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5 地域社会と犯罪少年 犯罪の発生は,地域によって,かなりの差異があり,都市では,農村地域に比較して,犯罪および非行の発生が著しい。従来,少年の犯罪が大都市に集中していることがしばしば指摘されてきた。大都市へは,多くの労働力が流入し,その労働力の大多数が,若年労働力であることから,少年犯罪の大都市集中が問題視されてきた。しかし,最近における経済の高度成長は,一般の生活水準の上昇をもたらし,義務教育終了者の高等学校への進学率を高めたために,若年労働力は,減少の傾向にある。他方,後進地域における地域開発,地方都市への工場誘致および大都市周辺地域における衛星都市の発展等は,人口移動,とくに,労働力移動の方向をかなり変化させてきており,ひいては,大都市ばかりでなく,各地域での都市化を促進させている。このため,従来,大都市に集中していた少年犯罪が,大都市ばかりでなく,大都市周辺地域および中小都市など,都市化の激しい地域にも拡散しつつある。
そこで,まず,少年犯罪が地域によってどのような差異があるかを,府県別少年刑法犯検挙人員によって検討してみよう。 ところで,犯罪の発生には,地域差があるが,これを検挙する警察力にも,地域差がある。たとえば,昭和四〇年における東京都の検挙率(犯罪認知件数に対する検挙件数の割合)は,五五・四%であるが,青森県の検挙率は八九・二%である。そこで,各府県の検挙人員をそのまま比較するのは適当ではないと思われるので,いちおうの目安として,各府県における検挙率で検挙人員を除した数値(この数値は,犯罪発生人員に近いであろう。)を出し,これが各府県の少年人口一,〇〇〇人中に占める割合(人口比)を求めて,府県間の差異を比較することとした。その結果は,III-38表のとおりである。 III-38表 府県別少年刑法犯検挙人員および人口比(昭和35,40年) 昭和四〇年の府県別少年刑法犯推定発生人員の人口比で,高率の上位一〇県をあげると,京都(三二・〇),福岡(三一・七),東京(三〇・九),大阪(二七・三),岡山(二六・八),高知(二六・二),神奈川(二五・四),北海道(二四・六),群馬(二四・五),香川(二三・八)である。これでみると,二,三の府県を除いてはいずれも,大都市を擁し,その周辺に中小都市を含む,最も都市化の進行した地域であり,これらを大別すれば,京浜,京阪神地帯および北九州地帯の労働力の集中地域といいうる。これに反して,少年刑法犯推定発生人員人口比の低率の一〇県をあげると,岐阜(一一・九),島根(一二・四),長野(一二・七),奈良(一三・四),青森(一三・六),三重(一三・八),徳島(一四・一),秋田(一四・三),福井(一四・四),福島(一四・九)である。低率の県をみると,二,三の県を除いては,いずれも,就業者のうち,第一次産業の占める割合が高く,第二次,第三次産業の占める割合が比較的少ない地域である。これらの県の一般人口の動きをみると,毎年,人口が停滞的であるか,他府県への流出によって,むしろ人口が減少している。これらの地域では,犯罪や非行を誘発する条件が比較的少ないのではないかと思われる。 少年刑法犯推定発生人員の高率な府県および低率な県は,昭和三五年においても,昭和四〇年とほとんど同様である。 つぎに,法務省の特別調査によって,都市と郡部とでは,犯罪内容にどのような差異があるかを検討してみよう。III-39表は,調査対象少年の犯行地を,大都市(東京都二三区,大阪,名古屋,京都,横浜,神戸の六大都市),中小都市(六大都市以外の市)および郡部に分けて,犯罪内容を比較したものである。いずれの地域でも,窃盗が最も多く,全体の半数以上を占めているが,都市に比べて,郡部では,その割合がやや少ない。ついで暴行・傷害が多いが,この割合は,大都市および中小都市に比較して郡部の方がやや高くなっている。これに,恐かつ・脅迫を加え,粗暴犯としてまとめてみても,その割合は,都市に比較して郡部の方が高い。また,強かん・わいせつ等の性犯罪についてみても,大都市および中小都市より郡部において,その割合が高い。これに反して,特別法犯は郡部では,その割合が最も低く,大都市では,高くなっている。 