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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第三章/七/3 

3 少年院における職業補導

 少年院の職業補導は,生活指導とならんで,少年院における矯正教育の中枢となっている。
 そして,職業補導については,「少年院職業補導基準」および「少年院職業補導技能標準」により,補導種目の選定,付与すべき知識,技能の内容,教育課程の編成,学級編成等について基準が示されており,さらにその設備については,「少年院職業補導設備標準」によって,整備すべき機械器具の品目,数量等の基準が示されている。
 従来これらの基準によって職業補導の整備がなされ,その結果,現在では中等少年院および特別少年院において所定の職業補導を受けたものは,四年間の実務経験の後,公共職業訓練所に準じて,技能検定を受験できることが認められたのである。

(一) 職業補導の実施状況

 職業補導の実施状況はIV-22表のとおりである。

IV-22表 少年院の職業補導種目別補導人員等(昭和35年末現在)

 種目の選定,補導人員の決定にあたっては,一般の少年院においては木工,機械,板金,自動車等の技能的なものに力を注ぎ,精神的に素質の劣った少年を収容する少年院においては,農業,園芸等の単純で訓練的なものに力を注ぎ,女子少年院にあっては,洋裁関係のものに力を注ぐようにしている。
 反面,これら職業補導を担当する職員はどうなっているのであろうか。
 昭和三五年七月末現在において,在院者の矯正教育に直接たずさわる教務課配置職員数は一,五四四人であり,これらの職員は,少年院における職員数の不足のため,ほとんどみななんらかの職業補導を担任せねばならないのである。しかし,これらの職員のうち,専門的な知識,技能をもち,しかも相当の指導力のあるもの,すなわち職業補導担任職員として適当であると認められるものは,職業訓練指導員免許を有するもの八八人,短期大学(旧制専門学校)以上の学校で技術系統の学科を専攻したもの三三人,計一二一人であって,その指導体制ははなはだ弱体といわねばならない(IV-23表)。

IV-23表 少年院職員中職業訓練指導員免許取得者等の数(昭和35年11月1日現在)

 指導すべき技能,科目,時間等は少年院職業補導技能標準によって,普通教科,専門教科,実技訓練を合わせて一年間一,八〇〇時間行なうことになっており,その一例を木工科について示すとIV-24表のとおりである。

IV-24表 木工科補導実施時間数

 少年院職業補導設備基準により,必要最低限の機械器具の品目,数量の基準が示されてあり,予算の関係上,当面まず各施設の重点種目一ないし二を定めて,逐次計画的に整備を行なっているが,現在その充足の状況は必要量の三三・六%に止まっている。

(二) 少年院在院者の職業適性

 さらに,職業補導を受ける側の少年院在院者の職業的な素質の実態を考察してみると,共通的な特徴があるように思われる。
 IV-25表26表は,代表的な三施設に対して行なった職業適性検査の結果である。これによると,知的能力,言語能力,算数能力,書記的知覚力を総合的に必要とする職種に適するものは少ないが,眼と手の協応能力,運動能力,指先の器用性,手先の器用性等のもっぱら身体的運動能力を必要とする職種に対しては,相当適するものがいることがうかがわれるのである。反面,IV-26表から推定されるように,在院者の二〇%近いものが,知的能力,空間判断能力,運動能力の点において,素質に乏しく,技能的な職業補導を受けさせることが困難な状態にある。これらの在院者に対して,いかなる職業補導をいかにして実施するかは,今後解決すべき重要な問題である。

IV-25表 少年院在院者の職業適性検査結果から見た適性職務群別人員(昭和35年11月20日現在)

IV-26表 少年院在院者の職業適性検査結果から見た能力の種別・程度別人員と率(昭和35年11月2日現在)