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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第六章/一 

第六章 保護観察

一 保護観察の概況

 犯罪者や非行少年等の矯正には,刑務所,少年院等の矯正施設に収容して,これを矯正することも必要であるが,それとともに,本人に普通の社会生活を営ませつつ,これを更生させる方法も必要であり,事案によっては,この方法が効果を発揮する場合もある。しかし,本人が犯罪ないし非行に陥ったその社会で更生の目的を達するためには,適当な指導監督と補導援護が必要であることが多い。そこで保護観察という方法が考えられてくる。すなわち,保護観察は,犯罪者や非行少年を自由な社会で生活させながら,指導監督,補導援護をして健全な社会生活へ復帰させようとするものである。
 保護観察の対象となるものは,次の五種類である。
(1) 家庭裁判所の決定により,保護観察所の保護観察に付された者(以下「保護観察処分少年」とよぶ)。
(2) 地方委員会の決定により,少年院からの仮退院を許された者(以下「少年院仮退院者」とよぶ)。
(3) 地方委員会の決定により,仮出獄を許された者(以下「仮出獄者」とよぶ)。
(4) 刑事裁判所の判決によって,刑の執行を猶予され保護観察に付された者(以下「保護観察付執行猶予者」とよぶ)。
(5) 地方委員会の決定により,婦人補導院からの仮退院を許された者(以下「婦人補導院仮退院者」とよぶ)。
 これら保護観察対象者は,全国四九か所の各地方裁判所所在地に置かれている保護観察所によって,保護観察をうけることになっている。
 あらたに保護観察に付される対象者の数は,最近はII-104表に示すとおり,漸次増加の傾向を示してきたが,昭和三六年には急激に減少している。その減少の主因をなしているのは,仮出獄者の減少であり,保護観察処分少年,仮退院少年も減少しているが,保護観察付執行猶予者はむしろ増加している。仮出獄者が減少しているのは,前に仮釈放の項において述べたように,主として刑務所収容者の減少によるものであるが,仮退院少年および保護観察処分少年の減少は,家庭裁判所における少年院送致決定や,保護観察処分決定の減少によるものである。保護観察付執行猶予の対象者が増加しているのは,刑事裁判所において,この制度がしだいに活用されてきた証左と認められるが,さきにII-43表に示したとおり,執行猶予総数中に占める割合は,いまだ必ずしも多いとはいえないのであって,今後さらにこの制度が活発に運用されることを期待したい。

II-104表 保護観察新受人員累年比較(昭和32〜36年)

 また保護観察対象者の罪種別区分をみると,特に最近では保護観察全対象者中において,窃盗,詐欺,横領,賍物等の財産犯の数が減少し,暴行,傷害,恐かつ,強盗,強かん,殺人,脅迫等の粗暴犯もしくは人身犯の数が増加している。
 しかし,保護観察人員の増減は全国一率ではない。増加傾向の著しいのは,東京,横浜,大阪の各保護観察所で,これらの庁の受理人員の年間保護観察総人員中に占める割合は,累年増加しており,これに神戸,名古屋および福岡を加えた六保護観察所と,その他の保護観察所四三庁との新受人員を比較したのが,II-105表である。また,保護観察対象者の移動に伴って生ずる保護観察人員の増減をグラフによって示すと,II-1図およびII-2図のとおりであって,東京,横浜,名古屋,大阪,神戸保護観察所等大都市の保護観察人員が特に増加し,熊本,福島,鹿児島,長崎,松山保護観察所等のそれが減少していることがわかる。このグラフによっても,都市における保護観察人員の増加傾向,いわゆる都市集中化の現象が看取される。

II-105表 主要保護観察所の保護観察人員新受状況(昭和32〜36年)

II-1図 保護観察対象者の移動に伴う保護観察人員の増加状況(昭和36年)

II-2図 保護観察対象者の移動に伴う保護観察人員の減少状況(昭和36年)