前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第四章/三/3 

3 仮出獄処分の実情

(一) 仮釈放の時期

 仮出獄処分で受刑者を釈放する時期としては,本人がすでに相当の程度に矯正を受け,帰住後の生活条件や環境も適度にととのって,再犯のおそれもなくなり,社会人として自立の生活を始めるのに最も適当な時期が選ばれることになっている。この方針の結果,受刑在所期間の短い者には仮釈放が少なく,また,総じて,仮出獄は刑期が相当進行した後に許されることが多い。
 まず刑期でみると,刑期の短い受刑者は,仮出獄になることが少ない。たとえば刑期六月以下の受刑者の仮出獄は,昭和三四年の仮出獄総数の約二・五%にすぎない(V-8表)。

V-8表 仮出獄者の刑期別執行済期間別人員と率―定期刑の者―(昭和34年)

 仮出獄人員を前年の新受刑人員と対比してみると,仮出獄の総数は前年新受刑者総数に対して六七・四%強にあたるが,刑期六月以下の仮出獄者は,前年の新受刑者中の刑期六月以下の者の一五・六%にすぎない。刑期一年以下の者の仮出獄(五一・二%)も,平均(六七・四%)よりは低率である(V-9表)。刑期が短い者は,仮出獄をさせても,保護観察の期間が足りないから,特別の理由がない限り仮出獄が与えられないのは,当然であろう。

V-9表 新受刑者数と仮出獄者数等(昭和34年)

 相当に長い間の矯正を施した後でなければ仮出獄に適するに至らない者が多いことは,刑期に対する執行済期間の割合からも,うかがうことができる(前掲V-8表)。法定の条件期間は定期刑では三分の一であるが,刑期の四割以下の服役で仮釈放になる者は〇・一%にすぎない。刑期の六割以下での仮釈放も,きわめて少なく,仮釈放者総数の六八%以上の者は,刑期の八割をこえてから仮出獄になっている。

(二) 仮出獄期間

 このように,受刑者が仮出獄の適格性を備えるまでには相当の在監期間が必要であるのに,もともと受刑者には刑期の短い者が多いので,それが仮出獄になった場合の仮出獄期間(釈放から刑期満了までの期間)は,保護観察の効果を収めるには短かすぎる場合が少なくない。最近三年間に,保護観察中に仮出獄期間が満了した者についてみると,仮出獄者の仮出獄期間はV-10表のように三月以内が三六%,一月以内が二九・五%ときわめて短期のものが多い。

V-10表 保護観察中に仮出獄期間満了した者の仮出獄期間別人員等(昭和32〜34年)

(三) 許可される者とされない者

(1) 累犯者

 仮出獄は累犯者に対しても許されているが,累犯者の仮出獄は,初犯者にくらべて低率である。年間釈放総人員に対する比率をみると,V-11表のように,初犯者では八二・七%が仮出獄になっているが,累犯者では六〇%である。累犯者の中には再犯の危険のある者が多いためである。それにしても,累犯者の六〇%に対して仮出獄を許すことは,許可基準の適用が緩やかに失しているのではないか,という疑問を呼ぶかもしれない。しかしこれに対しては,仮釈放の時期の面から考慮が払われている。V-12表で明らかなように,初犯者では刑期の八割を経過しないうちに仮出獄になった者が五〇%に達しているが,累犯者の場合は,八五・六%という多数の者が,刑期の八割以上を服役した後にはじめて仮出獄になっている。したがって累犯者の仮出獄期間はおおむね短期である。

V-11表 釈放者の初犯・再犯別,仮出獄・満期出獄別人員等(昭和34年)

V-12表 釈放者の初犯・再犯別,刑執行済期間別人員と率(昭和34年)

 累犯者に仮出獄が与えられるのは,どういう場合であるか。累犯受刑者は,一般的にいえば,性格も頽廃し,帰住後の生活条件も悪く,更生の期待はうすい。しかし,個別的にみて,本人が累犯であっても罪質はわるくないので社会の感情からの抵抗はなく,また,仮出獄期間中に再犯をするおそれはない,という事情にある場合には,野放しで満期釈放するよりは,短期間でも保護観察をつけて,本人の社会復帰を幾分でも円滑にしてやるのが,本人のためにも社会のためにも利益である,と考えることができる。だから累犯者についても,帰住地の設定とかそのほか帰住先環境の調整に日数をかけたあとで,短期間ながら仮釈放を与える場合が,少なくないのである。

