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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第二章/四/1 

四 交通犯罪者の処遇

1 交通犯罪者に対する自由刑の執行状況

 最近,自動車の運転にかかる業務上過失致死傷罪等によって禁錮に処せられる者が著しく増加したのに伴い,これらの受刑者を,一定の基準により,特定の施設に集禁して,特殊な教育を行なうとともに,懲役受刑者と比べて開放的な処遇を行なうに至っている(昭和三九年一二月二四日法務事務次官通達)。その集禁施設は,II-94表のとおりであって,集禁の基準は,[1]懲役刑を併有しないこと,[2]懲役もしくは禁錮の執行等により,矯正施設に収容された経験を有しないこと,[3]おおむね執行刑期三月以上であること,[4]心身に著しい障害がないこと,[5]管理上支障のおそれがないこととされている。なお,II-94表に掲げた集禁施設のほか,矯正管区が指定している集禁施設として,中野刑務所,川越少年刑務所,尾道刑務支所および帯広刑務所がある。

II-94表 交通事犯禁錮受刑者集禁施設および移送区分(昭和43年2月29日現在)

 昭和四二年一二月末日現在の交通事犯禁錮受刑者総数はII-95表に示すとおり一,一九四人であり,これをII-94表の集禁施設,矯正管区指定の準集禁施設およびその他の施設にわけてみると,集禁施設六九七人(五八・五%),管区指定の準集禁施設二六五人(二二・二%),その他の施設二三二人(一九・三%)という割合になっている。さらに,年齢別にみると,二〇歳ないし二五歳が三九・八%を占めて最も多く,次いで,三〇歳ないし三九歳の二七・一%,二六歳ないし二九歳の二二・五%の順に多い。この年齢分布の状況は,集禁施設に指定されていない施設においても同じ傾向を示している。

II-95表 交通事犯禁錮受刑者の年齢(昭和42年12月31日現在)

 次に,刑期別にみたのがII-96表である。すなわち,六月をこえ一年以下が六六三人(五五・五%)で,半数以上を占め,次いで,三月をこえ六月以下二六〇人(二一・八%),一年をこえ二年以下二四二人(二〇・三%)となっている。

II-96表 交通事犯禁錮受刑者の刑期(昭和42年12月31日現在)

 これら交通事犯禁錮受刑者に対する処遇,とくに,集禁施設に指定された習志野刑務支所,加古川刑務所,豊橋刑務支所,佐賀少年刑務所および山形刑務所における処遇については,集禁対象者の特質にかんがみ,懲役受刑者と異なった特殊教育が行なわれている。すなわち,収容者に対しては,規律ある生活のもとで,生活訓練,職業指導その他社会復帰に必要な教育が行なわれるが,生活訓練の内容は,施設の日常生活に即しつつ,相談,助言その他の方法により,法を守る精神,責任観念その他の徳性をかん養させるとともに,自主自立の精神を体得させるものである。なかんずく,徳性のかん養については,あらかじめ作成した教育計画に基づき,毎週二時間以上,特に道徳教育の時間を設け,民間篤志家の協力も得て,説話のほか,集団討議,問答,視聴覚教材の利用など,種々の方法を活用して指導している。職業の指導は,収容者を二つのグループに分けて行なわれる。第一のグループ,すなわち,入所時の適性検査により自動車運転の適性が著しく欠けていると認められる者および自動車運転の職から転職することを希望する者に対しては,おおむね,二か月間,三〇〇時間をもって修了するよう指導課程を編成し,最近の職業情報の提供,新職業の選択に当たっての相談,助言による指導および各種基本的技術の実習指導等を行なっている。ちなみに,中野刑務所における昭和四二年一月から同年一二月までの交通事犯禁錮受刑者に対する入所時の運転適性検査(速度見越,重複作業反応)の結果をみると,実施者四二二名に対し,総合判定において,合格三四五名(八一・八%),不合格二二名(五・二%),要注意五五名(一三・〇%)となっている。第二のグループ,すなわち,出所後,自動車運転に関する業務に従事することを希望し,かつ,その適性のある者に対しては,第一グループと同じ期間と時間の指導課程をもって,右運転に必要な知識と技能を付与するとともに,安全運転の態度を習熟させるための指導を行なっている。なお,右のグルーブ分けの状況に関し,一例として習志野刑務支所における収容者の犯時の職業および出所後の職業見込を掲げればII-97表のとおりである。

II-97表 交通事犯禁錮受刑者犯時の職業および出所後の職業見込調(昭和42年12月31日現在)

 右のほか,収容者には入・出所時に特別教育が行なわれる。すなわち,入所直後の一〇日間は,独居室に収容し,分類調査を行なうと同時に,自己の犯した罪について反省させること,人命尊重の観念をつちかうこと,日常生活の基本的な行動様式を理解させ,習慣づけること,集禁処遇の意義を理解させること,その他所内の規律生活についての指導が,厳正を旨として行なわれる。出所時教育においては,出所時に三日以内,社会復帰の心構えを固めさせること,その他,身辺の整理,就職準備のための指導,社会福祉関係の事情等の説示が行なわれる。
 右のような教育のほか,集禁施設の処遇の特色は,収容者の特質から,開放的処遇が推進されていることである。これは,矯正思潮および矯正技術の発展に伴い,将来,一般受刑者の矯正施策として,分類処遇の徹底を図り,いわゆる開放処遇を採用するための試みとしてなされているものである。すなわち,入所時教育を含め,厳正な訓練期間(入所より約一か月)を経れば,居室,工場,食堂,教室,図書室,集会室等に施錠しないことを原則とし,検身,捜検も原則的には行なわず,施設構内では,戒護者なしの通行を認め,作業,レクリエーション,集会,クラブ活動等についても,当番制を採用することにより,できるだけ,自主的な運営なさせ,集団訓練が効果あるよう配慮されている。接見および信書の発受等,外部との交通についても管理上支障のない範囲で,つとめて行なわせることとしており,とくに,接見については,必要と認めるときは,接見室以外の場所で,職員による立会なしで行なわせるものとしている。また,工場の作業については,本人が作業に就くことを願い出た場合には,その者の適性,希望および将来の生計等を考慮して就業を許可しているが,就業時間は,一日六時間,一週三六時間で,一般懲役受刑者と比べて,一日につき二時間短縮され,その分は,前記の道徳その他の教育指導にあてられている。
 以上のように,交通事犯禁錮受刑者の集禁処遇は,開放的処遇を原則とした教育指導に重点がおかれ,とくに,日常生活に即しての徳性のかん養,職業の指導などが,多様な方法と豊富な教材を活用して行なわれでおり,その成果には見るべきものが多い(II-98表およびII-99表参照)。なお,管区指定の準集禁施設においても,集禁処遇の要領に準じた処遇が行なわれている。

II-98表 交通事犯禁錮受刑者再入者調(昭和43年6月30日現在)

II-99表 交通事犯禁錮受刑者の自動車運転免許取得試験受験結果(昭和43年6月30日現在)