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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/3 

3 犯罪少年の年齢別考察

(一) 人口の年齢構成の変容

 人口の増減と犯罪の発生とは,密接な関連があり,人口が増加すれば,一般に,犯罪も増加するといわれている。犯罪少年を,年齢別に考察するに先だって,まず,少年人口の推移を検討してみよう。
 昭和三五年以降昭和五〇年までの少年人口を示すと,II-17表のとおりである。

II-17表 少年人口の推移(昭和35〜45,50年)

 昭和三五年の少年人口は,一,〇九八万人であったが,その後,急速に増加し,昭和四〇年には,一,三〇一万人,四一年には,一,三四一万人となった。昭和三五年に比較すれば,昭和四一年には,二二%増加している。昭和四二年の少年人口は,一,二八八万人で,四五年には,一,〇六八万人になると推計されているから,少年人口は,昭和四一年をピークとして,しだいに,減少傾向をたどり,昭和四五年の人口は,昭和三五年の九七%になると予測される。これを,年齢別にみれば,一四,五歳の人口は,昭和三八年をピークとして,減少傾向をたどり,一六,七歳の人口では,昭和四〇年を,一八,九歳の人口では,昭和四二年をピークとして,いずれも減少していく。
 昭和三五年以降,数年間の少年人口の増加は,昭和二三,四年ごろまでの,出生率の上昇と死亡率の低下に基因するものである。また,昭和二五年以降にみられる出生率の急速な低下が,昭和四二年以降の少年人口の減少むもたらしている。
 この間の,少年の刑法犯検挙人員は,前表(II-17表参照)のとおり,少年人口の動きと,ほぼ平衡的に推移している。少年人口は昭和五〇年ごろまで逐年減少すると推計されており,他の社会的条件に急激な変動が起こらないものと仮定すれば,犯罪少年の絶対数は,人口の推移とともに減少するであろう。
 年齢別の犯罪および非行の増減は,年齢別人口の変動と密接な関連があるので,ここで,総人口の年齢構成割合の変化をみておこう。II-10図は,昭和一〇年および,昭和四二年の総人口ならびに昭和四五年および昭和五〇年の推計総人口を,五歳ごとの年齢層に区分して,その構成割合を示したものである。

II-10図 人口の年齢構成(昭和10,42,45,50年)

 図で明らかなように,昭和四二年の,一五歳ないし一九歳の人口割合は,昭和一〇年のそれに比して,著しく高く,一四歳以下の人口割合は,著しく少なくなっている。これは,戦後の人口動態率の変動によるものであることは,先に述べたとおりである。昭和四五年には,一五歳ないし一九歳の人口割合は,著しく少なくなり,二〇歳ないし二四歳の人口割合が増加し,昭和五〇年には,一五歳ないし一九歳の人口割合は,さらに減少してくる。
 したがって,犯罪の出現割合が,現行のままで推移するものと考えれば,少年犯罪は,急激に減少するにつれて,青年犯罪の量的増加の問題が,台頭することとなろう。

(二) 犯罪少年の年齢層別推移

 人口の一般的動きは,右に述べたとおりであるが,犯罪少年を,一四,五歳の年少少年,一六,七歳の中間少年および一八,九歳の年長少年の三層に分けて,昭和三三年以降,昭和四二年までの十年間の推移を,刑法犯検挙人員(昭和四一年以降は,準刑法犯を含む)および人口比(年齢別人口一,〇〇〇人に対する刑法犯検挙人員の割合)についてみると,II-18表のとおりである。なお,参考までに,二〇歳ないし二四歳の刑法犯検挙人員および人口比も付記した。また,人口比を図示したのが,II-11図である。

II-18表 年齢層別少年刑法犯検挙人員および人口比(昭和33〜42年)

II-11図 年齢層別刑法犯検挙人員の人口比の推移(昭和33〜42年)

