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 昭和36年版 犯罪白書 第一編/第一章/二/3 

3 売春防止法違反

 犯罪関係の統計は,いずれも暦年の統計であるが,売春防止法は昭和三三年四月一日から施行されたので,この場合に限って,昭和三四年四月一日から昭和三五年三月末までの統計によって前年度と比較することにする。
 まず,同法違反の検察庁新受の総人員は,二五,四四三人であって,前年度にくらべて一,三三一人増加している。犯罪の内容は両年度とも売春婦による勧誘関係の違反が圧倒的に多く,総人員の約七〇%を占めている。昭和三四年度の増加も主としてこの勧誘等の違反の増加によるものであって,周旋等の助長犯や最も悪質なものとされている売春させることを業とする違反,すなわち管理売春は,統計面では減少している。しかし,この統計面の減少が実際の犯罪の減少を示すかどうかには疑問がある。元来,売春犯罪はきわめて暗数が多い。しかも,わが国においては売春防止法の施行前までは管理売春等が各地で公然と行なわれていた。これらは,同法施行後社会の表面から姿を消したが,これらが施行後一年でただちに激減したとみることは困難である。元来,経済状態が良好となると,売春犯罪は増加する傾向がある。犯罪が増加しても犯行の手段方法が巧妙になると,潜在化して統計面にはあらわれず,暗数が増加することとなる。したがって,最近管理売春等が実際に減少したかどうかは,なお十分な検討を必要とする。
 次に,昭和三三年度と昭和三四年度(いずれも四月一日より翌年三月末まで)につき売春防止法違反の態様別を検察庁新受人員と第一審有罪裁判別人員等でみると,I-10表のとおりである。第一審有罪人員は,昭和三四年度は前年度の一,八九三人から二,七七五人へと大幅に増加している。その増加の大部分は懲役を言い渡された事件であるが,前年度と同様実刑言渡の事件は少ない。しかし,補導処分は前年度の一三七人から三八〇人へと激増し,保護観察付も一二五人から二四八人へと増加している。このことは,売春防止法の適用が次第に軌道に乗ってきたことを示すものといえよう。ただし,この種の犯罪で悪質とされている管理売春(同法一二条違反)について,懲役刑を言い渡されたもののうち約七三%までが刑の執行猶予付である点は,注目されるところである。

I-10表 売春防止法違反の法条別検察庁新受・一審有罪・不起訴人員