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 昭和42年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/4 

4 職業と犯罪少年

 最近における勤労青少年をめぐる動向のうち,とくに目だつのは,年少労働者の大都市への移動と,これに伴なう職業構成の変化である。たとえば,労働省の資料によると,昭和四〇年三月新規中卒者四一二,九三五人中,県外就職者(少年が卒業した中学の所在する都道府県以外の都道府県に就職した者)は,一五五,八一七人であって,これは,全就職者の三七・七%にあたる。これら県外就職者の大部分は,京浜,京阪神,東海地方などの大都市を含む府県に集中し,第二次または第三次産業に就業している。III-34表は,一五歳から一九歳の少年の産業部門別就業者数およびその割合の推移を,昭和二五年以降の国勢調査年次ごとに示しているが,これによると,昭和二五年から三五年の間に,第一次産業部門の就業少年が,減少の一途であるのに対して,第二次および第三次産業部門就業少年は,増加し続けてきた。しかし,三五年から四〇年の間では,事情がやや異なってきている。すなわち,就業者総数が,この期間に約六〇万人減少している。これは,主として,前項で述べた進学率の上昇などによって,もたらされたものであるが,この結果,従来増加し続けていた第二次産業部門の就業少年の数が減少した。しかし,構成比率で比べると,第一次産業部門が八・四%の減少であるのに対して,第二次産業部門では二・六%,第三次産業部門では,五・八%も増加している。すなわち,一般的には,農業,漁業などに従事する少年が減少し,商業,サービス業などに就職する少年が多くなっているといえるのである。

III-34表 産業部門別就業者数および構成割合の推移(単位1,000人)(昭和25,30,35,40年)

 さて,右のような背景の下に,犯罪少年と職業の関係をみよう。III-35表は,一般保護少年の職業別人員を示し,かつ,有職者についての割合を一般有職少年と対比し,昭和三〇年,三五年および四〇年の推移をみたものであるが,これによると,専門・技術・事務等従事者,運輸・通信従事者,技能工・生産工程作業者,単純労働者の割合は,犯罪少年,一般有職少年ともに増加し,農林・漁業作業者,採鉱・採石作業者の割合は,両者ともに減少している。サービス業従事者については,一般有職少年の割合が横ばいであるのに対して,犯罪少年のそれは減少している。全般的にみて,一般有職少年における職業構成の増減が,そのまま犯罪少年の職業構成の増減に反映しているといえる。

III-35表 一般有職少年と犯罪少年の職業構成の比較(昭和30,35,40年)

 ちなみに,昭和四〇年の職種別犯罪者率(一般有職少年一,〇〇〇人当たりの犯罪少年数)をみると,最も高率のものは,運輸・通信従事者で,七九・九人,ついで,採鉱・採石作業者四七・八人,販売従事者(商品その他の販売に従事する者)三七・二人などが高い。専門・技術・事務従事者は,五ないし六人で最も低率である。
 参考までに,有職少年と学生・生徒の犯した罪種を比べると,III-36表に示すとおりである。これによると,有職少年は,学生・生徒に比べて,過失致死傷を犯す者の割合が多く,窃盗を犯す者の割合が少ない。傷害や強かんの割合もやや高い。

III-36表 罪名別有職少年と学生・生徒の比較(昭和40年)

 職業と犯罪少年に関連して,注意を要することは,少年の離職または転職ということである。労働省の年少労働者就労状況調査(昭和四〇年一二月)によると,中学新規卒業者の就職後一か年間の離職率は,男子では二二%,女子では一八%であり,このうち,三か月未満で離職する者の割合は,二〇%ないし二二%であるとされている。離職の理由としては,八五%が本人の任意退職があげられており,また,職場の規模が小さくなるほど,離職率が高くなることが指摘されている。職場は,少年にとって社会人として独立するために必要不可欠の場所であるが,少年が職場に定着せず,離職または転職を繰り返すことが,その非行化の第一歩となり,また,再犯の原因となることも多い。法務省矯正局の調査によれば,昭和四一年一一月現在で,全国少年院に収容されている職業経験のある犯罪少年のうち,就職後,犯罪を犯すに至った者の八一・三%は,二回以上の転職経験があり,犯罪を犯した後,就職した者の七六・二%についても,二回以上の転職経験がみられている。ちなみに,司法統計によってみると,昭和四〇年の一般保護少年中,転職経験が三回以上ある者は,全体の一五・九%を占めており,前年より一・四%増加している。
 なお,法務省特別調査の結果によって転職の有無をみると,III-37表に示すように,転職経験のある者は,全体の六一・四%である。同表により,参考までに,転職と罪種との関係をみると,転職のある犯罪少年は,転職のない者に比べて,窃盗,強盗,詐欺,傷害,恐かつ,殺人,暴力行為,売春防止法違反などの犯罪を犯した者の割合が高く,逆に,暴行,脅迫,強かん,わいせつ,銃砲刀剣等の割合が低い。

III-37表 転職の有無別罪種