 図によって,まず,年少少年をみると,刑法犯検挙人員の人口比は,昭和三三年以降,昭和三九年までは,急速に上昇し続けた。昭和三三年の人口比は七・五,昭和三九年のそれは一四・〇であったから,この間に人口比は約二倍に増加している。しかし,昭和三九年をピークとして,その後は,下降し始め,昭和四一年の人口比は一二・三になり,昭和四二年には,さらに一〇・七へと減少した。従来の少年犯罪の問題の一つとして,年少少年の犯罪の増加が重要視されていたが,昨今のように,年少少年の犯罪が急激に減少しつつあることは,好ましい傾向である。
 中間少年についてみても,年少少年と,ほぼ同様の推移を示している。しかし,中間少年では,昭和四〇年をピークとして,減少傾向に転じ,しかも,低下の勢は,年少少年のそれよりも,かなり緩慢であり,その人口比は,昭和三八年のみを例外として,常に,年少少年のそれより高い。
 年長少年では,刑法犯検挙人員の人口比は,年少少年,中間少年に比較して,きわめて高く,その推移傾向も,やや異なっている。昭和三三年から昭和三九年までは,おおむね,増加の傾向にあることは,他の年齢層の場合と同様であるが,上昇傾向はかなりゆるやかである。昭和四〇年からは,下降を続けるかにみえたが,昭和四二年には,再び上昇し,昭和三九年をわずかにこえて,最高を示すに至っている。
 この十年間の年長少年の人口比を,二〇歳ないし二四歳の青年層と比較してみると,青年層のそれにきわめて近接しており,昭和三七年から三九年までは,年長少年の方が,むしろ上回っている。年少少年および中間少年では,この二,三年来,刑法犯検挙人員が,かなり減少しているのに反して,年長少年では,依然として,増加しており,昭和四一年の検挙人員は七七,三〇一人であったが,昭和四二年のそれは八七,五三三人と,一万人の増加をみせている。
 量的に問題となっている年長少年の犯罪の推移は,今後の成行が注目されなければならないが,後述のように,年長犯罪少年の多くは,勤労少年である。したがって,当面の少年犯罪の問題の一つとして,とくに,勤労少年に対する対策には,よりいっそうの関心がもたれなければならない。

(三) 犯罪少年の年齢層別特色

 次に,各年齢層別に,犯罪少年の質的差異についてみよう。まず,罪名についてみると,II-19表のとおりであって,罪種も年齢によって,かなりの差異がある。

II-19表 年齢層別罪名別刑法犯検挙人員(昭和42年)

 年少少年の罪名別構成割合をみると,窃盗が圧倒的に多く,全体の七四・四%を占め,その他の罪名のものは,きわめて少なく,暴行七・一%,傷害四・八%,恐喝四・四%などが,おもなものである。
 中間少年では,年少少年と同様に,窃盗が最も多いが,その割合は,年少少年の場合よりかなり少なく,四六・一%である。ついで,業務上等過失致死傷 (重過失致死傷を含む)の二二・九%が目だって多い。次に,傷害七・九%,暴行六・七%,恐喝六・二%がおもなものである。中間少年では,年少少年に比較して,窃盗の割合が減少し,業務上等過失致死傷の割合が,著しく増加し,傷害,暴行および恐喝などの粗暴な犯罪の割合も,高くなっているのが目だつ。
 年長少年になると,業務上等過失致死傷が最も多く,全体の四七・七%を占めている。この実人員は,四一,七八七人に達し,前年に比較して,一〇,八二二人増加している。さきに,年長少年のみが,刑法犯検挙人員も増加していることを指摘したが,これは,ほとんど,業務上等過失致死傷の増加によるものである。これに次いで,窃盗が多いが,その割合は,二四・四%であり,中間少年の場合よりさらに少ない。次いで,傷害九・八%,暴行五・六%,恐喝三・三%が,おもなものである。傷害,暴行および恐喝は,年齢のいかんを問わず,少年に多い罪名ではあるが,年長少年では,他の年齢層の少年に比して,恐喝の割合が少なく,傷害の占める割合がとくに高いのが特色である。
 II-19表に,二〇歳ないし二四歳の青年層の罪名別構成割合を付記したが,これでみると,青年層では業務上等過失致死傷が五七・七%と過半数を占めており,その他の罪名では,窃盗一四・七%,傷害一〇・九%がおもなものである。少年では比較的構成割合の高い恐喝も,青年層ではその割合は少なくなっている。
 犯罪を遂行するにあたり,少年では,成人に比較して,集団で行なう場合が多いことが特徴であるといわれている。
 法務省特別調査によって,年齢層別に,共犯の有無を示すと,II-20表のとおりである。総数では,共犯によるもの四七・三%,単独で行なわれたものは五二・七%であるが,これを年齢層別にみると,低年齢層ほど,共犯によるものの割合が高くなっている。すなわち,年少少年では,五四・七%が共犯によるものであり,中間少年では四八%,年長少年では四一・八%である。年少少年では,その半数以上が,共犯によるが,年長少年になれば,半数以上が,単独でなされている。少年は,一般に,付和雷同性が強く,友人に誘われ,あるいは,仲間を誘い入れることによって,行動を起こすが,年少少年では,とくに,精神的にも未成熟であるために,犯罪においても,共犯によるものが多くなるのであろう。

