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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/1 

第二編 特殊な犯罪と犯罪者

第一章 少年犯罪

一 少年犯罪の概況

1 少年犯罪の量的推移

(一) 少年犯罪の意義と範囲

 現行少年法は,「二〇歳に満たない者」を少年とし,その対象となる少年を,次の三種に区分している。
犯罪少年……一四歳以上二〇歳未満の「罪を犯した少年」
触法少年……一四歳未満であって,「刑罰法令に触れる行為をした少年」
虞犯少年……一定の事由があって,「その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」
 右の一定の事由とは,「イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること,ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと,ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること,ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること」の一または二以上にあたることをいう。以下,右の区分に従って,少年の犯罪その他の非行について述べる。

(二) 少年刑法犯の動向

 昭和四二年中に刑法犯で検挙された少年は,一八六,〇〇〇人で,前年に比べると,七,一二一人の減少となり,昭和三〇年以降,上昇を続けてきていた検挙人員が,初めて減少に転じた。すなわち,II-1表に示すように,戦後,少年刑法犯検挙人員は,昭和二六年の一三三,六五六人を第一次のピークとし,その後,二九年まで下降していたところ,前述のように,昭和三〇年から,再び増勢に転じ,三四年に,戦後最高の数字を示して以来,毎年記録を更新し続けてきていた。昭和三九年に一九万人台を突破してからは,やや増勢が弱まっていたが,四二年には,ついに,一九万人台を割るに至ったのである。

II-1表 少年刑法犯検挙人員(昭和21〜42年)

 これを,前掲II-1表によって,人口比の面からみると,昭和四二年の人口比は,一四・四であって,前年とほぼ同じ割合である。同表によってもみられるように,人口比では,少年刑法犯の場合,昭和三五年,三六年ごろから,おおむね,一三・七ないし一五・一の間を上下してきているのであって,最近,とくに低下したというわけではない。参考までに,II-1図によって,少年刑法犯検挙人員人口比を,成人のそれと対比してみると,成人の場合,昭和三七年を底として,最近四,五年間は上昇している。これが,主として,業務上過失犯の増加によるものであることは前述した。ちなみに,全刑法犯検挙人員中に占める少年の割合を,前掲II-1表でみると,昭和三八年の二八・七%をピークとし,その後,漸減し,四二年には二三・二%まで低下している。

II-1図 少年・成人別刑法犯検挙人員人口比(昭和21〜42年)

 右のように,ここ数年来,憂慮されてきていた少年犯罪の量的増大については,一応,減少ないしは停滞の徴候がみえてきたことは,喜ばしいことと言わねばならない。しかしながら,少年刑法犯検挙人員は,減少したとはいえ,まだ,かなりの量を保っており,また,人口比にみられるように,少年のそれは,成人のそれをかなり上回っており,刑法犯少年の動向は,まだ,決して楽観を許さないものがある。

(三) 少年特別法犯の動向

 昭和四二年中に検察庁で新たに受理した(家裁からの逆送,検察庁間の移送および再起による受理を除く。以下,本章において「新規受理」という。)特別法犯にかかる少年の人員は,五六二,八六一人であって,このうち九七・八%は,道路交通法違反によるものである。少年の交通犯罪については,後述(本編第二章の三)しているので,ここでは,道交違反を除く特別法犯のみについて述べる。
 昭和四二年の道交違反を除く少年特別法犯にかかる検察庁新規受理人員は,一二,一七四人であって,成人を含めた,同年中の道交違反を除く特別法犯全受理人員の五・〇%を占めている。これを,昭和四一年に比べると,人員では,一,一八二人減であり,構成比率では,二・五%とかなり大幅に減少している。これは,同年における成人の公職選挙法違反が増大したことによるものである。
 II-2表によって,最近一〇年間の推移をみると,昭和三三年には九,八三〇人であったものが,三五年には一五,五一六人にまで増加し,その後,やや減少したが,昭和三八年には,再び,一六,八六七人に達し,最近におけるピークを示した。三九年以降は,減少の一途をたどってきている。人口比(少年人口一〇,〇〇〇人に対する割合)の点からみても,その推移は,人員における推移と,おおむね軌を一にしている。

II-2表 特別法犯の検察庁新規受理人員の推移(昭和33〜42年)

