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 昭和36年版 犯罪白書 第一編/第二章/一 

第二章 最近の犯罪現象の一般的傾向

一 罪種別の傾向

 まず,戦後の犯罪現象の一般的傾向を概観するために,刑法犯の罪種を次の五つのグループに分け,その検挙人員を刑法犯発生件数の最も多かった昭和二三年,戦後最も少なかった昭和二八年,および昭和三一年以降の分についてみると,I-11表のとおりである。五のグループとは,(1)窃盗 (2)窃盗を除く財産犯罪として詐欺,横領,賍物罪,背任 (3)暴力犯罪(殺人,傷害,暴行,脅迫,強盗,恐喝,毀棄,公務執行妨害,放火,強姦,騒擾,逮捕監禁) (4)過失致死傷 (5)その他 の五種である。また,これらの罪種の推移を明らかにするために,I-6図を作成した。

I-11表 主要罪種別検挙人員(昭和23年,28年,31〜34年)

I-6図 刑法犯主要罪種別検挙人員(昭和23,28年,31〜34年)

 I-6図によって明らかなとおり,最近の犯罪現象における最も大きな特徴は,窃盗その他の財産犯罪が減少し,暴力犯罪と過失致死傷が増加したことである。昭和二三年は戦後の悪性インフレーションの進行した時期であって,国民の多くは窮乏状態にあったから,窃盗が多かったことは当然といえよう。暴力犯罪のうち数的に最も多いのは,傷害と暴行であるが,昭和二三年当時は食糧の不足により国民の体力が低下し,酒類も欠乏し,そのうえ心理的に虚脱状態にあったことなどからこの種の犯罪は比較的少なかったと考えられる。その後窃盗が減少し,傷害,暴行等が増加したことは,経済状態が良好となったことの影響も大きいといえるであろう。また,過失致死傷の増加は(昭和三四年には,このうち九七・九%までが業務上過失致死傷である),自動車,オートバイ,スクーター等の増加によるものと考えられる。