II-20表 年齢層別共犯の有無

 次に,年齢層別に,非行前歴の有無浸をみると,II-21表のとおりである。総数では,非行前歴(ここでは,検察庁に送致された経歴をみる。)のあるものは三三・七%,非行前歴のないものは六六・三%である。これを,年齢層別にみると,年少少年では,非行前歴のあるものは二二・八%,非行前歴のないものが七七・二%である。年齢が高まるにつれて,非行前歴のあるものの割合が高く,年長少年になると,非行前歴のないものは五八・六%であり,非行前歴のあるものが四一・四%となる。年長になれば,累犯性のある少年の割合も増加してくるので,年長少年が非行前歴をもつ割合がふえるのは当然ではあるが,年長少年であっても,その六〇%近くは,この年齢に達して初めて,犯罪を行なった少年であり,また,年少であっても,その三割は,なんらかの非行前歴をもっている少年であることは注意を要する。

II-21表 年齢層別非行歴の有無

 さらに,非行前歴の有無を主要罪名別に示すと,II-22表のとおりであって,年少少年では,窃盗によるものは,非行前歴のあるものの割合が比較的に少なく,暴行および恐喝では,非行前歴のあるものの割合が高い。中間少年では,恐喝によるものが,とくに,非行前歴のあるものの割合が高く,年長少年になると,窃盗および恐喝によるものが,非行前歴のあるものの割合が,とくに高くなっている。

II-22表 年齢層別主要罪名別非行歴の有無

 次に,犯罪少年の犯行時の職業をみると,II-23表のとおりである。

II-23表 年齢層別犯時職業

 総数では,犯行時に職業についていた有職少年が四四・五%,学生三七・七%,無職者は一七・九%である。
 これを年齢層別にみると,年少少年では,八一・五%が学生であり,有職少年は一一・一%,無職者は七・四%である。中間少年では,三六・四%が学生,有職少年は四四・五%であって,半数近くが勤労少年となり,無職者も一九・一%と,かなり高い割合を占めるようになる。年長少年になると,学生は九・八%にすぎず,有職少年は,六六・六%を占め,無職者も二三・七%と,他の年齢層に比較して,著しく高くなる。無職者も,なんらかの職につくべき少年たちと考えれば,年長少年では,その九〇%は,勤労少年であるとみなされる。本調査の対象者の中には,業務上等過失致死傷によるものは,含まれていないが,年長少年に多い,この種の罪名のものを加えれば,有職少年の割合は,さらに高まることが予想される。
 年少少年の多くは,学生であって,在学中の少年が非行化することに関しては,家庭とともに,学校教育についても,多くの反省すべき問題を含んでいるといわなければならない。
 年長少年にあっては,その対象の大多数が勤労少年であるところから,労働条件の問題とあわせて,職業教育,余暇生活の指導など,勤労少年への対策に,多くの問題が残されていることに注意すべきであろう。