト局の資料による。)。
 また,証券取引法令違反について,証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)は,差止め等を求める民事訴訟を提起する権限や,民事制裁金の支払い等を命じる行政手続(administrative proceeding)を発動する権限を有しており,1998年(会計年度)においては,214件の民事訴訟を提起し,248件の行政手続を発動している。なお,同年においては,証券取引委員会が関与した事件について,74件の公訴提起がなされている(証券取引委員会の資料による。)。