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 昭和36年版 犯罪白書 第一編/第三章/二 

二 少年犯罪処理についての戦前からの推移

 旧少年法(大正一一年法律四二号)は,一四才以上一八才未満の者を対象とし,大正一二年一月一日から施行されたが,当初においては,東京府,神奈川県,大阪府,京都府,兵庫県に施行されたにとどまり,全国に施行されたわけではなかった。その後次第に施行地域を拡大し,全国に施行されるようになったのは,昭和一七年一月一日からである。
 旧少年法によってもうけられた少年審判所の取り扱った事件は,施行地域の拡大とともに次第に増加した。昭和二年以降昭和二三年までの少年審判所の受理,処理別人員を戦前の少年および準少年(一八才以上二〇才未満)についてみると,付録-2表のとおりであり,また,未成年者の第一審有罪人員およびその起訴猶予人員をみると,付録-34表のとおりである。この少年審判所関係の統計は,旧少年法の施行地域が限定されていた等の関係から,これらの統計を戦前戦後における少年処遇の比較資料として使うことは困難である。しかし,この統計によってみる限りでは,昭和九-一一年当時は,昭和二-四年当時と比較して未成年者の犯罪は増加したとみることができる(未成年者の犯罪に関する警察統計は,昭和一一年以降の検挙人員に関するものがあるにすぎず,この統計も昭和一五年までは一四才未満の者の触法行為を含めた統計である。そのため,昭和三五年度の犯罪白書においては,昭和一六年以降の検挙人員の統計によって少年犯罪の推移の概況をみた)。昭和一一年以降の推移をみると,I-24表のとおり,昭和一五年まではほぼ増加の傾向にあり,昭和一六年以降は一進一退を示しながら増勢を示し,戦後の昭和二一年に至って急激に増加している。しかし,戦争直後の昭和二〇-二三年の統計は,必ずしも正確なものとはいい難いようである。しかし,付録-3表でわかるように,未成年者の第一審有罪人員は,昭和一八年および昭和二一年において急増しており,刑事処分に付せられる者が激増したことをうかがうことができる。

I-24表 主要罪種別少年刑法犯検挙人員(昭和11〜23年)

 現行少年法(昭和二三年法律第一六八号)は,昭和二四年一月一日から施行され,犯罪少年の処理処遇に根本的な改革が加えられた。この改革の一つとして,少年に対する刑事処分に関する変更を挙げることができる。すなわち,従来,少年を刑事処分に付するかどうかの先議権が検察官に与えられていたが,これが変更されて,家庭裁判所が刑事処分を相当と認めて検察官に送致した場合に限って,刑事処分に付することができるようになり,また,一六才未満の少年に対しては,家庭裁判所は刑事処分を相当と認めてもこれを検察官に送致することができなくなったのである。さらに少年法の適用年齢は,一八才未満から二〇才未満に昭和二六年一月一日から引き上げられた。
 このような制度の改正に伴って,刑事処分に処せられる少年の数は,急激に減少した。このことは,付録-3表の未成年者第一審有罪人員の統計によって知ることができるが,特に明白にあらわれているのは,刑務所に新入する受刑者の成人,少年別の統計である。I-25表に示すように,新受刑者中少年の占める割合は,昭和二四年から減少,従来一六%前後であったものが約一〇%となり,少年の適用年齢が引き上げられた昭和二七年以降は,約二%前後に急減している。新受刑者が減少したことは,必ずしも罪質や犯罪の重い事件が減少したためであるとは考えられないから,犯罪少年に対する処理の方針が刑罰から保護処分に移ったことを示すものといえよう。

I-25表 新受刑者の少年・成人別人員と百分率(昭和21〜34年)

 次に,昭和二七年以降家庭裁判所が終局決定した人員の内訳をみると,I-26表のとおりである。これによると,まず,総数(このなかには「他の家庭裁判所へ移送」・「回付」・「併合審理」等の人員は含まないが,これにより少年犯罪の大体の傾向を知ることができる)においては,昭和二七年の一六四,五七一人から昭和三四年の五〇三,二一八人といちじるしい増加をみせているが,この増加は道交違反事件の増加によるところが大きい。しかし,刑法犯も昭和三〇年以降は毎年増勢を示し,特に昭和三二年以降の増加は大幅である。次に,家庭裁判所の処理の内訳をみると,検察官送致は,昭和二七年の六,八七四人から昭和三四年の四八,七九四人に逐年増加を示しているが,これは道交違反事件の増加によるところが大きい。刑法犯についてみると,昭和二七年の三,六二二人から昭和三四年の一〇,一一四人に増加しており,特に昭和三〇年からは逐年増加を示している。家庭裁判所から検察官に送致され,その結果起訴された者の裁判結果をみると,I-27表に示すように,罰金刑に処せられたものが圧倒的に多く,昭和三四年には総数の約九一・三%を占めている。これも主として道交違反事件および業務上過失致死傷事件が多いためとみられる。これに反して,懲役または禁錮に処せられた事件は,それほどの増加をみせず,年齢別にみると,一八才以上の少年に対するものがそのうちの大部分を占めている。

I-26表 家庭裁判所終局決定区分別人員(昭和24〜34年)

I-27表 少年刑事事件第一審公判の裁判結果別人員(昭和27〜34年)

 家庭裁判所の終局処理をしたもののうち,少年院送致の決定は,昭年二七年の一〇,四九八人から昭和三四年の九,二九一人とあり増加の傾向はみられない。なお,昭和三二年ないし三四年における少年院送致人員の罪名別の統計(付録-5表)によると,凶悪な犯罪とされている殺人,傷害致死,強盗,強姦のような罪名で少年院に送致されているものが少なくないことがわかる。これらのうち,殺人,傷害致死,強盗殺人においては,検察官に送致されて刑事処分に付される者が少年院送致人員より多いが,強盗,強盗傷人,強姦においては,刑事処分に付されるものが少年院送致人員より少ない。
 家庭裁判所の終局処理をしたもののうち,保護観察の決定のあったものは,昭和二七年の二二,〇三八人から昭和二八年の一六,五九四人と急激に減少し,その後はほぼ増勢をたどって昭和三四年には二三,三一二人となっている。また,不開始,不処分の決定のあったものは,当初から最も多かったが,近年さらに増加の傾向を示している。すなわち,不開始は,昭和二七年の八三,三五六人から昭和三四年の三二一,一六五人といちじるしい増加を示し,不処分は,昭和二七年の四〇,五七六人から昭和三四年の九九,五八一人と二倍強の増加を示している。このような増加は道交違反事件によるものが多いといえるが,刑法犯についてみると,不開始は昭和三一年以降,不処分は昭和二九年以降,それぞれ年ごとに増加を示している。もとより,不開始,不処分のなかには,所在不明の事件や犯罪の嫌疑のない事件,さらにはなんらの処分を必要としないような軽微な事件も含まれているが,その内容については統計上明らかにされていない(なお,昭和三五年度の統計からそれらの内容区分別が明らかにされることになっている)。