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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/2 

2 執行猶予の言渡率

 昭和三五年度の犯罪白書において,われわれは,第一審における自由刑の言渡と執行猶予付自由刑の言渡との比率を戦前における昭和二-七年と,戦後における昭和二八-三三年とを対比してながめたが,いま,これに昭和三四年度のそれを加えて再掲すると,II-14表のとおりである。

II-14表 第一審懲役・禁錮言渡中の執行猶予人員と率(昭和2〜7年,28〜34年)

 これによると,戦前においては,第一審で禁錮以上の刑を言い渡された者のうち,執行猶予のついたものは,一七%前後であったが,戦後においては,この比率が約三倍近くの増加を示し,四七%前後の高率を示し,昭和三四年にはその前年に比し〇・五%の増加をみせているのである。
 戦後においてこのような高率をみせた原因はなにか。第一に挙げなければならないのは,刑法の改正によりその適用範囲が拡大されたことである。すなわち,昭和二二年の刑法改正で,従来「二年以下ノ懲役又ハ禁錮」を言い渡す場合に限って執行猶予をつけることができたものが,「三年以下ノ懲役若クハ禁錮」にまで拡大されたこと,昭和二八年の刑法改正で,「一年以下ノ懲役又ハ禁錮」を言い渡す場合に限り,再度の執行猶予をつけることができるようになったことである。しかし,右のような適用範囲の拡大された部分を除いて戦前と比較しても,戦後の比率は異常に高いといえる(II-29表参照)。そこで,第二の原因として,戦後の刑の量定が一般的にいって緩和化されてきたこと,この傾向が執行猶予の運用において特に顕著に示されていることを挙げることができよう。
 執行猶予は,三年以下の懲役,禁錮のほか,五万円以下の罰金にもつけることができる。II-15表は,検察統計年報により,昭和三三年と昭和三四年とにつき,懲役,禁錮,罰金の各確定判決のうち執行猶予のつけられたものの比率をみたものであるが,これによると,懲役は四七%ないし四八%,禁錮は八〇%前後,罰金は〇・一%に,それぞれ執行猶予がつけられていることがわかる。懲役は,三年以下を言い渡す場合に限ってこれをつけることができるから,刑期が三年以下の懲役の総数のうち,執行猶予付がどの程度の比率を占めるかをみると,昭和三三年には四八・九%,昭和三四年には五〇・四%と,ほぼその半数を占めるものに執行猶予がつけられているのである。

II-15表 懲役・禁錮・罰金の確定判決人員と執行猶予付人員およびその率(昭和33,34年)

 次に,刑法犯の主な罪名につき,第一審の通常手続で有罪の言渡を受けたもののうちで,執行猶予がつけられたものの数とその比率を示すと,II-16表のとおりである。これによると,執行猶予率の平均を約五〇%として,この平均率を上回る罪種は,単純収賄の八八・四%(昭和三四年,以下いずれも同じ),業務上過失致死傷の七六・〇%,公文書偽造の六九・八%,業務上横領の六五・七%,公務執行妨害の六三・九%,横領の六一・一%,恐喝の五〇・九%である。これに反して平均率を下回る罪種を低率の順にあげると,強盗の一九・六%,殺人の二七・三%,強姦致死傷の三八・一%,傷害致死の三九・六%,詐欺の四二・七%,窃盗の四三・三%,放火の四三・五%,強姦の四五・五%,傷害の四八・一%である。殺人,強姦致死傷,傷害致死,放火,強姦といった重大犯罪についても執行猶予が活発に適用されており,なかでも殺人に三割内外が,また,放火,傷害致死,強姦,強姦致死傷に,四割内外がいずれも執行猶予付となっていることは注目されなければならない。

II-16表 通常第一審被告人の主要罪名別執行猶予率(昭和33,34年)