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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/5 

5 起訴猶予者の前科の内容

 起訴猶予に付された者でも前科のあるものが少なくないが,それはどのような内容の前科であろうか。まず,昭和三三年と昭和三四年について,起訴および起訴猶予に処せられた者の総数のうち前科者がどの程度にあるか,その前科の内容がどのようなものであるかをみて,次に,起訴猶予と起訴のそれぞれの場合について前科の内容をみると,II-9表のとおりである。

II-9表

 起訴および起訴猶予に処せられた者の総数についていえば,その三五%にあたるものが前科者であり,その内訳は,懲役の実刑が総数の約一三%,懲役の執行猶予が約七%,禁錮(執行猶予付を含む)が〇・二%,罰金(執行猶予付を含む)が約一六%である。これを起訴猶予の場合についてみると,前科者は起訴猶予の総数の約二三%であって,その内訳は,懲役の実刑がその総数の約八%,懲役の執行猶予が約四%,禁錮が〇・二%,罰金が約一一%であり,さらに,起訴の場合についてみると,前科者は起訴の総数の約四三%であって,その内訳は,懲役の実刑がその総数の約一六%,懲役の執行猶予が約七%,禁錮が〇・二%,罰金が約一九%である。起訴猶予と起訴を対比してみると,懲役の実刑は,起訴が二倍であり,また,懲役の執行猶予および罰金は,起訴がほぼ二倍近い比率を示している。なお,禁錮はほぼ同率の〇・二%である。起訴の場合においては,前科者の比率が高いことは当然のことであるが,起訴猶予の場合に比してほぼ二倍近い比率を示しているということができよう。
 次に,刑法犯のうち,傷害,窃盗,強盗,詐欺,恐喝,横領の六罪名を選び,起訴猶予,または起訴された者の前科の刑名をみると,II-10表のとおりである。

II-10表 主要罪名別・起訴猶予または起訴された者の前科刑名別人員の百分率(昭和33,34年)

 まず,起訴猶予についてみると,総数のうち前科者の占める比率の高いものは,恐喝の約三七%,詐欺の約三〇%であり,これに反して低いものは,強盗の一六%,傷害の約二〇%である。また,懲役の実刑の比率の高いものは,詐欺,恐喝の約一三%であり,これに反して低いのは,傷害の五%,横領の約六%,強盗の七%であり,懲役の執行猶予の比率の高いものは,恐喝,詐欺の約八%,窃盗,横領の約五%であり,これに反して低いのは,傷害の約三%である。これらによって,詐欺,恐喝については,一般に起訴猶予と判断されるに値する前科をもつ者が少なくないこと,これに反して,強盗,傷害は,前科があるときには起訴猶予とされる場合が少ないことが推測されるのである。
 次に,起訴の場合をみると,起訴の総数のうち前科者の占める比率の高いものは,恐喝の約五五%,窃盗の約五四%,詐欺の約五二%であり,これに反して低いものは,横領の約三四%である。また,その前科のうちで懲役の実刑の比率の高いものは,窃盗の約三五%,詐欺の約三一%,恐喝の約二六%,強盗の約二六%であって,いずれも平均比率である一六%よりいちじるしく高率であり,懲役の執行猶予の比率の高いのは,窃盗,詐欺,恐喝の約一二%である。これらによって,窃盗,詐欺,恐喝には,懲役の実刑またはその執行猶予といった悪質な前科者が多いことが推測されるのである。なお,罰金の前科の比率の高いのは,傷害であって,このことは,傷害罪については罰金の前科が起訴基準として斟酌される場合の少なくないことを物語っているのではあるまいか。