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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/2 

2 犯罪少年の罪種別考察

 犯罪少年の動向については,量的減少にもかかわらず,まだ,楽観を許さない状況にあることは前述した。本項では,これを,刑法犯少年の罪種という観点から,少し詳しく検討してみることとする。
 II-7表は,昭和四二年の少年刑法犯検挙人員を,主要罪種別に示し,かつ,全刑法犯検挙人員中に占める少年の割合(以下,本項では,単に「構成割合」という)をみて,これらを,昭和四一年と対比したものであるが,これによると,昭和四二年の少年刑法犯検挙人員中,最も多数を占めている罪種は,窃盗であって,七八,〇五八人である。次いで,業務上過失致死傷が五五,八六一人と多い。右の二罪種を合計すると,同年中の少年刑法犯全検挙人員の七二・〇%となる。このほか検挙人員一万人以上のものは,傷害(一五,〇七三人)および暴行(一一,六九九人)である。ちなみに,右の二罪種に,恐喝および脅迫を加えた場合,検挙人員は,三五,八〇一人となり,少年刑法犯全体の一九・二%を占めることとなる。したがって,量的にみた場合,窃盗および業務上過失致死傷の二罪種ならびに粗暴犯罪群が,さしあたって,問題の多い犯罪であるとみることができよう。

II-7表 主要罪種別少年刑法犯検挙人員および全刑法犯検挙人員(昭和41,42年)

 さらに,同表によって,構成割合という点からみると,割合の最も高い罪種は,恐喝であって,五四・〇%である。次いで,強姦,強盗および窃盗が各四七・七%ないし四六・〇%を占めている。すなわち,右の諸罪種では,全犯罪の半数前後が,少年によって実行されていることとなっている。このほか,平均を上回る構成割合を示している暴行を加え,これらの罪種が少年になじみやすいものとなっていることは明らかである。
 昭和四一年と比べた場合,業務上過失致死傷の検挙人員が,一一,四三九人増加しているが,その他の罪種ではいずれも,検挙人員の減少をみている。構成割合においても,横領が,わずかに増加している以外は,すべて減少している。しかし,その減少の程度は,きわめてゆるやかであるから,少年犯罪の動向に関し,楽観できないことは前述のとおりである。そこで,少年刑法犯の現況として量的または質的に問題となっている,窃盗,粗暴犯(暴行,傷害,脅迫および恐喝),強姦および強盗を採り上げ,以下において,若干の考察を加えてみることとしよう。なお,業務上過失致死傷については,問題の存するところであるが,それは,後述(本編第二章の三)する。
 II-2図は,少年窃盗犯検挙人員の推移を示し,これを,成人と対比したものであるが,これによると,少年の場合,戦後,昭和二六年を第一次のピークとし,その後,三三年ごろまでは,おおむね,減少してきていたところ,三四年以降,再び,上昇に転じ,三九年に,第二次のピークを示すに至っている。四〇年以降は,下降しつつある。これに対して,成人の場合は,昭和二六年をピークとし,その後,三〇年には,やや増加したが,おおむね,減少の一途をたどってきている。戦争直後から数年の間は,社会の混乱期であって,警察力も十分回復していなかったという事情があるため,この期間の検挙人員については,暗数がかなり存在していると推定されるが,少年と成人の動向は,おおむね,軌を一にしていたとみられる。ところが,その後,成人が減少しているのにもかかわらず,少年が再び増勢をみせたことは,注目される。このことは,相対的に構成割合の変化となってあらわれている。すなわち,昭和二六年における,少年の構成割合は,三〇・六%であったのに対し,三九年のそれは,四九・一%となっているのである。四二年には四六・〇%であることは前述したが,なお,かなり高い割合を保っていることが指摘される。

II-2図 窃盗犯検挙人員(昭和20〜42年)

 II-3図は,粗暴犯検挙人員について,昭和二六年の人員を一〇〇とした指数で,少年,成人別に,同年以降の推移をみたものであるが,これによると,少年の場合,昭和二八年を底とし,二九年以降,おおむね,上昇の一途であったが,三九年の二九三をピークとして,その後,やや下降に転じてきている。四二年の指数は二三四であって,まだ,かなり高水準である。これに対して,成人の場合は,昭和三三年に一七九と最高を示して以来,三八年まで,おおむね,減少し続け,その後は,ほぼ,横ばい状態となっている。

