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以上述べたところは,一四歳以上の少年の犯罪についてであるが,一四歳未満の者が刑法その他の刑罰法令に違反する行為をする場合が少なくない。刑法は,一四歳未満の者をいわゆる刑事未成年者とよんで,刑事責任能力を認めていないので,これらの者が犯罪を犯したとしても,これを刑法上の犯罪として処罰することはできない。
しかし,近年少年犯罪のロー・ティーン化とか,年齢低下傾向とかいわれているように,一四歳未満の者が犯罪を犯す場合が多く,しかもこれが増加の傾向にある。この一四歳未満の者が刑法その他の刑罰法令に違反する行為をした場合に,その少年を触法少年とよんでいるが,以下この触法少年の状況を簡単にふれてみることにする。 犯罪少年のうちで比較的犯罪性の強い少年の多くがその幼少期にすでに非行や不適応行動に出ていることは,われわれの多く経験しているところである。また,アメリカのグリュック博士の調査によると,一七歳以上の非行少年群と正常少年群を比較すると,非行少年群五〇〇人のうち四七八人までがかつて学校において教師の注目をひくような重い,または反覆した不良行為を行ない,しかも,その約八一%は一一歳以下で,またその約四三%は八歳以下で,このような不良行為を早発しているが,正常少年群では五〇〇人のうち八六人がこのような前歴をもっているにすぎないと指摘されている。このように,少年犯罪と触法少年の非行とは密接な関連があり,触法少年の非行傾向は,数年後には犯罪少年の犯罪となってあらわれる可能性があるという意味で見すごすことはできない。 触法少年のうち刑法犯を犯したものとして警察が補導した数は,近年増加傾向を示している。I-74表は,昭和二一年以降につきこの触法少年の数の推移と八-一三歳の人口一,〇〇〇人に対する触法少年の比率をみたものであるが,これによると,昭和三五年の人員は四八,七八三人で戦後の最高の数を示している。また八-一三歳の人口一,〇〇〇人に対する比率もこれまでの最高であった昭和二六年をこえている。いわゆるロー・ティーン犯罪の増加は,この角度からも裏書きされているといえよう。 I-74表 刑法触法少年(14歳未満)の数と人口比率(昭和21〜35年) I-75表は,罪種別の人員をあらわすものであるが,窃盗の割合が全体の八割以上を占める点は例年変わりがないが,暴行,傷害,脅迫,恐喝などの粗暴犯の比率が近年著しく増加したこと,および殺人,強盗,放火などの凶悪な行為者の実数が昭和三五年は前年の倍近くに激増していることは注目を要する。I-75表 触法少年の行為別人員と率(昭和31〜35年) なお,触法少年の大部分は,その年齢からみて小学校または中学校に就学しているはずであるが,昭和三五年の総数中一,九九九人(総数の約四・一%)は不就学者であり,殺人の一五人のうち二人は不就学であった。不就学や怠学がすべて非行や触法行為に直接むすびつくとはいえないが,不就学や怠学は,家庭や学校で比較的容易に発見できる非行の早期発見の手がかりの一つとして,一応考慮されるべきことであろう。次に,これら触法少年に対する警察の補導措置の状況は,I-76表のとおりで,昭和三五年においては,児童相談所への通告(身柄付通告と書類のみ通告とある)が総数の約六割,警察限りの措置が四割弱で,福祉事務所等への引継ぎは僅少である。 I-76表 刑法犯触法少年の警察における措置別人員と率(昭和31〜35年) 警察における触法少年の取扱いは,少年の心情と将来の問題などを考慮して,再非行のおそれがないとおもわれる場合は,家庭や学校と協力して事後補導に重点をおき,「警察限りの措置」として処理する。また触法少年の非行性や家庭環境に問題があって,その健全育成が危ぶまれる場合は,児童相談所などの関係機関に通告する措置をとっている。上記のI-76表では,児童相談所への通告人員の率が数年来若干減少し,警察限りの措置がふえている傾向がみられる。さらに,昭和三五年における罪種別の警察の処理状況をみると,I-77表のとおりで,殺人,強盗,放火,強姦など凶悪事犯,次いで猥せつ等が児童相談所に通告される割合は高い。 I-77表 刑法犯触法少年の罪種別・措置別人員と率(昭和35年) このようにして警察から児童相談所に通告された触法少年は,児童相談所で調査および鑑別の上,(イ)家庭裁判所に送致する(ロ)教護院や養護施設に入所の措置をとる(ハ)児童福祉司または児童委員に児童または保護者を指導させる(ニ)知事または児童相談所長が児童または保護者に訓戒を加える,あるいは誓約書を提出させる,などの措置がとられることになっている。 |