III-39表 地域別,主要罪種別検挙人員 少年の居住地と犯行地との関連をみると,III-40表のとおり,全体の七四・八%は,居住地と同一の市町村内で犯行がなされ,犯行地が他府県にまたがる場合は,比較的少ない。大都市に居住する少年では,同一市内を犯行地とする少年は,七三・五%であるが,郡部に居住する少年のそれは,七四%である。一方,居住地以外の府県を犯行地とする少年は,大都市居住者の八・九%,中小都市居住者の六・八%,郡部居住者の四・六%で,少年では,犯罪の行動圏は,さして広くないといえよう。III-40表 居住地と犯行地との関連 大都市を含む地域において少年犯罪が顕著であることは,すでに述べたが,大都市地域で最も犯罪率の高い東京都を取り上げ,中心地域と周辺地域における少年犯罪の推移をみよう。III-41表は,昭和三〇年,三五年,四〇年における少年刑法犯検挙人員人口比と各年次の推移を連鎖指数によって示したものである。これでみると,東京都全体では,昭和三〇年の少年刑法犯検挙人員の人口比は,一四・九であり,昭和三五年には,一九・二に上昇している。この間の増加率は,二九%である。昭和四〇年には,人口比は,一八・〇であって,昭和三五年に比較すれば,六%減少している。これを,東京都二三区についてみると,昭和三〇年の人口比は,一五・〇であり,昭和三五年には,一九・八に上昇し,この間の増加率は,三二%と著しく高い。しかし,昭和四〇年には,人口比は,一八・五となり,昭和三五年に比較すると七%減少している。これに対して,二三区以外の地域では,昭和三〇年の人口比は一三・六,昭和三五年の人口比は一五・五であり,その増加率は,一四%である。二三区以外の地域では,人口比においても,増加率においても,二三区よりは低率であった。ところが,昭和四〇年には,人口比は,一五・七と,さらに上昇している。二三区以外の地域を二三区と比較すると,人口比においては,常に低率であるが,最近五年間の傾向は,二三区で減少しているのに反して,むしろ上昇している。 III-41表 東京都における刑法犯検挙人員の推移(昭和30,35,40年) 従来,東京都区部では人口の増加が著しく高く,その増加は,主として東京都以外の地域からの流入人口によるものであった。しかし,最近の傾向としては,二三区以外の地域で,人口増加が目だっている。周辺地域における人口増加および都市化の伸展は,盛り場や娯楽機関等をも発展させ,不健全な,刺激的な環境の増加は,少年にも悪影響を及ぼし,少年犯罪の増加をきたしているのではあるまいか。地域社会と犯罪少年に関連して,法務総合研究所では,農村地域出身の年少労働者の非行について調査を実施したので,その一部を述べよう。 昭和三七年三月に山形県で義務教育を終了し,直ちに就労した男子年少労働者二,〇四六人について,昭和四一年二月に警察庁保管の指紋原票によって,非行の有無を確認した。就労後約四年間に非行化した年少労働者は,八九人であったが,これらについて,最初の就労地と最初の警察逮捕地との関連を示すと,III-8図のとおりである。 III-8図 就労地別逮捕地および人員 山形県出身の年少労働者の就労地をみると,出身県内就労五〇%,東京都内就労三四%,その他の府県での就労一七%であって,就労者の半数は,出身県外に流出している。最初の就労地別にみた警察の逮捕人員は,B欄に示したとおりであるが,それぞれの逮捕地をみれば,C欄のとおり,必ずしも就労地で逮捕されてはいない。逮捕地をみると,出身県内を逮捕地とするものが最も多く,逮捕者の七三%を占め,東京都内を逮捕地とするもの一五%,その他の府県一二%となっている。出身県内の就労者が同県内を逮捕地とするものが多いことは当然としても,出身県以外の地域へ就労して非行化した少年についてみても,最初の逮捕地は出身県であるものが非常に多い。このことは,一つには,少年の非行性が進んでいないためもあって,少年の生活環境に密着した,きわめて限られた地域内で非行が行なわれているためではないかと考えられる。また,出身県外へ就労した年少労働者が,最初の職場に定着できなかった場合に,適切な相談相手が得られれば,その地域の別の職場に就労することも可能であろうが,大都会の零細な企業に就労した少年達の福祉厚生対策は,必ずしも十分ではないから,失意のまま帰郷する少年も多いと考えられる。 |