II-3図 粗暴犯検挙人員(指数)(昭和26〜42年)

 ところで,粗暴犯罪といっても,その内容は,必ずしも同質ではないと思われるので,次に,恐喝,傷害,暴行および脅迫の四種について,各個別に,その動向をみてみよう。
 II-4図は,昭和二六年から四二年までの恐喝犯検挙人員の推移を,少年,成人別に示しているが,これによると,少年の場合,昭和二八年を底とし,二九年からは,急激な速度で増大しており,三四年から,増勢がやや鈍ったものの依然増加し続け,三八年には,一五,〇〇〇人に近い人員を示すに至った。三九年以降は,逆に急激に減少に転じてきている。四二年の検挙人員が八,二五九人であることは前述した。これに対して,成人恐喝犯は,昭和二六年に約一万人であったものが,いったん,減少し,二九年から,再び増加して,三一年にピークを示すに至った。その後,若干の起伏はあるが,おおむね,減少傾向を示し,とくに,昭和三四年には,それまで少年を上回っていた検挙人員が,初めて,少年のそれを下回るに至った。その後,四二年に至るまで,成人の検挙人員は,常に,少年検挙人員をこえていない。いいかえるならば,昭和三四年以降,全恐喝犯罪の半数以上が,少年によって実行され続けてきているのである。

II-4図 恐喝犯検挙人員(昭和26〜42年)

 次に,II-5図により,傷害犯検挙人員の推移をみると,少年の場合,昭和二九年から増加し始め,若干の上下はあったが,三六年にピークに達した。その後は,ゆるやかな起伏を示してきており,四二年の人員は,一五,〇七三人となっている。これに対して,成人は,昭和二六年以降,かなり急激に増加し,三三年に七四,八五七人と,最高の人員を示すに至った。その後は,減少傾向に転じ,最近数年間は,横ばい状態となっている。ピークの年次に,若干のずれはみられるが,増減の傾向は,少年も,成人も,おおむね,軌を一にしているとみてよさそうである。

II-5図 傷害犯検挙人員(昭和26〜42年)

 II-6図によって,暴行犯検挙人員の推移をみると,少年暴行犯は,昭和三一年ごろから,急激に増加し始め,三四年ごろから,やや停滞したが,三七年ごろから,再び増大し,三九年には一三,〇九七人となり,さらに,四一年には一三,二二九人と,最高の人員を示すに至った。四二年は,やや減少していることは前述した。一方,成人の暴行犯も,少年の場合と同じく,三三年まで,急速に増加し,その後,一進一退を繰り返した後,三八年から,再び増勢に転じ,四二年には三二,七一六人と,最高の人員を示すに至っている。傷害の場合と同様に,傾向的には,少年,成人ともに,おおむね,軌を一にしている。

II-6図 暴行犯検挙人員(昭和26〜42年)

 次に,II-7図によって,脅迫犯検挙人員の推移をみると,少年の場合,昭和三九年をピークとして,ゆるやかな曲線を描いているのに対し,成人の場合は,昭和三三年および三九年の二つのピークがあり,増減の幅も,少年に比べて,かなり大きいことが特色である。昭和三九年以降は,少年,成人ともに,減少に転じてきている。

II-7図 脅迫犯検挙人員(昭和26〜42年)

 以上,粗暴犯罪の各個別に,その動向をみてきたが,成人と対比した場合,とくに著しい特色を示しているのは,少年恐喝犯の推移であったことを注意しておかなければならない。
 さて,次に,II-8図によって,強姦犯検挙人員の推移をみよう。これによると,少年強姦犯は,戦後,徐々に増加してきていたところ,昭和三二年,三三年に,大幅に増大し,三三年には,四,六〇五人となり,戦後最高の人員を示すに至った。その後三八年まで,減少に転じ,三九年から,再び増加し,四〇年をピークとして,四一年以降,減少している。これに対して,成人の強姦犯の増減は,おおむね,少年のそれと同様の傾向にある。ただし,昭和三二年から三七年の間は,それまで少年を上回っていた検挙人員が,少年を下回るようになっていることが注意される。三八年以降は,年次によって,あるいは上回り,あるいは下回るといった状況となっている。四二年は,成人の検挙人員が,少年のそれをわずかに上回っている。要するに,少年の強姦犯は,数の上でも,また,傾向的にも,ほとんど,成人のそれらに匹敵しているということができるのである。

