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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/7 

7 保護観察付執行猶予の取消

 保護観察付執行猶予に付された者が罪を犯す等の事由によって,執行猶予を取り消される比率はどの程度であろうか。最高裁判所事務総局刑事局の「昭和三四年における刑事事件の概況」(法曹時報一二巻一〇号)により,昭和三〇年から昭和三四年までの各年度において,保護観察付執行猶予が言い渡された者につき,その後昭和三四年末までの間に執行猶予の取り消された者の総数を必要的と裁量的に分けて示すと,II-26表のとおりである。

II-26表 保護観察付執行猶予人員中の執行猶予取消人員と率(昭和30〜34年)

 これによると,昭和三〇年において保護観察に付された者四,三八四人のうち,昭和三四年一二月末までに執行猶予の取消を受けたものは,一,二五七人で,その取消率は二八・六%にあたっている。これを必要的と裁量的に分けてみると,必要的保護観察の取消率は二七・五%であるが,裁量的保護観察のそれは二九・九%である。裁量的保護観察の取消率は,昭和三〇年と昭和三一年に言い渡されたものについては,必要的保護観察のそれより高いが,昭和三二年以降に言い渡されたものは,逆に必要的保護観察の取消率が高い。これは,必要的保護観察を言い渡された者が比較的早い時期内に再犯を犯すために生じた現象ではあるまいか。いずれにもせよ,保護観察付執行猶予の取消率が三〇%近い比率を示していることは注目されなければならない。保護観察のつかない執行猶予の取消率については,このように追求的にみた統計がないので比較することはできないが,ほぼ二〇%以下であると推測されるから(II-20表参照),保護観察付執行猶予はこれよりはるかに高率ということができよう。
 保護観察制度は,執行猶予期間中保護司の指導監督のもとに置き,執行猶予者の改善と更生をはかろうとする制度であるから,本来からいえば,その取消率は低くならなければならないはずであるが,それが高率を示すのは,保護観察の運用に遺憾な点があるためと,保護観察の対象者の選択に十分ならざるものがあるためではなかろうかと思われる。この後者の傾向については,保護観察になじみにくい被告人にこれが言い渡される場合と,本来ならば実刑相当たるべき被告人に対して保護観察の担保のもとに実刑にかえて執行猶予を言い渡す場合とが考えられ,これがその取消率を高めているものと思われるが,保護観察の正しい運用という観点からみれば,これらの対象者に対しては,保護観察を言い渡すべきではないといえるであろう。保護観察になじみにくい者に対しては,あるいは単なる執行猶予を言い渡せば足りるのであり,また,実刑を相当とする者に対しては,実刑を言い渡すべであって,保護観察付執行猶予をもって安易にこれに代えるという傾向は,好ましからぬものといわなければなるまい。しかし,いずれにせよ,どのような者が保護観察になじみにくいかを実証的に明らかにするとともに,その運用実績に検討を加え,これを軌道にのせることが急務というべきであろう。
 法務総合研究所で昭和三三年中東京保護観察所で新受した保護観察付執行猶予者一,〇一四人を調査したところによると,初度目のもの(裁量的)がその五五・二%にあたる五六〇人,再度目のもの(必要的)がその四四・八%にあたる四五四人であって,前掲II-24表による昭和三三年の比率の六四対三六に比して再度目のものの比率が高いが,これらの者のその後の逮浦歴を昭和三五年末現在で警察庁保管の指紋原紙によって調査した結果は,次のとおりである。
 まず,一,〇一四人のうち二一人は逮捕歴を指紋原紙から抽出できなかったので,これを除いた九九三人につき,判決言渡後の逮浦歴をみると,昭和三五年末までに未逮捕のものは,その四三・七%の四三六人であり,逮捕されたものは,五六・三%の五五七人である。この逮浦された者を初度目と再度目に分けると,初度目のもの五四九人のうち再逮捕されたものは,その五六・五%にあたる三一〇人であり,再度目のものは,四四四人のうち五五・六%にあたる二四七人が逮浦されており,両者の逮浦率にはさしたる差異はみられない。また,これを男女別に分けてみると,男子は九三二人で,五五・三%にあたる五一五人が再逮捕されているに反して,女子は六一人で,六八・九%にあたる四二人が再逮捕されており,逮捕率は女子が男子に比して高いという結果になっている。
 さらに,猶予期間中犯罪を犯した結果実刑の言渡をうけ刑務所に収容された者は,昭和三五年末までにその三三・四%にあたる三三二人である。保護観察付執行猶予者が猶予期間に犯罪を犯し実刑を受ければ,その執行猶予は取り消されることになるので,実刑をうけた率は取消率と一致することになるが,二年以内に三三%におよぶ取消率を示していることは,さきに掲げたII-26表と対比すれば,その率はやや高率といわなければならない。なお,これらの保護観察付執行猶予者の再逮浦までの期間は,II-27表のとおりである。

II-27表 昭和33年東京保護観察所で新受した保護観察付執行猶予者の再逮捕調