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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第4章/第1節/1 

第1節 性犯罪

1 性犯罪の推移と現況

 昭和10年以降の性犯罪発生件数の推移を示したのが,I-17図及びI-77表である。以下,強姦とわいせつ犯罪(強制わいせつ,公然わいせつ及びわいせつ文書頒布等をいう。以下同じ。)に分けて検討する。戦前では,昭和10年に強姦1,598件,わいせつ犯罪2,439件と,かなり多い発生件数を示している。この現象は,本編第2章及び第3章で見たとおり,9年ごろをピークとする全般的な犯罪増加の一環をなすものである。戦時期に入ってからは,若干の起伏を示しながらも減少を続け,20年には強姦650件,わいせつ犯罪333件にまで減少している。

I-17図 性犯罪発生件数の推移(昭和10年〜50年)

I-77表 性犯罪発生件数の推移(昭和10年,15年,20年,25年,31年〜50年)

 戦後においては,強姦は終戦を境として急激に増加し,その後若干の起伏を示しながらも増加を続け,昭和39年には6,857件を数えてそのピークに達した。その後は次第に減少して,50年には3,704件となっている。他方,わいせつ犯罪は,終戦直後の一時的増加の後いったん減少したが,30年代に入ってからは増加の一途をたどり,44年には9,021件(強制わいせつ3,609件,公然わいせつ及びわいせつ文書頒布等5,412件)を数えてそのピークに達した。その後は次第に減少して,50年には6,371件(強制わいせつ2,841件,公然わいせつ及びわいせつ文書頒布等3,530件)となっている。わいせつ犯罪の内訳を見ると,統計の都合上(公然わいせつは,40年までは強制わいせつと合計されていたが,41年以降はわいせつ文書頒布等と合計されている。)罪種別の推移を示すことができないが,強制わいせつ及び公然わいせつの発生件数は,40年の4,710件が最も多く,公然わいせつ及びわいせつ文書頒布等は,45年の5,625件が最も多い。なお,公然わいせつの多くはわいせつショーの事犯である。
 このような戦後における強姦の動向は,本編第2章で検討した生命・身体犯とも異なった変動形態を示している。すなわち,戦後においては,殺人は昭和29年に,傷害は33年に,それぞれ発生件数のピークがあるのに対し,強姦発生件数のピークは39年となっているのである。経済が復興し治安が回復した後も,強姦はなお増加を続けたという事実は,この種犯罪が粗暴な社会風潮や性風俗の乱れと密接な関連があることを示している。40年代以降における減少傾向がいかなる要因に基づくものであるかについてはなお検討を要するものがあるが,享楽的風潮の拡大が婦女の性道徳に関する意識を変化させ,主として都市における強姦の発生を減少させていることも一因であると考えられる。このような傾向は,性風俗の健全性という観点からは,好ましいとばかりは言えないものがある。
 次に,わいせつ犯罪の動向であるが,その発生件数のピークは昭和44年であり,39年をピークとする強姦よりも更に時期がずれている。しかし,強制わいせつは,強姦に近い性質の犯罪であり,その動向は強姦のそれと同様であることが推測される。強制わいせつ及び公然わいせつが40年まで増加していることは,これを裏付けるものであろう。これに対し,公然わいせつ及びわいせつ文書頒布等のピークは45年であるから,わいせつ犯罪全体のピークは,主としてわいせつ文書頒布等の多発によってもたらされたものと見ることができる。このようなわいせつ文書頒布等の増加がポルノ時代と呼ばれる社会風潮を背景とするものであることは明らかである。その後の発生件数の減少は,最近の情勢から見てもその実態を表すものとは認め難い。この種犯罪は,その性質上暗数が多いと考えられるが,表現の自由との関係でわいせつ性の認定がより慎重になってきたことも考え併せる必要があるであろう。