II-8図 強姦犯検挙人員(昭和20〜42年)

 次に,II-9図によって,強盗犯検挙人員の推移をみると,少年強盗犯は,昭和二一年に大幅に増加し,二三年には三,八七八人となり,戦後最高の人員となった。その後,二八年まで減少したが,二九年から漸増し始め,三五年には,二,六四六人となり,ピークを示した後,再び減少に転じ,最近に至っている。成人の強盗犯の増減は,昭和三〇年までは,おおむね少年のそれと同様の傾向にあったが,少年が三五年まで増勢にあったのに対し,成人は,三〇年以降,ほぼ減少の一途をたどってきている。三五年以降は,成人,少年ともに減少傾向にあるが,成人の減少が著しいため,両者の差は最近数年間,きわめてわずかになっていることが注意される。

II-9図 強盗犯検挙人員(昭和20〜42年)

 以上,最近の少年刑法犯の動向として,問題となっている四種の犯罪について,各個に検討してきたが,次に,さしあたって,利用しうる資料により,これら四種の犯罪を犯した少年に関する,二,三の特性について考察しておくこととする。
 II-8表は,全国の家庭裁判所で取り扱った一般保護少年の前処分の有無および回数を,昭和四一年のそれについて,上記四種の罪種別に示し,かつ,総数と比較したものであるが,これによると,「前処分なし」という者は,総数中,七五・九%を占めている。ところが,四種の罪種では,「前処分なし」という者の占める割合は,どの場合も,総数のそれを下回っている。とくに,粗暴犯,強姦および強盗では,五一・〇%ないし六二・七%であって,著しく低率である。このことは,逆に,これら三種の罪種においては,「前処分あり」という者の割合が高いことを物語っている。同表によってみられるように,強盗を犯した少年の四九・〇%,強姦を犯した少年の四〇・三%,粗暴犯を犯した少年の三七・三%が,本件以前に,なんらかの処分を受けたことがあるのである。とりわけ,強盗を犯した少年の二四・二%が,二回またはそれ以上の処分を受けたことがあることは,注意されなくてはならない。

II-8表 一般保護事件終局実人員の主要罪種別前処分回数(昭和41年)

 次に,II-9表により,同対象についてその教育程度をみると,どの場合も中学校卒業程度の者の割合が高い。しかし,罪種相互間の割合を比較すると,かなり明らかな差がある。すなわち,窃盗犯少年は,他の三種に比べて,中学在学中の者の占める割合が著しく高く,また,高校在学中の者の割合もかなり高い。粗暴犯少年は,高校在学中および高校中退の者の占める割合が比較的高く,全体の三分の一を占めている。強姦犯少年は,高校中退以上の学歴者の占める割合が,他の三種に比して高く,一九・三%である。これらに対して,強盗犯少年は,一般に,学歴の低い者または中途退学者の占める割合が高いことが特色となっている。要するに,窃盗犯罪は中学,高校在学生になじみやすく,粗暴犯罪および強姦犯罪は,比較的学歴の高い年長少年になじみやすく,また,強盗犯罪は,学歴が低いか,または,いわゆる就学不全者になじみやすいことを示しているものといえよう。

II-9表 一般保護事件終局実人員の主要罪種別教育程度(昭和41年)

 次に,II-10表によって,保護者の経済的生活程度をみると,いずれの罪種においても,「普通」というものが最も多く,「貧困」がこれに次いで多い。罪種相互を比べると,「貧困」または「要扶助」というものが最も多い罪種は強盗であって,三四・九%,次いで,窃盗二九・一%である。粗暴犯および強姦の間に著しい差は認められない。少年の強盗および窃盗の背景的事情として,家庭の貧困という条件が働いていることを,ある程度示すものといえよう。右に関連して,保護者の教育程度を,II-11表によってみると,どの罪種でも,「小学校卒業程度」が最も多く,「中学校卒業」がこれに次いで多い。これを,罪種別に比較すると,「小学校卒業程度」または,それ以下の学歴の者は,強盗犯少年の保護者に高率であり,「中学校卒業程度」またはそれ以上の学歴の者は,強姦および粗暴犯少年の保護者に,やや高率である。