 次に,同表によって全新規受理人員中に占める少年の構成比率をみると,最近一〇年間は,おおむね,四・八%ないし八・八%の間を上下しているが,昭和三九年以降は,減少の傾向にある。昭和四二年は,前述のように,五・〇%であって,刑法犯の場合の二三・二%,道交違反の一二・二%に比べて,最も低率である。

(四) 触法少年の動向

 昭和四二年に刑法に触れる行為で警察が検挙または補導した一四歳未満の少年は,三〇,八八三人であって,これは,八歳以上一四歳未満の者の人口一,〇〇〇人に対し三・二一人にあたる割合である。前年に比べた場合,実人員で三,一三一人,人口比で〇・二三の減少である。特別法犯に触れる行為のあった一四歳未満の少年については,さしあたって,昭和四一年以降の資料が得られないが,II-3表にみられるように,最近数年間は,実人員も,人口比も,おおむね,減少ないし横ばいの傾向にあるとみられる。

II-3表 触法少年の検挙・補導人員(昭和33〜42年)

 刑法に触れる行為のあった少年は前掲II-3表に示すように,昭和三三年には,三〇,九九四人であったものが,その後,毎年増加し,三七年には,五七,八〇八人となった。しかし,その後,逐年減少してきている。人口比についても,おおむね同様の傾向がみられている。参考までに,昭和四一年の資料により,刑法に触れる行為のあった一四歳未満の少年について,二,三の特質をみると,まず,罪種では,II-4表に示すように,窃盗が最も多く,全体の八六・三%を占めている。次いで,粗暴犯(恐喝,脅迫,暴行,傷害)が多いが,それは窃盗の三〇分の一程度の数にすぎない。同表によって,昭和三三年,三七年のそれらと比べると,窃盗は,どの年次でも八〇%以上を占めており,粗暴犯は,三七年の五・二%が最高であって,四一年にはかなり低率となっている。

II-4表 触法少年の行為別人員および構成比(昭和33,37,41年)

 次に,年齢別では,一三歳が最も多く,四〇・一%を占め,ついで,一二歳,一九・四%,一一歳,一二・四%,一〇歳,九・三%などの順であり,年齢の低くなるにしたがって,構成比は減少している。一〇歳未満の者は,合計すると,全体の一八・八%である。性別にみると,男子が圧倒的に多く,九二・二%を占め,女子は七・八%にすぎない。学校関係では,中学生が四九・九%,小学生が四九・〇%であって,ほとんど相半ばしている。

(五) 虞犯少年の動向等

 II-5表は,全国の家庭裁判所で受理した虞犯少年の年次別事件終局実人員を示しているが,これによると,昭和三五年の人員を一〇〇とした場合,三六年には九四まで減少したが,その後,四〇年まで増加を続け,同年の指数は一二一を示すに至った。四一年には,やや減少したが,依然,一一八と,かなり高い指数をみせている。参考までに,昭和四一年の資料により,これら虞犯少年の年齢をみると,一七歳の者が最も多く,二五・五%を占め,次いで,一六歳,二三・二%,一五歳,一七・一%,一八歳,一五・三%などの順となっている。要するに,虞犯少年の大部分は,一五歳から一八歳の年齢層によって占められているわけである。性別では,男子が五三・〇%,女子が四七・〇%であって,男子がやや高率である。身分別にみると,学生・生徒が最も多く,三五・〇%であり,無業者の三四・一%が,これに次いで多い。有業者は三〇・八%である。

II-5表 一般保護事件中の虞犯少年の人員(昭和35〜41年)

 ちなみに,警察では,少年の喫煙,飲酒,不健全娯楽,怠学・怠業,不良交友,盛り場はいかい,家出などの諸行為を補導の対象としており,これらのうち,非行性が進み,要保護性があると認められた者を,家庭裁判所に虞犯少年として送致している。警察が補導の対象としている行為を犯した,いわゆる不良行為少年は,II-6表に示すように,昭和四二年には一,〇九三,三一四人であり,前年に比して二二,〇〇七人の減少である。

II-6表 不良行為少年の補導人員(昭和33〜42年)

 少年の不良行為については,暗数がかなり存在していると考えられるから,表面に現われた数字のみをもって,動向をうんぬんすることは,必ずしも適当ではないが,同表によってみると,昭和三九年ごろをピークとして,その後は,減少している傾向がうかがわれる。