(2) 罪種・罪質・社会感情

 社会の感情が仮出獄を是認するかどうかは,どの事件の審理においても考慮されているが,特に,社会の耳目をひいた犯罪事件の本人や,本人の帰住が恐れられ嫌われるような者については,この観点から特別慎重な考慮が払われている。ただ,その実情が罪名だけでは判断できない個別的な問題であるため,統計だけからでは明らかでない。しかし,仮りに罪名別に仮釈放率を示すと,V-13表のとおりである。この仮釈放率は統計の基礎が異なるので一応の傾向を示すものに過ぎないが,窃盗犯には累犯者が多く強盗犯には初犯者が多いとか,傷害犯には短期刑が多いとか,殺人犯は刑期が長いなど,種々の事情がその原因となっているので,社会感情の考慮の深浅だけをあらわしているとはいえない。また仮釈放率は高くても,残刑期間がきわめて短かくしぼられている場合も多い。

V-13表 仮出獄者の主要罪名別人員と率(昭和34年)

(四) 仮出獄処分の成績

(1) 取消率と再犯期間

 仮出獄処分による仮釈放が効果的に行なわれたかどうかは,その仮出獄処分取り消さなければならない事態が起こるか否かによって一応判断される。仮出獄を許されて社会に出た者が取消をされるのは,仮出獄期間中に再犯をしたかまたは遵守事項に違背した場合である。毎年の取消の数は,前掲V-2表のように,その年の仮出獄許可件数に対して五%以内である。これらの取消該当者が,仮出獄の日から再犯または遵守事項違反を起こすまでのいわゆる再犯期間は,V-14表のように,仮出獄の日から一年以内に再犯を犯す者は,取消を受けた総数の八一・二%におよんでいる。

V-14表 仮出獄を取り消された者の再犯期間別人員と率(昭和34年)

(2) 再入率と再犯期間

 現在の仮出獄許可の基準では,再犯の問題については,一応仮出獄期間中に再犯のおそれがないことをもって足りるとしているが,それが理想でないことはいうまでもないから,仮出獄期間の経過後も本人が再犯に陥らないことが望ましい。仮出獄処分で釈放された者の再入状況をみると,その再入者の数(仮出獄期間中の再入者と期間経過後の再入者との合計)は,V-15表のとおりである。これらの再入者のうちには,あるいはその年度に釈放された者もあり,また数年前に釈放された者もある。仮出獄者のうちの何パーセントのものがその後再入しているかは,一つの問題であるが,これを直接に示す統計資料はない。法務総合研究所では,法務省保管の指紋原紙について無作為抽出を行なって諸種の調査を行なっているが,その調査(研究部紀要第一分冊参照)によると,昭和二五年ないし昭和二七年の間に仮出獄または満期出獄で釈放された初犯受刑者が,昭和二九年一月一日現在で,再入した状況は,V-16表のとおりである。これによると,初犯者で仮出獄によって釈放された者の再入率は一七・一%であるのに対し,初犯者の満期出獄者についてはその再入率は二二・六%であって,やはり仮出獄によって釈放されたものが成績がよい。また,再犯に至る期間を調査しても,満期釈放による再入者においては,六月未満で,その半数に近いものが再入するに対し,仮釈放による再入者の場合は,二二・九%である。仮出獄者においてはやはり再犯が抑止されて,たとえ再犯しても,そこに至るには期間を要するということになろう。この調査は,昭和二五,二六,二七年の三年間にでた者が,最長四年間,最短一年間を経た状況を示したもので,各標本につきひとしく五年間を追及したものではなかった。これに対して,V-17表は,各昭和二七,二八および二九年中の初入刑釈放者の各標本についてひとしく五年間を追及して,その再入の状況を釈放理由別にみたものである。標本は,昭和三五年一一月現在で,あらたに指紋原紙中の常用指紋原紙四四三,七八六枚のうちから無作為抽出した一〇,五五五枚であって,さきの調査標本にくらべて標本数も多く,精度も高く,より新しいものである。仮出獄制度が必ずしも軌道にのっていなかった昭和二七年のものはともかくとして,ここでも二八年および二九年のものについては,仮出獄者は三〇ないし三三%の再入率,満期出獄者は三四ないし三九%の再入率で,さきの調査と同じ傾向がみられ,満期出獄者にくらべて仮出獄者のほうが再入率が低いのである。しかし,累犯者についてはまだこの調査を終えていないので,その再入率は推定できない。

V-15表 再入者の仮出獄・満期出獄別人員(昭和32〜34年)

V-16表 仮出獄者と満期出獄者の再入期間別人員と率等 ―昭和29年1月1日現在による昭和25〜27年釈放初犯者標本の調査―

V-17表 仮出獄・満期出獄者中の再入人員と率等 ―昭和27,28および29年初入刑釈放者の5年間の追及―