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 昭和42年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/1 

二 裁判

1 確定裁判の概況

(一) 概況

 昭和四一年に確定裁判を受けた者の総数は,四,二四八,〇八九人である。この裁判結果別内訳を,昭和三六年以降,同四一年までの六年間について対比し,昭和三六年を一〇〇とする指数によって,その増減の状況を示すと,II-14表のとおりであり,昭和四一年を円グラフにしたのが,II-4図である。確定裁判総数についてみると,昭和三七年以降,逐年著しく増加し,昭和四〇年は,昭和三六年に比べ,一・九倍となった。昭和四一年は,やや減少の傾向をみせているものの,なお昭和三六年の一・七五倍である。

II-14表 裁判結果別確定裁判を受けた人員(昭和36〜41年)

II-4図 裁判結果別確定裁判を受けた人員と率(昭和41年)

 昭和四一年の内訳をみると,総数の九七・七%が罰金刑で,懲役が一・七%,公訴棄却が〇・三%,禁錮〇・二%,科料〇・一%,無罪〇・〇〇九%となっている。
 つぎに,六年間の推移をみると,まず,懲役刑は,昭和三九年まで,逐年減少していたが,昭和四〇年にやや増加し,昭和四一年は,横ばい状況で,昭和三六年を一〇〇とすると,昭和三九年が八五,昭和四〇年,四一年は,いずれも九〇になっている。禁錮刑は,引き続き増加しており,昭和三六年を一〇〇とすると,昭和四一年には二六三となっており,最近六年間に二・六倍以上となっている。これは,自動車による業務上過失致死傷事件が増加し,しかも,その科刑が漸次重くなり,禁錮刑を科せられる者が多くなってきた結果である。ただし,その確定裁判総数中に占める割合は,前述のとおり,わずかに〇・二%で,懲役の一割にもならない。罰金刑も,増加を続けているが,昭和四一年は,前年に比し,実数において三六一,三〇八人減少している。しかし,昭和三六年を一〇〇とする指数では,一八八という数字を示している。これは,激増した道交違反の大部分が罰金刑に処せられている結果である。一方,科料は,減少の一路をたどっている。昭和三六年には,総数の五・一%を占めていたのに,昭和四一年には〇・一%に減少し,指数をみても,昭和三六年を一〇〇とすると,昭和四一年では三となっている。このように,科料が激減したのは,昭和三五年一二月二〇日施行の道路交通法により,道交違反の法定刑から科料が大幅に削られ,道交違反に科料が科せられる余地が少なくなったこと,および科料の上限が一千円未満であるために,きわめて軽微な犯罪についてだけ適用され,それ以外の罪で,他に選択刑のある場合には,ほとんど科料が適用されなくなったことなどによるものと思われる。つぎに,公訴棄却であるが,昭和三六年を一〇〇とすると,昭和四〇年では,一三四となっていたが,昭和四一年では,八七に減少している。公訴棄却の増減は,主として道交違反事件の略式起訴の場合の略式命令不送達の増減によるものと思われる。
 つぎに,懲役と禁錮とを刑期別に区分して,昭和三六年,同三八年および同四〇年を対比すると,II-15表(1)・(2)のとおりである。

II-15表 自由刑の刑期等別人員(昭和36,38,40年)

 まず,懲役についてみると,無期は,各年とも,総数の〇・一%で,その実数も,四九人ないし七五人にすぎない。有期懲役の中で,実刑を言い渡されたものをみると,一年以下が約五割を占め,三年以下を加えると,約九割を占めている。
 わが国の懲役の刑期は,比較的短期に集中していることが明らかである。
 また,執行猶予も,昭和三六年が五二・四%,三八年が五一・一%,四〇年が五三・五%と,例年約五割を占めている。このように,刑が短期に集中し,執行猶予の率が高いことが,戦後の科刑の大きな特色となっている。
 つぎに,禁錮についてみると,執行猶予の率が,昭和三六年で七九・八%,昭和三八年で七四・四%,昭和四〇年は七六・〇%と,高率であるのが目につく。また残りの実刑のうち,約九割が一年以下の刑になっている。ただ,禁錮の実刑のうち,刑期が一年をこえるものの割合が,昭和三六年の四・七%から,昭和四〇年には,一〇・四%と著しく増加しているのが注目される。これは,禁錮刑に処せられる者の大部分が自動車による過失致死傷であるから,この種事犯に対する科刑がしだいに重くなりつつあることを示すものと思われる。

(二) 公判の審理期間

 憲法第三七条は,被告人に対し,迅速な裁判を受ける権利を保障し,刑事訴訟法第一条は,これをうけて,適正迅速な裁判の実現を,刑事手続の理念の一つとして掲げているが,現状は,いろいろな障害のため,十分な状態にあるとはいえず,裁判の促進を求める声が高い。
 まず,最近七年間における通常第一審の既済事件および未済事件の各平均審理期間を,地方および簡易裁判所別に区別して示すと,II-16表のとおりである。

