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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第四章/三 

三 犯罪少年の職業別,学生と犯罪

 刑法犯について警察で検挙された少年の職業別をみると,I-66表のとおり,昭和三五年においては学生生徒が検挙人員の三〇%で最も高率であり,これに次ぐものは労務者の二五・三%,無職の二〇・三%である。昭和三一年以降のこの比率の増減をみると,学生生徒は昭和三一年の二四・二%から逐年増加し昭和三五年には三〇・〇%になっているが,無職は逆に減少を示しているのである。次に学生生徒の増加状況をその実数についてみると,昭和三一年を一〇〇とすれば,昭和三五年には一八〇であって,実に八割もの増加をみたことになる。

I-66表 少年刑法犯検挙人員の職業別人員の率(昭和31〜35年)

 このように,学生生徒の刑法記で検挙されるものが増加しているが,これは,国民の経済状態が近年著しく良好となり,就学の機会に恵まれるものが増加したこと,および犯罪少年の年齢低下傾向のあらわれとして中学生層に犯罪を行なうものが増加したことによるものとおもわれるが,それにしても刑法犯で警察に検挙される少年のうちその三割までが学生生徒であることは,注目されなければならない。
 これらの学生生徒を中学,高校,大学と分けた場合に,どの層に多くの検挙者を出しているのであろうか。刑法犯検挙人員とはやや異なるが,司法統計年報によって家庭裁判所が処理した少年についてこれをみてみよう。まず,家庭裁判所で終局処分の決定をした少年のうち学生生徒の資格をもつものを男女別にみると,I-67表のとおり,男子は昭和三一年の二一・一%から逐年増加して昭和三五年には三一・〇%となり,女子は一五・九%から二二・八%に増加している。次に,これを中学,高校,大学別に分けてその数をみると,I-68表のとおり,中学男子が最も多く,これに次ぐのが高校男子で,大学は男女ともその数は比較的少ない。また,女子は男子に比してその数は著しく少ない。大学の学生が少ないのは,その大半が二〇歳以上となるため,少年法の適用を受けず家庭裁判所に送致されないためであり,また,中学生が最も多いのは,義務教育であるためその在学生自体が多いためである。これらの学校別について昭和三一年以降の終局決定人員の増減状況(昭和三五年の分は,それ以前と統計の基礎を異にしているのでこれを除く)をみると,昭和三一年を一〇〇とする指数で示すと,中学男子は昭和三四年には一八九,高校男子は一六七となり,ともにその増加率は顕著である。中学男子が高校男子より増加率が高いことは注目しなければならないが,中学の在学生自体が増加しているためにこのような増加率を示しているのではないかという疑いもあるので,中学,高校,大学をそれぞれ男女別に分け,それぞれの在校生一,〇〇〇人に対しどの程度が家庭裁判所の終局決定人員を出しているかをみると,I-69表のとおり,女子学生は,どの学校別でも昭和三一年以降ほとんど増加をみせていないのに対して,中学男子は,昭和三一年の五・一人から昭和三四年の一〇・九人へと二倍強の増加を示し,高校男子は,六・二人から九・〇人へと一・四倍強の増加を示している。これによって低年層の学生生徒の犯罪または非行の増加傾向をうかがうことができる。

I-67表 家庭裁判所終局決定人員中に占める学生・生徒の数と率(昭和31〜35年)

I-68表 家庭裁判所終局決定人員中の在学学校別人員等(昭和31〜35年)

I-69表 家庭裁判所の終局決定があった中学・高校在学者の全在学者数に対する千分率等(昭和31〜35年)

 学生生徒は,いわば青少年の中堅として堅実であることが期待されるとともに,わが国の将来はこの学生生徒の双肩にかかっているともいえるのであるが,この学生生徒,とくに低年齢層の学生生徒に非行少年が増加しつつあることは,わが国の将来からみて憂慮されるところである。この原因がどこにあるかは必ずしも明らかにされてはいないが,学校教育のあり方にも再検討を要すベきものがあろうし,また,最近ますます激しさを加えてきた入試制度にも関連がありそうである。激しい入試制度は,自然と学校を知識偏重の教育の場となしがちで,また,いわゆるしつけや徳育をおろそかにする傾向を生ずることにかんがみ,学校教育のあり方と学校制度については今後十分に検討の要があるとおもわれる。