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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第二章/三 

三 少年の交通犯罪

 自動車を運転しようとする者は,公安委員会の運転免許を受けなければならないが,大型免許は,原則として二〇歳,普通免許等は一八歳,二輪免許,原付免許等は一六歳,にそれぞれ達しなければ,与えられないこととされている。そのうえ,社会的にも,経済的にも,少年が自動車を運転する機会は,成人に比べて比較的少ないため,交通犯罪のうち,少年によって犯された事件の占める割合は,あまり多くない。しかし,その内容は,無免許運転ないしは無免許運転の際に事故を起こしたものの占める割合が非常に多く,これが,少年の交通犯罪の特色となっている。
 昭和四二年中に,警察から,道路交通法に違反するものとして,検察庁ならびに家庭裁判所に送致された四,七〇四,五七二件のうち,少年の犯したものが七六一,八九七件(いずれも車両等の交通にかかる違反に限定した)で,全体の一六・二%を占めている。前掲のII-13図(二二三頁)に,昭和四二年に警察から送致された道路交通法違反事件全体の態様をグラフで示したが,その中の,右七六一,八九七件の少年事件を,態様別に比較したのが,II-14図である。これを,成人事件だけ抜き出したII-15図と比較すると顕著な対照を示しており,成人事件では,無免許運転が,五・二%であるのに対し,少年の場合には,この割合が実に二三・六%にも及んでいるのである。

II-14図 少年の道路交通法違反態様別構成比(昭和42年)

II-15図 成人の道路交通法違反態様別構成比(昭和42年)

 次に,検察庁で既済となった人身事故事件の中に,受理時少年であったものの占める割合をみたのが,II-91表である。業務上過失致死傷にあっては,少年の占める割合が,おおむね,一〇%台であるのに対し,重過失致死傷にあっては,その半数近くが,少年によって占められており,無免許運転の多い,少年の交通犯罪の特色を遺憾なく示している。

II-91表 既済事件の受理時少年人員(昭和38〜42年)

 このような少年の交通犯罪が,家庭裁判所において,どのように処理されているかをみたものが,業務上過失致死傷事件についてのII-92表と,道路交通法違反事件(自動車の保管場所の確保等に関する法律違反を含む。)についてのII-93表とである。最近五年間について,いわゆる検察官への逆送率をみると,業務上過失致死傷については漸減の傾向にあり,道路交通法違反については横ばいの状態といってよい。審判不開始または不処分となるものの比率は,逆送率とはうらはらに,前者については漸増して総数の過半数を占めるに至り,後者については,五年間引き続いて,総数の八割以上を占めている。このような,家庭裁判所の処理の傾向は,検察官の高い起訴率との比較をしばらくおくとしても,先にみた,第一審裁判所の,この種犯罪に対する,最近の科刑の傾向と比較して,まことに対照的なものがある。

II-92表 業務上過失致死傷の家庭裁判所終局決定人員と比率(昭和31,37〜41年)

II-93表 道路交通法違反の家庭裁判所終局決定人員と比率(昭和31,37〜41年)

 なお,少年の交通犯罪については,道路交通法の一部改正に伴って,少年の反則者をいかに処遇すべきかという問題が,新たに生じている。この問題については,右改正法案の国会審議の過程において,衆議院地方行政委員会における附帯決議の第六項として,「交通事故の現況にかんがみ,少年による道路交通法違反についても,成人と同様の手続きをとることができるよう早急に検討すること」という事項が加えられていることを考慮し,改正法施行後の推移をみた上で,近い将来において,検討されなければならないものと考えられる。