II-16表 通常第一審事件の平均審理期間(単位・月)(昭和34〜40年)

 これによると,昭和四〇年における地方裁判所の平均審理期間(既済事件については,被告人一人当たりの起訴から第一審判決までの期間をいい,未済事件については,被告人一人当たりの起訴から各年末までの係属期間をいう。)は,既済事件が五・七月,未済事件が一一・八月であり,簡易裁判所では,既済事件が四・二月,未済事件が八・四月である。
 地方裁判所の平均審理期間が,既済,未済のいずれも,簡易裁判所より長くなっているが,これは,地方裁判所が簡易裁判所に比べて,複雑な事件を取り扱うためと考えられる。また,この表により,平均審理期間の推移をみると,地方裁判所は,年により多少の増減はあるものの,ほぼ,横ばい状態にあるのに対し,簡易裁判所では,既済事件の平均審理期間が,おおむね,増加の傾向を示している。
 つぎに,昭和三九年,同四〇年の平均審理期間および平均開廷回数を,通常第一審事件全体と主要罪種別とについてみると,II-17表のとおりである。これによると,贈収賄事件および公職選挙法違反事件が,他の事件に比べ,平均審理期間がきわめて長く,通常第一審事件全体の平均審理期間の二倍ないし三倍となっていることが目につく。とくに,昭和四〇年では,公職選挙法違反の平均審理期間は,通常第一審事件平均の三・八倍,平均開廷回数は,二・九倍に達している。当選人にかかる公職選挙法違反の刑事事件の判決は,事件の受理から百日以内にするように努めなければならないとされているのにかかわらず,憂慮すべき現象を示しており,この点について,なんらかの方策を必要とするように思われる。

II-17表 通常第一審事件および主要罪種別平均審理期間等(昭和39,40年)

(三) 上訴

 昭和三二年わら同四〇年までの上訴率の推移は,II-18表のとおりである。これによると,控訴率は,約一二%ないし一五%で,各年とも,簡裁事件の控訴率が,地裁事件の控訴率より著しく低いことがわかる。上告率は,控訴率に比べて,きわめて高く,四〇%前後を上下している。

II-18表 上訴率の推移(昭和32〜40年)

 つぎに,控訴または上告には,検察官のする場合と,被告人側のする場合と,その双方からする場合との三とおりがある。司法統計年報により,昭和四〇年の控訴審新受人員一二,三四五人につき,右の三つの場合の比率をみると,検察官のみの控訴は六・二%で,双方からの控訴が三・一%であり,被告人側のみの控訴が九〇・七%を占めている。上告になると,さらに,この比率の差は,著しくなり,昭和四〇年の上告審新受人員三,八三五人のうち,検察官の上告は,双方からの上告を合わせても,〇・五%にすぎず,九九・五%は被告人側の上告によるものである。
 つぎに,上訴の結果であるが,最近五年間のうち,昭和三六年,同三八年および同四〇年の状況は,II-19表20表のとおりである。すなわち,控訴棄却率は,五八・七%ないし六〇・九%であり,これに控訴取下げの率を加えると,三年間を通じ,約七四%は,控訴がその目的を達しなかったといえる。これは,全控訴申立事件についての裁判結果であるが,検察官控訴の棄却率は,右三年間を通じ,約三七%であり,被告人側の控訴が棄却される率より,かなり低くなっている。

II-19表 控訴審終局被告人の終局区分別人員と率(昭和36,38,40年)

II-20表 上告審終局被告人の終局区分別人員と率(昭和36,38,40年)

 また,上告棄却は,八〇・九%ないし八四・五%で,これに上告取下げを加えると,その合計は,約九九%にも達し,破棄率は,わずか,約一%にすぎない。このことと,上告申立ての九九%以上が被告人側の上告であることをあわせ考えると,被告人側が行なう上訴申立て,とくに,上告の申立てには,理由のないものが多く,これが裁判所の大きな負担となり,ひいては,訴訟遅延の一因をなしているのではないかと思われる。
 つぎに,最近七年間の控訴事件および上告事件の各平均審理期間をみると,II-21表22表のとおりである。昭和四〇年における控訴事件の平均審理期間は,既済事件が六・一月,未済事件が七・九月で,上告事件では,既済事件が六・四月,未済事件が五・二月となっている。上告事件の平均審理期間が逐年減少の傾向を示しているのに対し,控訴事件の平均審理期間がやや延長の傾向を示しているのが注目される。

II-21表 上告事件の平均審理期間(単位・月)(昭和34〜40年)

II-22表 控訴事件の平均審理期間(単位・月)(昭和34〜40年)