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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第四章/四 

四 少年犯罪の地域差と都市集中化

 刑法犯で警察に検挙された少年は,昭和三〇年の九六,九五六人から昭和三五年の一四七,八九九人へと五二・五%の増加を示しているが(I-59表参照),このような増加傾向にも地域差があることはいうまでもない。刑法犯の少年検挙人員を都道府県別,かつ,少年有責人口一,〇〇〇人に対する対比率をみると,付録-4表に示すように,全国平均では,昭和三〇年の九・二人から昭和三五年の一三・七人へと約五割弱の増加をみせている。これを都道府県別にみると,昭和三五年の人口対比率で高率を示しているのは,京都(一八・六人),群馬(一八・五人),神奈川(一七・八人),岡山(一七・七人),東京(一七・三人),大阪(一六・九人),栃木(一六・七人),北海道(一六・六人),兵庫(一六・二人)等であるが,低率を示しているのは,福井(六・九人),三重(七・三人),岐阜(七・五人),新潟(八・五人),青森(八・五人),島根(八・七人),徳島(八・八人),鹿児島(八・九人),奈良(九・四人)等である。大都市を擁している東京,神奈川,京都,大阪,兵庫は,いずれも高率を示しているが,福岡は一五・〇人で全国平均をやや上回る程度にすぎず,また,愛知は一一・六人で全国平均より低い。また,昭和三〇年と昭和三五年との人口対比率の増減を比較すると,昭和三〇年に比較的低率をみせていた諸県のなかで上昇率の高いものがある。たとえば,長野(昭和三〇年の人口対比率を一〇〇とすれば,二一八,以下同じ),奈良(二〇四),滋賀(一九四),茨城(一九三),大分(一八六),栃木(一八五),岩手(一七七)がそれであるが,これらの農山村を中心とする諸県で人口対比率が著しく増加していることは,注目を要するところである。
 ところで,警察の検挙率にも地域差がある。すなわち,各都道府県の警察力の差異によって検挙率に相違があるから,検挙人員だけで比較することは適当でないかも知れない。そこで,一応の目安として,検挙人員をその検挙率で除した数値(この数値は大体において犯罪発生数に近いものとなろう)を出し,これが少年有責人口一,〇〇〇人に対してどの程度の率を示すかをみるならば,付録-5表のとおり,昭和三五年において最も高率を示しているのは,東京の三一・四で,これに次ぐのは大阪の三一・三,北海道の二九・二,福岡の二八・二,神奈川の二七・四,京都の二七・四,兵庫の二五・三,群馬の二五・三である。これによると,大都市を擁する都府県は,愛知を除き,いずれも高順位にあることがわかる。少年犯罪が大都市に集中して発生していることは,これらの統計から明らかであるが,これらの上位にある都府県の順位は昭和三〇年と昭和三五年とではやや異なる。たとえば,昭和三〇年に最も高率であるのは,福岡の二一・〇で,東京の一八・七がこれに次ぎ,そのあとに広島の一八・七,山口の一七・六,兵庫の一七・一がつづいているが,昭和三五年には,福岡が第三位に落ちている。
 なお,昭和三〇年と昭和三五年と比較して,検挙人員の実数が減少している,福島,佐賀,長崎,熊本,鹿児島の五県のうち四県までが九州地区であることは,興味深い現象である。これは,第二章で述べたように(二三頁参照),昭和三五年には三池炭鉱の争議があり,九州管区の警察官が動員されてその警備にあたっことが,昭和三五年における検挙人員数の低下を招いた一つの原因ではないかとも考えられるが,このほか,九州地区においては炭鉱の不況等のため少年人口が京阪神等の商工業地区に大量に移動したことも考慮すべきであろう。このことは,これら九州地区の諸県において検挙実数が減少しているにもかかわらず,人口対比率においては減少傾向を示していないこと,換言すると,少年有責人口が減少していることによっても推測することができる。
 次に,六大都市(東京,大阪,京都,神戸,名古屋,横浜)とその他の地域とを比較してみよう。まず,この両地域につき刑法犯の少年検挙人員を昭和二五年,三〇年,三五年の三時点をとって比較し,さらに,少年有責人口一,〇〇〇人に対する比率をみると,I-70表のとおりでいる。すなわち,昭和三五年の人口対比率は,六大都市が一七・九人であるに対して,その他の地域は一二・五人であり,少年犯罪者が六大都市に集中して検挙されていることがわかる。そして,六大都市とその他の地域との人口対比率の格差は,昭和二五年の一・七六倍に対して,昭和三〇年および昭和三五年は一・四倍とちぢまってきているのである。これをI-71表の成人の場合と比較すると,同表にみられるように,成人の場合は,六大都市およびその他の地域ともに人口対比率において漸減の傾向を示しているが,六大都市はその他の地域より人口対比率が高いこと,両地域の人口対比率の格差は昭和二五年,三〇年に比較して昭和三五年にはちぢまってきていることなど,少年の場合とほぼ同様である。この格差がちぢまってきた原因としては,「その他の地域」のなかにも,工場分散計画にもとづき近年工業地化が活発に行なわれ,青少年人口がこれらに吸収されつつあることを物語るものといえよう。

I-70表 六大都市と他地域の少年刑法犯検挙人員と対人口比率等(昭和25,30,35年)

I-71表 六大都市と他地域の成人刑法犯検挙人員と対人口比率等(昭和25,30,35年)

 次に,六大都市ではどのような罪種が検挙されているかを刑法犯の主要罪名別にみてみる。I-72表は,六大都市の刑法犯の少年検挙人員と全国の刑法犯少年検挙人員とを対比したものであるが,六大都市の少年が占める比率の高いものは,脅迫(四〇%),強盗(三七・七%),恐喝(三七・三%),窃盗(三〇・六%)であり,これに対して低率を示すものは,強姦(一八%),殺人(二三・二%)である。これによって,脅迫,強盗,恐喝が六大都市に多く検挙される罪種であり,強姦は六大都市以外の地域で多くおこる罪種であることを推測することができる。強姦が大都市に集中していない原因がどこにあるか明らかではないが,大都市には少年の欲求を満足させるに足りる娯楽等が十分備わっていることなども考慮されるであろう。

I-72表 六大都市および全国の少年刑法犯罪種別検挙人員と率(昭和35年)

 六大都市に集中している脅迫,恐喝,強盗の三罪名につき,昭和二九年以降の増減をその他の地域と比較すると,I-73表のとおり,六大都市の増加率は,いずれもその他の地域より顕著である。すなわち,昭和三五年には脅迫は約三・一倍,恐喝は約五・五倍,強盗は約一・七倍とそれぞれ昭和二九年より増加しており,また昭和三四年と比較しても,脅迫は二三%,強盗は七%,恐喝は四%の増加を示している。その他の地域でも増加傾向にあるが,六大都市ほどその率は大きくないのみならず,脅迫,恐喝にわずかではあるが,昭和三五年には昭和三四年に比して減少している。

I-73表 六大都市と他地域の脅迫・恐喝・強盗の検挙少年数と指数(昭和29〜35年)