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 昭和42年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/3 

3 学校と犯罪少年

 文部省の学校基本調査報告書によれば,昭和四〇年には,学令に達している児童の九九・九%が,義務教育を受けており,また,義務教育終了者のうち,高等学校(定時制を含む。)に進学する者の割合は,昭和三〇年には,五一・五%であったものが,三五年には五七・七%,四〇年には七〇・六%となり,高等学校終了者のうち,大学(短大を含む。)に進学する者の割合も,昭和三〇年には,一八・四%であったものが,三五年には,二六・〇%となり,四〇年には,三三・三%と増加したとされている。すなわち,最近では,中学校卒業者のうち,一〇人に七人,高等学校卒業者のうち,三人に一人は,上級学校に進学するようになっているのである。このような教育の普及度は,国際的にみても,高水準であるが,他方,同報告書では,国家予算中に占める教育費の割合,生徒数に対する教師数の比率,校舎設備などの面では,必ずしも十分でない点もあることが指摘されている。また,総理府中央青少年問題協議会が,昭和四〇年九月に発表した「青少年非行対策に関する意見」では,教師と生徒との人間関係を深めうる個別指導をいっそう強化すべきことが指摘されている。このように,進学率などが高まって,より高い教育を受ける者が増加しているにもかかわらず,これを受け入れる学校の側の人的,物的体制が,必ずしも十分でないとみられることは,在学中の少年の非行化と無関係ではないと思われる。そこで,以下,学生・生徒の犯罪について,その実態を明らかにすることとする。
 III-30表は,一般保護少年について,学校程度別に人員および構成比を示し,最近一〇年間の推移をみたものであるが,これによると,まず中学校在学中の者は,昭和三〇年には一六,一六七人であったが,四〇年には四四,七二一人と,二・八倍となり,高校在学中の者は,三〇年には九,四一二人であったが,四〇年には四三,二四〇人で,四・六倍になっている。大学在学中の者も,実人員は少ないが,二・三倍に増加している。

III-30表 一般保護少年の学歴(昭和30,35,39,40年)

 ところで,これら一般保護少年のうち,とくに数の多い中学生および高校生について,以下,少し詳しくみてみよう。III-31表は,中学,高校別に生徒数に対する一般保護少年の割合を,昭和三〇年,三五年,三九年および四〇年の各年次についてみたものであるが,これによると,中学校の場合,生徒一,〇〇〇人に対する一般保護少年の割合は,三〇年には二・七であったが,三九年には七・五と,三倍近くに増加しており,四〇年においても同様の割合を保っている。高等学校の場合は,三〇年に四・六であったが,三五年には七・五,三九年九・〇,四〇年九・五と,増加の一途をたどってきている。いずれにしても,中学校および高校在学生による犯罪が,人員数においても,また,在学人員比においても,増加していることは憂慮に堪えない。

III-31表 中学・高校在学生に対する一般保護少年の割合(昭和30,35,39,40年)

 参考までに,法務省特別調査によって犯罪少年中の,中学・高校在学生の割合をみると,III-32表に示すように,中学校の場合は,二三・三%,高等学校の場合は一八・一%となっている。さらに,これらの罪名をみると,中学在学生で最も多いのは,窃盗であり(七三・六%),ついで傷害,恐かつ,暴力行為などが多い。高校在学生の場合も,窃盗が最も多く(五一・七%),ついで,傷害,恐かつ,暴行,暴力行為,強かんなどが多くなっている。中学在学生と,高校在学生を比べると,中学生では,窃盗が七割以上を占めているのに対し,高校生では,窃盗が五割強となり,強盗,傷害,暴行,強かんなどの割合が中学生より高くなっている。

III-32表 罪名別犯罪少年の経歴(中・高校)

 学校と犯罪少年については,在学生のみでなく,中途退学者の問題も,無視することはできない。前掲III-30表によって,中学および高校の中途退学者についてみると,中学校の場合は,一〇年間に約九,〇〇〇人減少しているのに対し,高等学校では,約五,〇〇〇人増加している。また,前掲III-32表によって,中途退学者の犯した罪種をみると,中学中退者が最も多いのは,窃盗であり(六一・五%),高校中退者では,窃盗(四二・一%),傷害,恐かつ,暴行などが多い。これらは,在学生の場合と,ほぼ同じ傾向にある。しかし,補導回数について,在学生と中途退学者とを比べると,III-33表にみるように,中退者の方が,補導回数の多い者の割合が高い。すなわち,在学生の場合,二回以上補導されたことのある者は,一四・一%であるのに対して,中退者のそれは,三三・六%である。学校中退者は,非行の初期段階で,適切に補導されていれば,あるいは,学業を中途で放棄するような事態にまで立ち至らなかったのではないかと思われる。

III-33表 中学・高校の在学生と中退者の補導回数比較

 学校は,少年の人格形成のために,家庭と並んで重要な社会的機能を果たすことが期待されているにもかかわらず,在学中の犯罪少年が増加しつつあることについて,多くの反省すベき問題が残されていると思われる。