II-10表 一般保護事件終局実人員の主要罪種別保護者の経済生活(昭和41年)

II-11表 一般保護事件終局実人員の主要罪種別保護者の教育程度(昭和41年)

 なお,法務総合研究所では,法務省刑事局と共同して少年非行の実態に関する特別調査(以下,「法務省特別調査」という)を実施しているので,この調査結果に基づき,上記四種の罪種別特色について,若干の考察を付加することとする。ちなみに,この調査は,昭和四二年一月一日から同年一二月三一日までの間に,全国地方検察庁および家庭裁判所支部に対応する地方検察庁支部において受理した少年事件(簡易送致事件,道交法違反事件,業務上過失・重過失致死傷事件,その他,追送致事件,他庁からの移送事件および再起事件を除く。)の中から無作為に十分の一を抽出して選ばれた一二,四三九人の犯罪少年を調査の対象としている。
 まず,犯罪少年の居住環境についてみると,II-12表に示すように,窃盗および粗暴犯少年の半数またはそれ以上の者の居住環境が住宅地であるのに対して,強姦犯少年の半数近くは,農山漁村を居住地としている。強盗犯少年は,商店街,工場地帯,歓楽街に居供する者の割合が,他の罪種よりも高いことが特色となっている。居住形態は,II-13表に示すように,どの罪種も「自宅」である者が高率であるが,強盗犯少年の場合は,「浮浪・不定」という者が一六・四%であって,他の三種よりも明らかに高い割合を示していることが注目される。

II-12表 罪名別犯罪少年の居住環境

II-13表 罪名別居住形態

 次に,II-14表によって,被害者の年齢をみると,少年窃盗犯の被害者の年齢として最も多いものは,三〇歳から五九歳までの年齢層であって,六〇・五%である。少年粗暴犯の被害者の場合は,一〇歳〜一九歳が最も高率で(五二・九%),二〇歳〜二九歳がこれに次いで高い(二九・五%)。少年強姦犯の被害者も,一〇歳〜一九歳が七一・四%であって著しく高率で,二〇歳〜二九歳の一九・二%が,これに次いでいる。少年強盗犯の被害者の場合は,二〇歳〜二九歳が三九・三%,三〇歳〜五九歳が三三・六%,一〇歳〜一九歳が二一・四%となっている。要するに,少年窃盗犯の被害者は壮年以上の成人に多く,少年粗暴犯および少年強姦犯の被害者は,青少年層に多く,少年強盗犯の被害者は,若年成人を中心として,おおむね各年齢層に分散しているのである。加害者たる犯罪少年と,これらの被害者との関係を,II-15表によってみると,どの罪種でも,「無関係」というものが高率であるが,とくに,強盗および窃盗の場合が高い。粗暴犯の場合は,「友人・知人」であるものの割合が,他の三種に比べて最も高く,強姦犯の場合は,「顔見知り」程度のものが高率なことが,それぞれの罪種の特色を示している。

II-14表 主要罪名別被害者の年齢

II-15表 主要罪名別被害者との関係

 なお,最近,自動車保有台数の増加,運転人口の増大などに伴って,成人,少年ともに,交通関係事犯が増加したことは,繰り返し指摘されているところであるが,一方,交通関係事犯以外の犯罪についても,自動車を犯罪の対象とし,または,犯罪の手段として利用するなどの行為が,かなり増加しているとみられるので,この点について,若干の考察を付加しておく。
 法務省特別調査によれば,対象少年中,自動車に関連ある犯罪を犯した者は,一六・二%となっている。これらの犯罪少年について,主要罪名別に自動車との関連の割合および態様をみると,II-16表に示すとおりである。これによると,自動車と最も関連の深い罪種は強姦であって,全少年強姦犯罪の三二・一%において,自動車との関連がみられ,その大部分は,自動車を犯罪の手段として利用したものである。次いで,強盗(二二・九%),窃盗(二〇・八%)などが高率であるが,強盗の場合は,自動車を犯罪の手段に利用したものが多いのに対して,窃盗の場合は,自動車を犯罪の対象としているものが圧倒的に多いのが特色となっている。要するに,婦女を自動車に乗せて乱暴を働いたり,自動車を盗む少年の問題が,少年犯罪の予防という見地から,さしあたり,注意されなければならないのである。

II-16表 主要罪名別自動車との関連